人間の体は不便だ。そんなのハナっから分かってた。
それから、社会ってシステムも大分不便だ。
けど、俺はなんとかそこまで漕ぎ着けた。

MZD −音祭−

 六本木のクラブに入り浸りながら、俺は様々な方面に顔が効くようになった。ま、なんつーか俺の人望や人柄はちーっとばっか人より秀でてるらしい。そういえば、クラブで知り合ったジュディってのが、話術に長けてる、とか言った気がするなァ…

 ここ三年で俺は六本木の悪魔と呼ばれるDJへと成り上がっていた。フライヤーにはセンスが光るだの最高の聴音だの良く判らない解説が並ぶが、俺はただ俺が良いと思ったようにやっただけだ。まッ、そんなのもぜェんぶ、俺が音楽で何かやりたいッて、その為の下準備に過ぎねえ。

  クラブでマリィってのと、ジュディってのに会った。マリィはもうすぐプロになるってモノホンのダンサーで、クラブで踊るのもピカイチ上手い。そんでもってジュディは親の都合で度々日本を訪れてるらしい。コイツもマリィにタメ張るくらいのダンステクがあるんだけど、二人にゃ面 識がない。どーにも示し合わせたように時間をずらしてくる。ま、コイツらが音楽にノってダンスすることの楽しさも教えてくれた。音と踊りってのは、切っても切れねー、深ァい縁が有るらしいんだわ。

 それからショルキー。なんてーか、コイツ無しに今の俺は無いね。ちょっと場所は開かせないんだが、ある中古のレコ−ド屋で俺がレコードを買おうとしたら、レジに行く前に行く手を阻まれたわけよ。んで、その一枚を譲ってほしい、なんて言うんだわ。どうもコレが最後の一枚、他の店をどれだけ捜しても無かった貴重品、是非欲しい、って感じで。俺はソイツにそのレコードを、まーしょーがねーって投げた。したら、先に会計済ませて店の外にソイツまだ待ってンのよ。んで、俺が出てくと、名刺渡してきた。レコードの好みが似てたらしくて、俺に興味持ったのは有名プロデュ−サーのショルキーだったワケだ。
 ショルキーのお陰で俺の視野や見聞はもっと広がった。音楽をやりたいのに出来ない奴が五万といる事や、アーティストの事情とかな。

 ま、そんなこんなしながら、俺はようやくデカい会場を一日貸し切りにできるだけの金を貯金通 帳に印刷されるのを見れた。

 俺はすぐに印刷業者にポスターの印刷を依頼した。ニ百枚くらい刷って、ショルキーを伝手に知り合った外国のプロデューサーの何人かに適当な場所に貼ってもらうよう頼んだ。もちろん、俺も自分の足で目星付けてたクラブにバリバリ張って、あとは寝て待ってんのが、ま、賢明。

 一週間待って、二週間過ぎて、三週間四週間、二ヵ月してようやく締め切りの日になった。俺の手元にダンボール三箱分のデモテープがぎっしりだ。何のポスターだったかッつーと、今度やる音楽祭りに、歌とダンスで参加しませんか?ってな勧誘のポスター。予想通 り、各国から申し込みが殺到した。こりゃー選考にも時間が掛かるぞ。とにもかくにも、一つずつ聴いてみる事にすっかなァ…。

 最終的に十五曲が候補、五曲がまァ、保留ってなカンジになった。すげぇよなァ、俺みたいのがアピ−ルしただけでこれだけ集まるなんて思いもしなかったし。…ま、選考に俺の私情が挟まっても文句は無いだろうな。てゆーか…俺は悪戯好きなトモダチってやつ、大好きなんだよな。

 俺はまた印刷業者に印刷を頼みに行った。今度はチケットだ。一応、ちっと狭いがホールの会場だから千人は入るだろ。確か借用書にも書いてあったし。てなわけで千人分のチケットが刷り上がった。

 一枚千円。妥当な値段だよな?クラブで支配人に頼んで一緒にチケット売ってもらって、知り合い連中にまたコネで売ってもらって。どうにか完売した頃、リハーサルの時期になった。もちろん、そこで初めて、俺は曲を送ってきた奴らと顔を合わせたんだけど。さてさて、この面 子でどーなるかね。

 

 まァ…祭には皆来てくれただろうから、深くは言わない。ただチョコっと説明するとだな。
 まず司会はミミ、ニャミってバラエティー番組とかの大物司会が駆け付けた。それとキングって熱い男も。そこに俺がマリィとジュディを入れた。てゆーか聞いてくれよ!ジュディのやつ、俺に曲送ってきたんだよ!まぁったく…名前偽って送ってきやがッて。お陰で顔合わせの日に心臓飛び出しそうになっただろ。あ、ミミとニャミと、キングはさ、ショルキーが呼んでくれたんだわ。本当ならこーんなちっせえイベントに出るような奴らじゃないけど、今回は協力してくれた。ミミとニャミは持ち前のノリの良さがすげー好きで、この前一緒に食事言ってきたりしたぜ。それからキング。コイツもちょっと一癖あるがそれがイイ味だしてる。トークのノリはきっとミミとニャミに負けねえ。
 それからショルキー。こいつも曲を送ってきてた。もちろん迷わず採用。あったりまえっしょ、プロだぜプロ。落とす理由もないし。…いや、曲が、さ、すげーの。俺があんま聴いた事無い感じの、テクノだっけ。あれはマジでキた。
 リエは服飾系学校の生徒で、ダンスはちょっとばっかトロい。けど、友達のスギとレオってのが提供した曲にリエの雰囲気は良く似合ってた。歌は歌わないが、俺はあの声で歌わないのは勿体無いってばっか思う。
 ディーノは名前まんまの恐竜王子。メルヘン王国の親睦を深める為に、本当は別 のやつだった曲の担当がディ−ノに変わった。もちろん、いっくら子供とは言えメルヘン王国の民だ、炎を吐いたり尻尾で立ってみたり、なんとなく愛嬌のある動きがウケてた。
 んでもってジャムおじさん。コレがまたウケ狙い系ッて言うか…いや、すげえのよ、ラップ。あんな風な歌い方もあるんだって初めて知ったし。でもなーんか…オリヴィアにまとわりついたり着ぐるみ着たり、妙なオジサンだったぜ。
  南米からはるばるやってきたのがドン・モミー。これがまた凄い。熱が。ラテンってのは情熱のダンスとか言うけど、会場もうすげえ熱さだった。こんだけ熱いオトコも中々いねーんじゃね?
 そういや、ジュディはダンス系のポップスだった。なんだ、普通に歌もできるんじゃン。
 パリから来てくれたのはシャメルって女。けーど…俺だけ知ってる秘密。こいつ、怪盗なんだ。普段はカフェのオーナーらしいが、俺の影が仕入れてきた情報に寄ると、怪盗シャメルってな有名なやつらしい。ま、ディスコ的な音楽もダンスも問題ないからな。俺も踊ったし。
 今回もしかして一番迷惑かけたのがこの娘だ、オリヴィア。どこぞのラップ親父がレゲエとラップが似てるとか言いながら毎晩ホテルまでつけてってたみてーだ。最終的に俺の影をボディガ−ドに付けたけどよ。実際、淑やかな娘で歌も中々だった。
 神風トオルはテレビでチビッ子に人気のギャンブラーZの乗り手だ。けどヒーローと歌は何かと縁があるのか、中々熱血な歌いぶりが会場を沸かせた。しかしパチンコ屋の息子、店の宣伝までちゃっかりして行きやがったな。
 そういやロシアからはロボットが来てくれたな。最初は軍用機だったらしいが、今じゃ家庭に一台のお手伝いロボット。簡単な音の組み合わせが最高にイカしたポップな音楽に変わってた。ああやってできるもんなんだなぁ…。
 チャーリィはその素性をあんまり明かさねー様にって再三注意されちまったが…ま、マイホームパパとだけ言っておくぜ。曲はらしい感じだ。銃声はどうやって録音したのか是非問いつめたい所だよな。
 それと、バンブー。コイツは中々クセモノだった。ってぇのも、初対面のキングとあっという間にフィーリングの共有を果 たしたばっかりか、共演の約束までしちまった。この所為で第二回も開催を余儀無くされちまったわけだが…俺としちゃ、嬉しいハプニングだったよ。もちろん、バンブーのディスコな感じの曲は良かった。シャメルがノリノリだったのは楽屋裏の内緒話だ。
 あと…最初に告知してなかった二人を出演させてみた。一人はリエの友達のさなえ。彼女は大人しくしっとり歌い上げた。あの声はハッキリ言ってすげー魅力的で、うん、二回目も絶対出てもらおうって思った。凄いんだ、会場が静まり返って、皆が耳を傾けてた。
 最後は…俺も素性から何から良く知らないが、レイヴガール。でもどう見てもマ…いや、何も言わねえよ。最後にこの娘で良かった。レイヴはダンスとしてもやりやすく、最後までノリノリでパーティーを終われたんだ。

 っとまぁ…
 こんな感じでパーティーは終った。この日は俺の中で歴史に残ってる。本当、ようやく成し遂げたけど…
 やっぱ音楽っていいなァ…病み付きだ。

 その後、リクエストで録画してたビデオをダビング、ついでに補欠五曲を収録して販売した。これが面 白い様に売れてあっという間に完売。
 俺はすぐさま第二回の準備に取りかかったわけさ…

 

 そりゃまた別の話。

 

MZD −音祭− 終

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