手を繋ぐ

 

 池袋を歩く。その時、ふと思い出した。
 「人込みに紛れるんだから良いじゃない」

 あれはどっちが言ったんだっけ。

 豚はしばし考え込んだ。
 そっとその思い出が頭を掠める。その時、結局手を繋ぐことはできなかったけど、でも後でキスを貰ったから、それでいいと思った。
 豚はもっと考えた。あの時擦れ違った人達がいた。よく二人で遊んでいた。あの二人はとっても仲が良くて、少しうらやましいくらいで。いいなぁ、あんな二人。いいなぁ。

 不粋なことをした思い出も在るけど。

 豚は池袋の人込みを何度も行ったり来たりした。
 考えてるのはひらひらした黒いモノの事。
 さあ、どこで手を繋いだっけ。独り言を言いながら何度も何度も考える。何度も何度も何度も何度も考えて、

 あ、そうか

 と一人で納得した。

 手を繋いだのは心だった。きっとそうだ。

 豚はにっこりと微笑む。誰にも悟られない様に。

 だって、いつも手は繋いでいたもの。