確か金曜日だった。
地下鉄
豚はいきなりの出来事に驚きながらも地下鉄に乗り込んだ。
この前は同じこの地下鉄に一緒に乗った。今日は違う線が出会う同じ駅へ急ぐ。呼ばれた。そんなことは久し振りだった。どうしよう、どうしよう、どうしてあんなにメールに切羽詰まった文章が?
いた、と豚は小さく息を漏らす。そこに立つひらひら。ひらひら…。黒いひらひらはまず笑顔で新しく購入したバッグを見せてきた。刺繍が凝っていてお気に入りになったと。でもそれは本題じゃない。わかってた。二人で入ったイートインができる軽食屋で端っこに座って街の流れを見る。
話す内、ひらひらは涙目になる。泣きだす、それで笑う。
豚は思った。
辞めてくれ、そんな顔で笑うな。頼むから本当の気持ちで泣いてくれ。笑うなら幸せになってから笑って、それまで待つから。綺麗事が欲しいなら幾らでも言ってあげる、真実が欲しいなら出来る限り探してあげる、僕に出来る事なら何でもする、君を守りたい、守りたい。切実な気持ち等言葉に出来ない程、ひらひらは泣いた。嫌がる頭を撫でると少しだけ息を飲む。それで落ち着く。でもまだ泣いてしまうひらひらを、豚はどうして、愛しいと思った。涙する顔さえも愛しくて仕方なくて、二人で何処かに逃げてしまいたかった。
帰りたくない
一人暮らししなよ
全部鼻声で告げられた言葉。明日になれば忘れるから。そんな嘘を豚は信じられなくて。
二人でしばらく街を彷徨う。夜の街、もう大分寒い。でも月末だから、と笑う事しか豚には出来ない。ひらひらは、うん、と頷いて豚に寄り添って。
ジャンクフードの夕飯。ひらひらは帰って食べるのを嫌がった。だから今日は二人で済まそう、それくらいなら持ち合わせてる。豚とひらひらは向かい合って食事をした。
地下鉄の駅。普段は地上でお別れだけど、今日は豚が見送られる。
けど、まって。地下鉄に備え付けのトイレ。そこは人はいなくて。
豚はひらひらの手を引いた。
ふと目がさめる。ああ、夢だった。いっそ醒めなけりゃ良いのに。
豚は思う。地下鉄の終点。豚の家はもうすぐそこだった。