若い分ストレ−トななんだろう、と思う。
俺が同い年のころよりももっと単純で、素直だ。
時々、気まぐれなんだけど。B-style Duel×Ereki [Straight]
「ねぇ、デュエル」
別に酒が入っていたとか、罰ゲ−ムってんじゃなかった。ただ、たまたま帰りが二人になっただけだ。
「俺ね、デュエルのコト、好き」
「はァ?」
服の裾を掴む手の持ち主が歩みを止めているせいで、俺も止まらざるを得なかった。
最近確かによく一緒に行動して居たのは分かる。タンニングした肌の色が格好良いと思って、連れていけと言って早一年、サロンに行くとなれば必ずお互いを誘うような間柄。バーテンを始めた頃にエレキテルの試飲は俺が一人目になった。ゲーセンでもよくバトルしたし、たまにセムん所の店も二人で行ったりした…
これが、相手が女なら、まあ分かる。
けど、服を掴む手のゴツさ、それなりに筋肉がついている体、どう考えても喉仏がある首、極め付けに一緒の場所のトイレを使っている事。どれを取っても男だ。
「エレキ、頭でも打ったのか」
俯いているせいで白髪が顔を隠している。全く、なんていう冗談だ。
反してエレキは頭を横に振った。
「本当だって、本当にデュエルが好きなんだ…」
伺いをたてる様に少し上目遣いに見上げる目が、少し熱っぽい。
…本気か。
「デュエル…」
その手は縋る様に強く、握られた。
まだ人通りも多い新宿のど真ん中。俺もエレキも目立つ容姿のせいでちょっと軒下から覗いているような奴もいる。もちろん、俺としてはこんな場所で目立つ事をするのは避けたい。知り合いだっている街なんだぞ、ココは。とりあえず、と、新宿から山手線で、俺の自宅までエレキを連れて帰った。
「ねえ、ねえってばデュエル!」
終始そうやって俺にまとわりついて歩く。嫌いじゃないから邪見に出来ないし、逆にその言葉にああそうかって感嘆に頷く事は出来ない。俺は板挟みだった。…好きの中のレベルが俺にとってどこまでなのかで板挟みになっている。
「デュエル、なぁッ!」
無視する様に、でも距離が開けば立ち止まって手を引くような、中途半端な距離感のまま、俺の部屋に着いてしまった。
鍵を開けて、まず紅茶を沸かそうと思う。座れ、と言えばエレキは指定席のパソコン横のサブチェアで大人しくなった。先ほどの様に急いた様子が影を潜める。落胆の色、もしかしたら諦めた雰囲気がなんとなく、伝わる。
陶器のカップを温めながら、ダージリンを。
何かつまめるものがあったかと冷蔵庫と菓子箱代わりの紅茶の缶を漁るが、見つかったのはバタークッキーが少しだけだった。どうしたらエレキは諦めるだろうか、と考える。
ポットが暖まるまでの時間、俺はゆったりと考えを巡らせる。
建て前はこうだ。エレキに、道を踏み外している事実を教えてやろう。男が男に恋をするなんて異常なんだと、そう言えばきっと諦めるだろう。そう考えた。
本音はもっと別の所にある。
俺は恋愛に形なんてないとか、そういうことを思ってる方の人間だ。惚れるなんて突然の事で、その相手が男か女かなんて、飽和した人類の本能は考えもしない。
エレキに告白されて、正直な話悪い気はしなかった。どっちかっつーと、嬉しかった。けど、エレキはちゃんとして生きて欲しい、俺はそんなことを考えたかも知れない。
弟みたいなエレキが、新宿に来て、ちょっとずつ、ちょっとずつ変わっていく。言い換えれば成長していく様は、俺にとって兄気分を味わうには十分だった。
その『弟』が 、俺のせいで、ちゃんとした人間と言う枠を外れるのは耐えられない。それに、俺は『人間』に愛されないだろう。
なんせ、モンスターだから。ギシ、と椅子が鳴った。
仲間内にはエリカやセリカ、リリスだっている。
なのに、何で俺なんだ。「待たせた」
紅茶を注いだカップを目の前のパソコンデスクではなく、その隣の小さなテーブルに置いてやる。エレキは手を伸ばし、そのカップの熱さを確かめると、出しておいたミルクに手を伸ばした。
「なぁ」
答えないエレキは目だけで俺に先を促す。
「なんで俺なわけ?」赤い目が、じっと俺を見据える。
「…兄貴の事を考えると、居ても立ってもいられない」
ぽそり、と見当違いの返答がある。違うだろうと指摘する前に、でも、と接続詞で制止された。
「デュエルのこと、考えると…兄貴の事も、家の事も、どうでもいい気がする。デュエルといる時間があるなら、俺、兄貴に勝ったりしないでいい。ずっと、ココにいたいって思う…」
見つめてくる目に嘘は感じない。逆に真剣になり過ぎて出るボロもない。
参ったな。
「俺デュエルが好き」
どうしようか、と、思う。
「お前、そりゃホモだって言ってるんだぜ?俺はホモじゃねぇし」
暗に道を外していると告げる。
「うん、俺も俺がホモだなんて思わなかった」
ちゃんと分かってるのに、どうして。
問いかけは無意味だ。どうしてもこうしてもない、好きなんだからしょうがないんだ。その答えはとうに俺の中で出ている。
「…」
「…」
心地の悪い沈黙だった。相手の期待する答えが分かる。そんで俺の胸中は…
実のトコ見えてこない。
エレキをどんだけ、好きなのか。「…お前が」
俺が沈黙を破る。それまでエレキは黙りだったってコトは、諦める気はさらさら無いって事だ。負けん気が強いエレキは諦めも人一倍悪い。上手いこと条件提示をして、抗えない様に諦めさせるしかない…
「お前が俺をその気にさせたら、付き合ってやるよ」
エレキはきょとん、と俺を見上げている。
「そ、え、っと、デュエルを、その気に…」
口に出してようやく意味を掴んだのか、顔を紅潮させて俯いた。
ま、簡単に言えばヤる気にさせろって事だ。ヤってこそ恋人なんてチ−プな考え方してる訳じゃねえ、俺がヤる気になるってコトは、相手に相応の好意がある、と俺も自認できる。自分の確認も含めた条件ってコトだ。
ただこれは絶望的な条件だ。何せ俺はプラトニックに徹しようと思えば出来るタチで、今まで付き合って来た女の中にも、一度も寝てない女も居る。…もっとも、寝てすぐに別 れた話も幾つもあるが。
「わ、かった…」
エレキはぐっと拳を握った。
「期限は二週間。俺はカマ掘られる気はないから、良く考えろよ」
エレキは、うん、と頷いてミルクティーを一口啜った。その目は、もう何か考えているようだった。俺、もし本当にエレキが好きなら、ちゃんと全部言えるかな?
とはいうものの、結局二週間、普通に過ごしてしまった。二週間前はまだもう少し長袖が必要な気もしていたが、すっかり夏の暑さが街に氷の旗や冷やし中華の看板を出させていた。
エレキも特に変わった様子を見せず、俺にも変わったアクションはしない。いつも通 りだった。ちょっと、おかしいかなってくらいに。
二週間目の夜、仕事に連休があり、その一日目に久しぶりに遊び呆けて、ゲーセン帰りに是音に寄った。もちろん、エレキがバーテンをしていて、セムも接客にあたっている。
「リリス、なんでセムいるんだ?」
ニクスがメイド姿で接客する看板娘に声を掛けると、
「今日は、定休日なの…Roots26」
なるほど、セムも暇でコッチに来ているらしい。なるほど、客さばきの上手さはここでも発揮されてる。次から次へとメニューは流れ、つまみも留まらずに出てくる。こりゃリリスも十分に一役買ってるな。問題の新米バ−テンダーも上手いことセムの流れに乗ってるようだし。
「デュエル君も一杯どうだい?」
セムがメニューを差し出して来た。そういえばぼんやりしてる間に、ニクスも孔雀もK-naもオ−ダーを取り終り、あとは出てくるのを待つだけのようだった。
「…じゃ、ブルームーン」元々暖色系の多いメニューの中、これは綺麗な菫色だ。パッと見れば香る菫の香りと色に騙されてぐっといってしまいたくなるが、これで中々強い。今日明日が休みで少し酔って帰りたい気分だから、自分を甘やかすことにする。
カウンターの向こうで、エレキがちょっとばかり複雑な顔をしてるのがちっとばっか、気になった。
「ブルームーン、か」
客足が落ち着いて来た為、セムが近くの席に座る。この時間にはもう席は埋まっているが、セムは気付けば自分用の椅子とリリス用の椅子を確保している。
そのセムは、俺の手の中にあるグラスを見て口元に指を軽く当てたまま、小さく笑った。
「なンだよ?」
「いや、それ、面白い意味を持ったカクテルでな」
エレキにも教えてるんだが、とセムはカクテルの名の由来や、その組み合わせの持つ意味、詰まる所花言葉ならぬ 酒言葉を語る。
「直訳なら青い月、なんだが。出来ない相談、なんて連れない意味も持っている。その反面 、レシピにクレーム・ド・バイオレットを使ってるんだ」
ふぅん、とつまらなそうにニクスがカクテルを傾ける。孔雀は興味津々に聞いているが、K-naはメールに熱心だ。
「クレーム・ド・バイオレットはフランス語ではパルフェタムール、つまり、完璧な愛、という意味でね。出来ない相談と突っぱねているにしては、少々ひねくれた本心ではないかい?」
なるほど、と俺は頷くより他なかった。あっちでエレキが変な顔してるのは、つまりこれのせいか。
「まぁ…意味などあってないようなものさ。楽しんでくれたまえ」
セムは奢りと称してナッツの盛り合わせの皿を残して、カウンターへ戻った。
俺は3人が争奪戦を繰り広げる前に、と、ナッツを一掴み自分用に確保して、菫色のグラスの中の液体を眺めた。…そこに俺の本心が見えるといいな、とか、下らないことを考えた。孔雀が酔いつぶれ、K-naが仕事で席を立ち、ニクスもそろそろ、と腰を上げたころ、俺の元にはバーテンダーからの奢りのカクテルがあった。今日はよく奢られる日だな、と思いながらニクスを見送る。
今度の空色のカクテル。最後の飲むにはちょっとばっかり強過ぎるぞ、こりゃ…。
「それで飲み納めかね?」
セムがグラスを片す。店内にはまだあと二三席に客がいるが、そろそろ閉店も間近だった。そうだ、と軽く頷く。どうやらエレキはセムには言わずに、このカクテルをリリスに渡した様だった。セムの知らない場所から、俺に、か。
「それもパルフェタムールが入っているね。どうしたんだい?」
セムは面白がってグラスを小突いた。中に浮かぶレモンの欠片が揺れる。落ち着いた色のカクテルに、やたら元気な色が混じったもんだ。
「別に…さ、会計してくれ。ケーナとニクスのは預かってるからよ」
孔雀の分はどうする?と、セムがまた悪戯っぽく笑った。会計が終り、さて帰るか、と独り呟くと、後から服の裾を掴まれた。
「…行っていい?」
どこへなんて、聞かなくても分かった。誰が服を掴んでいるかなんて声だけで十二分わかる。
「ああ」
酔いも、冷めちまうって…最後の答えが聞きたかった。
決めかねる俺なんて俺が嫌だった。
こんなに迷うなんて…「ねえ」
また問いかける。終電も近いせいか、人もまばらな電車の中、くっ付いて座る体温が、冷え過ぎる車内には丁度いい温もりだった。
「俺、色々考えたよ」
「…そうか」
俺も色々考えた。
「探せばあるもんなんだね、男同士でどうすればイイか、そういうのも本で調べたよ」
「…そうか」
基礎っつーか基本っつーか、大まかな部分なら同級生とふざけて話し合ったことあったな。
帰りがけに自販機で買ったコーラを手の中で弄びながら、エレキはぽそぽそと続けていく。俺は、ただその事を聞いてるだけだ。気付けば黙り込んで、駅を出た。ずっと黙ったまま、住宅街を通 り抜けて、すぐの坂を少し下って十字路になる場所を左折する。その先にあるマンション。
二週間前に約束を交わした場所。…俺はエレキをどんだけ好きなんだ?鍵を開けて、部屋に入る。暑い部屋にクーラーを入れ、冷蔵庫にストックされていたアイスティーを二つのグラスに注ぐ。氷も入れて、フローリングの上に直に座るエレキの隣に、座布団だけ一枚敷いて座る。エレキに勧めたが、いらない、と返された。
何もせず、なんとなく、紅茶だけ飲んでしまっている。不意に、横に座る人影が動いた。
本当に突然、唇に触れる柔らかさに陶然としてしまう。柔らかい。冷え始めた部屋の空気と正反対に、熱い 。そっと口の中に入り込む柔らかいものを、条件反射的に押し返して俺が中に入り込む。「ぷはぁ…っ」
どちらともなく大きく深呼吸する。それがキスだった。そう気付くのに少し時間が必要で、顔を赤くして唇を押さえるエレキを見て、ようやく、といった感じ。
嫌悪感なんて全く無かった。すっとぼけた俺の意識が、エレキとキスした、あれ、コイツ男だったよな?と言っているかの様な、そんな自然さで、交わしてしまった。
「…デュエル、俺」
流石に剣道で鍛えていただけあって、息は切らせていない。むしろ俺の方が少し呼吸を整える時間を必要としているくらいだった。
「俺たくさん考えたけど…でも、なんか、何しても嘘っぽくて、やだった。なんかただのヤりたがりみたいなコト、したくなくて…」
なんだ、忘れていたりしてた訳じゃねえんだな。
「…ダメかな、俺、こんなことしか思い付かなかったんだけど…」
全然構わない。
そう言えない。
…理由をはっきり言ってやれれば、エレキはもっと早く諦めてくれたろうか。そっと耳を引っ張って、呟いてやる。
「じゃ、最後…最後の条件。俺とのセックスの最中、お前が一言でも嫌って言ったら止めるからな」ベッドルームはクーラーのお陰で少し冷えていた。電気も付けていないが、夏の夜は何故か明るいものだ。お互い服も着たまま、シャワーも浴びずにベッドに入り込む。ここまで来て汗だのニオイだの気にしてシャワーなんて浴びてたら、どっか興醒めするような気がして、そのまま決行。
体のスケ−ルが幾分か小さいエレキは、俺の腕にスッポリ入っちまう。
「あ、あの、さ…!」
デカい俺の下敷きになり、もがく様に手を延ばしながらエレキが小さく叫ぶ。
「あん?」
「あの…デュエル、あのさ、もし、俺のコトが嫌になったら、すぐ止めてね?」
意味を汲み取れず、腕で体を押し上げ、下敷きだったエレキの顔を眺める。エレキは上気した顔で、俺を見上げ、俺が意味を汲み取れていないのを見て取ったのか、クスクスと小さく笑い、白い髪の毛を揺らすだけだった。その腕が、俺のバンダナを外す。
「…なんでもない」
悪戯っぽい笑いに誘われる様に、もう一度口付けた。タンニングしている肌は少し荒れていた。なんでも、兄を追うことに必死で火傷も構わずに焼いたらしい。そこまでされてる兄ってのは、ちょっとばっか羨ましい気もする。
胸を撫で、腹を撫で、腰を撫でてもくすぐったそうにするだけで、特に感じはしないらしい。女だったら大抵は感じるようなやり方で、尻を撫でてから、ない乳を軽く揉んでみる。それでも、なんだかいやらしいね、と笑うだけだ。まだヤる気分にはなってないからなのか。乳首すら立っていやしない。しっとり汗ばんだ肌は、まだ性行為への前兆すら見せていなかった。
くすぐったいと繰り返すエレキを見て、なんとなくムキになった俺は、不感症じゃないんだろうがよく笑うコイツのズボンを一気に脱がして、ズレた下着も引き降ろす。そこだけ焼けてない、白い性器が露になった。…他で感じないなら直接やるまでだ。
「わッ…」
嫌、と言いかけたのか、手の平で口を押さえる。構わずに根元から先端までを包み込む様にして親指で扱いてやる。
さっきまで無反応だったのが嘘の様に反応を返してくるのが面白い。
「ふむッ…うッ…」
手の中でくぐもった声を上げながら、快楽に溺れる姿が可愛いと思う。柔らかく撓る体が、必死で膝を立てて足が閉じない様にしながら、どうにか空けた左腕でシーツを掴む。
「…ッにゃッ!」
なんだ、今の。手を止めて、からかってやろうと目を上げて…俺は目を疑った。ギャグなのか、はたまたマニアックな趣味なのか。
なんで黒い猫の耳があるんだ。
「あ…」
その視線に気付いたのか、エレキが手を頭上に伸ばす。手で確かめる様に、軽く握った。
「…え、と。…さっきの、分かった…?」
俺のコトが嫌になったら止めて、か。
視線を落とせば腰の辺りから黒い細身の尻尾が生えて、太腿に絡んでいる。柔らかいそれは耳と合わせて丸っきり猫そのもの。肌の黒さと相まって、黒猫と呼んでも差し支えなさそうな、そんな様子だった。
「俺ね…セックスし始めると、こうなっちゃうんだ…」
足を引いて、そこに座り直す。足を崩した座り方で、さりげなく股間だけは隠すが、背骨の終わりから生えてる尻尾が妙にいやらしい。手を前についてちょっと前屈みになっている所為で、ますます猫に見える。
「やめていいよ?俺も…諦めるから」
ふざけ半分なのか、にゃーお、と鳴いてみせる。手を丸めて顔を洗う真似なんか、自虐的だ。
「…馬ー鹿」
頭を引き寄せてやり、耳ごと頭を撫で回してやる。驚きに尻尾が突っ張ってるのも、また猫らしい。
なんか、士朗があんだけ猫に入れ込むの、ちょっと分かったかもな…
「俺もな、狐なんだよ」
黒い大きな耳に囁いてやる。耳が跳ねた。少しだけ胸から距離を離して、見上げてくる瞳も大きく見開かれている。縦に割れた瞳孔が、驚きと暗さに大きくなって俺を反射している。
「そうなの?」
頭上を探す視線が、その言葉の元になるものを見つけられず、また俺の視線とぶつかる。
「…もう少し、続けたら、な」
まだ俺の秘密が出るのに、気持ち良さがたんねえよ…
そうやってまた、エレキを下敷きにした。「にゃぁ…」
一度感じ始めた体はどこに触っても気持ちいい。それはお互いに言えることで、熱を持った体は艶っぽく、触ってて気持ちいいし、エレキにしてみればどこでも触られるのが気持ちいいらしい。悪戯な気持ちで握った尻尾の根元が、意外にも性感帯だったらしく、甲高い声を上げて惜し気もなく快感を表す様は、俺をも加熱させた。乱れた男はそれでも艶かしいものだと知る。
「ほら、エレキ…嘘じゃないだろ」
褐色の胸に頭を擦り付けてやる。間違いなく、くすんだ橙色の逆三角形が二つばかり飛び出しているはずだ。緑色の髪の毛の中から出てるから、相当目立つ色合いで。
「ほんとだ…」
エレキの指が耳をくすぐる。猫にでもやるような感じで、耳の裏っ側を優しく掻いてもらうと本当に気持ちいい。…そういや、耳、人に触らせんのは初めてだ。
「デュエル…猫みたい」
「猫に言われたくねえな…」
笑い合う自然さが嬉しい。そうしながらお互いの尻尾を持って遊ぶ。短くてつやつやした毛並みのエレキの尻尾はやわらかく撓る。反して俺の尻尾は毛の一本一本が長くて細いもんだから、膨らんで元の太さより太く見えた。エレキはその膨らみに手を突っ込んでうっとり、やわらけー…、なんて呟いてる。
「悦に浸るのは構わねぇけど、最中なんだよ」
黒い尻尾を解放し、今度は耳を甘噛みしてみる。
「にゃぁッ!わ、わかった、よ…」
ゴソゴソと動いて、俺の手を取り、その手をおもむろに股下へと運ぶ。
「…ココ、指で拡げて」
どう考えても排泄器官だろう、と思う。けど、男と男って不自然な状況だ、ソコしかねえわけだ。
言われるまま、指を入れようとする。
「あ!タンマタンマ!」
ジタバタと足をばたつかせながら後退(俺の下にいるから、俺の前方に動いたと言った方が合ってる)して、キョロキョロと部屋を見回す。動くに従い揺れて頭と反対方向を向く尻尾になんとなく目を奪われる。
「な、なんかクリームとか、ない?」
ベッドサイドの棚の引き出しを開けて漁る猫の手。どこにやったかな…
「多分、その引き出しの奥」
記憶が正しければ、と小さく付け足しながら、焼けた体を見る。剣道やってたって言う割りにゃ細い気がする。テレビで見た剣道の選手はみんなガッチリした体形で、腕も足もコイツの二倍はありそうに見えた。
「あ、あった」
とりだしたのは、エレキの手の平に収まるくらいの円筒形のケース。俺が冬場に使う保湿クリームだ。実家から持って来たもので、日本に来てからも世話になる回数は減らない。寒い時期は乾燥するからな。
「これ、使ってよ」
保湿クリ−ムを今何に使えと。
思いきりしかめ面だったのか、エレキが苦笑した。
「女じゃないから、濡れないんだよ。濡らさないと」
ようやく合点いった。なるほど、と俺はエレキからクリームを受け取る。するとエレキも元の位 置に戻って来て、深呼吸を一つ。
俺はクリームを指に取り、まずこれからヤる場所に塗り付けた。もう一度クリームを手に取って、今度は指を押し当てる。
「…痛くても、文句言うんじゃねえぞ」
「分かってる…」
ぬる、と滑る。くっと力を込めると、指は滑り込んだ。
「…っ」
驚いたのか、ビクリと体が一度震えた。かく言う俺も少し驚く。体内は熱い。クリームの冷たさが段々温度を持っていく。
広げないと、と、少しだけ指を動かして、輪を描く様にした。
「いッ…っ」
狭いな、と思った辺りを押した時、エレキが唸った。痛いだろうな。俺だったら絶対ゴメンだ。きっとこんなことされたら相手蹴り飛ばして逃げる。…それをしないエレキは、それだけ俺を好きって事?
後はしばらくその繰り返しだった。押し広げては指を進め、広げる度にエレキは呻いて。本当にこんなんで気持ちよくできんのか?今からでも止めた方が良いんじゃないか?現に、あんま痛いもんだからエレキの息子は萎んじまった。
「やめるか?」
俺がそう問いかけても
「やだ」
その一点張りだ。
そんなやりとりの内に、突然エレキが声高に鳴いた。
「ひぁッ!」
俺もびっくりしたがエレキも相当びっくりしているらしい。耳の毛逆立たせながら俺を見つめる。
「…そ、そこ…よかった、かも…」
もごもごと言って、今日何度目になるのか、顔を赤らめた。確かに、今指先に少しだけ引っ掛かるものを感じた。確かめるべく軽く指を引き、もう一度その場所に触る。
「ッあ…」
今度こそ嬌声だった。確信してそこを掠める様に触ることを繰り返す。背中が反って、腰が浮きかけた。
「は、あ…ッんん…」
尻尾が腕に絡んだ。エレキは少し膝を寄せて浮いた腰を抑え、後頭部の枕を掴むべく後ろに延ばした二の腕を軽く噛み、声を押さえてるが、体は内側からの感覚に従順に反応して、一度は萎えたものをまた興奮状態にしていく。掠める度に指が締め付けられて、ココに挿れるのが少し楽しみになった。…よく締め付ける方が気持ちいいもんだから。もちろん、そんだけなわきゃないけどな。
「にゃぁ…ふ、ぅうッ…」
荒く、息を切らせるエレキ。もう尻尾も毛が逆立ってて、なんか、たわしみたいだ。すっかり熱を取り戻して、目が熱っぽく潤んでる。
指を抜き取るとずるっと濡れた音がした。やらしい感じ。もういいよなぁ…勝手に終らせることにした。よく溶けた保湿クリ−ムが、まだ指にまとわりついていて、ちっと気持ち悪い。今指を抜いたばかりの 場所は、ちゃんと広がっていてクリームでぬらぬらピンクとも赤ともつかない色で光ってる。
「…デュエルぅ…」
腕から尻尾がほどけて、くねり、と宙に円を描く。汗ばむ褐色は呼吸に上下しながら俺の次の行動をまっている。ぴくぴくっと、定期的に震える耳も、中空にS字になってフラフラしてる尻尾も、シーツを掴む指も、枕を掴む指も、膝を立てた足も、全身で俺を待っている。少しの間だけ、どうしてか間を開けちまった。が、すぐに気を取り直す。
膝の下に手をいれ、もう少しだけ開かせる。次には腰を上から押さえる。いちいち尻尾が過剰に反応してくねくねと動いているのは、どちらかというと笑えた。その笑いが漏れたのが見えたのか、エレキは笑い事じゃない、と頬を膨らせる。
位置を定めて、一呼吸。
「泣くなよ?」
「…自信無ェ〜」
苦笑混じりにそれだけ言って、身構える様にシ−ツと枕を掴み直す。
「外出しの方がいいか?」
妊娠はしないだろうが、なんとなく心配になって聞いてみれば、
「中出しでいいよ、別に性病とかないだろ?」
クスクスと、笑いながらほんの少し眉を寄せて苦笑した。そりゃ、確かに性病はないけど、でも女と違うし、ゴムも付けてないのに、いいのか…。
俺は憮然としたまま、もう一呼吸して先を滑り込ませる。
「ッ!」
以外と呆気無く、まず先だけは入った。
「…ふぁ…は、いった…?」
体内に侵入される感覚ってのはどんなモンだろう。
「まだだ」
ゆっくり腰を進め始める。十分広げたと思ったのに、押し広げていく感覚。それは痛むのか、エレキは唸り続け、尻尾を震わせていた。
押し込む内に、エレキの「よかった」場所に触ったらしい。
「あッ!」
声と共に締め付ける。快感に力が入って、だと思う。それは俺が今まで味わったことの無い、新しい快感だった。ぎゅっと搾られるような、吸い付くような。
「ふにゃぁ…デュエル…、とま、らないで…」
促され、また奥へ奥へと押し進めた。
エレキはすっかりお互いの体がくっ付くまで、ずっと悦に濡れた声を上げた。俺がその場所を擦っていくだけで、先端が濡れてく。その様を見て、再びエレキが男だと認識し直しても、嫌悪感はなく、むしろ愛しくて愛しくて仕方が無いくらいになっていた。密着した状態で、少し間動きを止める。エレキは荒く熱く呼吸しながら、尻尾で俺の腰やら尻やらを触って、尻尾を探していた。あわせる様に尻尾を動かしてやると、短毛の尻尾がゆっくり絡み付いて来た。
何も言わなくても、良かった。エレキも何も言わない。俺も何も言わない。
エレキがシーツと枕を手放し、腕でベッドを後に押す様に上体を起こして、顎を上げてキスを求める。応えて顔を近付けて、まずは触るだけのキスをして、一呼吸離れて、舌を挿し入れようとすると、伸ばした舌先に、エレキの舌先が触る。お互いに柔らかい、その塊が、滑って逃げない様に気を使いながら、まるで猫がミルクを飲む様に舌を合わせあう。本物の獣じゃないから、さして長くない舌。その距離は鼻と鼻がぶつかるくらいなもので、そうなる度に笑って吐息がリズムを崩す。
舌が離れ、褐色の額に張り付く白髪を見る。無理に色を抜いて、少し軋む髪。肌の色を透かすような、透明な色に見えて、俺はきちんと結われた髪に手を伸ばす。散々ベッドの上で押し付けられた為に、結び目が少し弛んでいた。
「ほどいていい?」
ようやく、一言発する。エレキは頷くだけだった。その顔は紅潮しながらも、喜色の笑みを浮かべていて、俺はひどく嬉しくなった。なんでコイツが笑ってるだけで、こんなに嬉しいんだ。そんな単純な喜びを持っている自分が、なんとなく、好きになる。
結び目らしい場所に指を掛け、すっと引いてしまえば、白い髪がばらり、と汗の重みで肩の上に広がった。張り付く白が、黒い体に映えて輝いて見える。その輝きから生える黒い耳も、明確なコントラストを持って俺の視界に入る。
髪の毛をほどいて思う。誰かに、似てないか?
「デュエル、耳触っていい?」
褐色の手が、俺の両頬を挟んでいる。挟むと言うよりは自分の方向を向かせる為に支えている、と言った所か。俺はやっぱり頷くだけの返事をして、その指が動くのを待った。
恐る恐る、でも、乱暴でもなく、ただ静かに指が形をなぞる。上から下へ、下から上へ、毛の薄い内側も。目を閉じて動きを追えば、その指は犬や猫にする様に頭を撫で始めた。
「イヌじゃねえよ」
「犬みたいなモンだよ」
声が上機嫌で明るい。笑った時の前歯が、なんとなくやんちゃ小僧だ。年の割りに子供っぽいとはいつも思ってるが、こうやって正面 の笑顔を見ると、ますます子供っぽく見える。ほどいて広がった髪の毛も、どこか幼さを感じさせる。
「狐だろ…」
短く息を吐いて、腕を取るなり重なって上半身をベッドに沈み込ませた。絡んだ尻尾がするりと擦れる。
「入れっぱなしで我慢させんなよ」
あ、とエレキは意識したのか、軽く締め付けた。
「もう動くぞ、いいよな?」
こくん、と頷く小さな了承の合図。俺はエレキの後頭部と腰に手を回し、動かない様に腕の中に固定した。すると、エレキも俺の首にしっかりと腕を回して抱きつく。離れられない、離すつもりも無い。なんとなく安心して、俺は腰を引いた。抜けていくのに合わせて、短く吐息が頬に掛かる。
「はぁッ!」
押し込めば甲高く鳴いた。
それから何度も一気に引いて一気に突き上げることを繰り返した。
「ん、あ…ゃ、でゅえ…ッ!」
名前を呼ぼうとしながらしがみつく。力の抜けた腕が必死でいるのは、本当に脆そうだ。
「ふ…ッひぁ、あッ…!」
その癖動けなくなるんじゃないかと思うほどキツく締め付けてくる。でも止められなかった。そんなに簡単に我慢できるような快感じゃなかった。今までの経験の中で一番気持ちいい。気持ちよさが違う。
「エレキ…ッ」
いつの間にか溺れるようにエレキをかき抱いていた。さっきまでは気を遣って柔らかく支えていたのに、もう遠慮無しにしっかりと掴んでいる。乱れて散る髪の毛が顔に張り付く。目をしっかり閉じて、痛みなのか、涙を流して、自分の声に恥じらっているのか唇を噛んだり、それが外れて上がる声に薄めを開けて恥じらう様にもう一度唇を噛み直して、それでもまた名前を呼ぼうとして、嬌声ばかりが溢れる、そんなエレキの顔を見つめながら、俺はもう、半ば自分の快楽の為に動いていた。
「デュエッ…エル!でゅ、エルぅ…!俺、俺もう、もう…ッ!」
赤い目と視線がぶつかる。潤んで滲んでる。こんなに目も腫らせているのに、それでも、俺に絶頂を求めて、自分自身も腰を振り始める。
「イってくれ…」
促す為に囁けば、あとは名前を呼び合いながら腰を振るだけだった。
「にゃあぁ、あ、デュエ…ッ!」
ビクッと、強く痙攣して一際強く締め付けてくる。尻尾も強く、締まる。達して飛び出た精液が俺の腹にベットリくっついた。自分の体がまだ加熱してる所為か、少し冷たく感じる。
「悪ィ…もうちょっと我慢してくれよ…」
まだ締め続けているエレキの中で、何度か突き上げる。
「ひや、ぁッ、あ!」
動くと萎えかけていたモノが、余韻と刺激に少しまた精液を吐き出した。尻尾はほどけて、俺の視界にはどうなってるか見えない。
「…んッ!」
締め付ける心地よさの中、俺はエレキの中に突き入れる様にしてイった。「ッふぁ…」
俺がエレキの中から抜けると、また震える。
「おい、大丈夫か?」
心配になって顔を覗き込むと、はぁ、と吐息する。でも、顔色は悪くない。まだ紅潮していて、髪の毛が汗で張り付いて、少しだけぼうっとした顔。
「あ…うん、大丈夫…」
俺の言葉に数秒間を開けて反応する。まだ消えない耳と尻尾がひくひくして、なんとか意識を正常に戻そうとしているみたいだった。
「デュエル…尻尾」
手を伸ばす。俺はエレキの胸の横に背を向けて座った。途端、尻尾の中に指が入り込む。汗でベタベタしてるだろうに、気にした様子もなく俺の尻尾の毛並みを整えてみたり、顔を埋めてみたりしている。
可愛いな、と思った。猫が甘えてる。
「風呂、いいのか?」
手を伸ばして頭を撫でてやる。
「…明日の朝がいい…なぁ…」
尻尾の中で喋るものだから、くすぐったい。軽く頭を指先で小突いてやる。
「じゃあ、ほら、詰めろよ。俺も寝るから…」
俺が汚れた布団に潜り込んで位置がずれると、エレキは遠ざかる尻尾にくっ付いて俺の腰の辺りに蹲った。
「おい…」
「だってデュエルの尻尾、気持ちいーんだ…」
顔が見えないので首の辺りを掴んで引き戻すと、不満げに耳を垂れて上目遣いに睨む。子猫が相手じゃ迫力も何もあったもんじゃないな。
「今晩は俺と寝ろ」
胸の辺りにある頭を抱き込んで、その頭が摺り着いてくるのを感じて嬉しくなる。まだ耳は消えていない頭を撫でてやる。ピクピクする。
「ん…おやすみ、デュエル」
胸に一つ、跡が残った。夢見心地に、眠り始めて耳の消えたエレキを見る。ほどいたままの髪の毛を、指で梳いてみる。キシキシと、指から流れる。
朝、コイツより少し早く起きよう。
それで、少し長く、寝顔を眺めよう。
聴こえない様に、愛してるって言ってやろう。とりとめもなく、ただ好意が、好きだって気持ちだけが、考えを紡ぎ出していく。それが微睡みに変わるまで、そう時間は掛からなかった。
end
2004/01/14
年末から書き始めて二週間ジャストで終わりです。
この長さでこのタイムは異例です。ハイ。
おいといて。このお話はデュエレのこっそり様へのオマージュです。
色々影響されてるんです。
ぶっちゃけ大嫌いだった女体化とか、
いつの間にか大丈夫になってます。
今回はリアルなセック@を心掛けたかったので。
実際他のエロ小説書きさんなら
避けるであろうワードをモリモリてんこ盛り。
中田氏は自分で眠い頭で書いたのに後で素面で容認致しました。
とにかっく、今回はヒント色々くれた
某姉さんに感謝。
姉さんのお陰で頑張れてます。毎日有難う。
そしてこっそり様、有難う。
いっぱいいっぱい有難うな作品なんです。
2004/02/12
遅くなりましたが、
このきつねこデュエレは無事、
こっそり様ことむにょ吉様に贈りました。
頂いて下さって有難うございました!