最近凄く自分を浅ましく感じる。

 B-style Q-jack×Shem [店主、兄である前に一個人として]

 奴と共通の秘密があると解った途端、私の身体は、私がまるで今まで抑えていたかの様に性欲を露にした。忌わしい事に、私はそれを否定など出来ない。それは私にとって深みに嵌まるには丁度良い心地良さを提供してくれる、そんなものなのだ。
  最近外泊の多いリリスを止める事も稀だ。リリスは訝しがる様子も無く、ナイアやエリセリ、イロハ達と、夜毎女同士の付き合いに励んでいる。 母が早くに他界し、女性らしさについてはリリス自身が自分で学ぶ以外に方法は無かった。ついこの間まで料理のレパートリーが両手の指で足りていたのに、外泊を許す様になってから一気に数が増える。土曜日は都立の高校は休みなので、土日で朝から晩まで、買い物、料理、恋話、ゲーセン、裁縫と、私と一つ屋根の下では叶わない事をやってのけていた。もっとも、ナイアやエリセリに言われて、初めて自宅の裁縫道具が幾らか無くなっている事や電話の回数が増えた事に気付いたが…それが自分で腹ただしかった事もある。
  服の数、料理のレパ−トリ−、そんなものは簡単に気付いた。何せ傍からシスターコンプレックスと言われる程に溺愛してきた妹だ、表面 の変化、内面の心情くらいは読み取れる。…だが所詮私も男だった。リリスの女性らしい部分の感受が上手く行かない。近頃反抗的になった、と思ったが、事実的に私が解ってやれていない状況になったのだ。半ば諦めている。でなければ自分が妹を如何に溺愛していたかなど、言葉になどする事すら躊躇われただろう。実際に他人に言われれば、今は納得できるが、ほんの少し前であれば店への立ち入りを禁止くらいはするかも知れない、そんな状態だった。
  実の所、最近髭と仲が良い。たまたま、何かの切っ掛けで話しただけだった。しかし、その時にはもう、リリスを誑かす悪魔などには見えなかった。役者を目指し、その職が未だ自分の望むものにならず、それでも自棄にならずじっと耐え抜く男だと知った。望みの職で身をたてる苦しさ。私にも長い苦痛をもたらしたものだが、今となっては苦い経験すらも今を生きる糧となる。 そんな状況下、リリスに日々言われ続けていた言葉が、私の中に意味を為さなくなっていた。

 「兄さん、もう私だって一人で色々できるんだから。恋の一つでもしたら?」

  これは今朝も言われたが…今日は土曜日。生活に必要な物を一式もって玄関に立ったリリスにそう言われて、私は言葉を返さなかった。本来なら、「まだ二十も生きてていないお前一人をおいて恋なんてできるものか」と言ってやりたい所だが… 先述した様に、私に共通の秘密を持つ相手が出来た。その相手の愛情だの欲だのを感じる、それだけで私はおかしくなりそうなくらい煽情的な考えに支配される。今日もワインとビールを用意した。これから少し出掛けて知り合いの店にケ−キを買いに行く。殆ど毎週なものだから、売る方はあれやこれやと種類を勧めてくれて、あまり甘いものに興味が無い私がひどく楽しい思いをしている。ケーキの形状、味、トッピング、実はそこに隠された意味。そんなものが、私の創作意欲と欲情を煽る。 気に入ったものを購入して店に帰り、あとは閉店時間を楽しみにするだけだ。…もっとも、望む人間は昼間から居座り続けるのだが。

 「セムー!」
  扉を開けるなり大声で呼ぶ。今日はアーマーを身に付けていないが、ガッチリとした体形の赤髪の男が重い音をさせて店内にどかどかと入ってくる。
 「五月蝿い!他の客に迷惑だろ」
 … 実はこの返事が二択になっている。「五月蝿い!大声を出すな」だと、今日はキスまでで終らせろ、で、さっきの答え方だと…察してくれれば良い。ジャックにはそう答えた。
  「なんだよー…」
  残念そうに俯くその口の端が笑っている。他の客はジャックの大声に驚き、少しの間目が離せないでいた。

 …ああ、今すぐ抱きしめたいのに。

 「あら、孔雀!」
  エリカがすぐさま声を掛けた。
  「エリカお疲れ様だね。あ、それ新しいデザインじゃん!」
  エリカは歩くマネキンを兼ねてウチで販売スタッフをやってくれている。たまに気を利かせて、リリスの話をしてくれるのも殆どが彼女だ。たまに誇張した表現もするので、注意深く聞いていないと彼女とセリカの手の平の上で踊る羽目になる。それは一度経験済みなので慎重に話を噛み砕く事にした。…ちなみに、ジャックは何度踊らされても学習しない。
  居座るジャックと販売スタッフの仕事をしながらのエリカはお喋りを続ける。私はレジの中で新作の図案を考える。お喋りの興がのると、二人でその邪魔を…いや、実際助かっているから、敢えて手伝いと言おう。手伝って図案のコピーを取ってアレンジを加えたりする。アーマーはジャックが得意分野だし、女性衣料関係ならエリカが芸術的なデザインを見せる。それが商品化された時に、何度も何度も手に取り確かめる二人の姿は、私の商品作製意欲に繋がっていると言って差し支えない。 そんな風に、閉店時間は刻一刻と迫ってくるのだ。

 「セム」

 幾分か落ち着いた声。閉店処理の後、裏口から回ってきたジャックは、不意打ちのキスをする。これはまだマシなのだ。まだ仕事の緊張が解ける前だから。

 「夕飯にしようか?」

 舌が入らないキスが終ると、私は昼休みに作っておいたシチューを温めにかかった。レンジではやはり昼間に作っておいたオムライスの皿が回っている。サラダをだして、完了。白いシチューに人参とじゃがいもが浮いて、オムライスにそれぞれキャロットグラッセを添え、サラダを出しておいた。
  手を洗って帰ると、オムライスにケチャップでSHEM、Q-Jackと書かれていた。つくづく器用な奴だと思う。
  「いただきます」
  手を合わせる。 ジャックは日本慣れしていて、箸も使えるし、日本の風習的な食前食後の挨拶やら格式張った挨拶もきちんとできる。たまにたどたどしいのがなんとも愛らしい。
  二人とも生活ペ−スの所為か、殆ど無言で早食いをしてしまう。別に料理が不味いわけでは無い。お互いゆっくり食べる事を忘れているのだ。
  夕飯の準備をして昼食を済ませる。一時間で。それが私の生活。
  ジャックは準備はしないが弁当を三十分で平らげないと次の収録に障る。なんとも緩慢な食事に遠い。

 テレビの番組が替わる前に食事は終った。二人で食器を流しに片す。
 「セム、俺洗い物やるよ」
  それくらいはやりたいのだと言って聞かない。もう随分前から私の家に泊まる時の、ジャックの習慣になっていた。
 「任せた」
  そして私はデザートを出す。今日は冬の新作だと言われた生チョコレートのケーキだ。別 段古くからあっても意味などは無いが、売り人曰く、「チョコレートは艶かしい」らしい。生で艶かしいなど、私が買わない道理は無い。ゆっくりと、ジャックがリビングに帰るまでの時間を、自分を焦らす様にして楽しんだ。
 「お待たせー!あ、今日チョコケーキだ」
 その手に牛乳の入ったカップを持っている。二つのカップをテ−ブルにおいて、消えたテレビの前、大の男が二人、ケーキを前にニ度目のいただきますを言う。なんともふざけた光景だが、これもまた恒例なのだ。
  「ん、甘い…けど、ちょっと苦い」
  生チョコレ−トの上の珈琲の粉はとびきり苦いものを選んであるらしい。その味の対比がまた、食欲を増進させる…もっとも、見ているだけでも私の性欲は多大に増進された。
 フォークでぱくつくジャックを尻目に、私はクリームを直接指で救った。その指がそのままフォークの役割だ。私はそこで一口目を味わう。ニ口目で手の平にスポンジごと掴んで食べる。その時にはもう、ジャックはチョコレートケーキを見ていない。私の顔ばかりを見ているのだ。やがて三口目に入る前に、ジャックが無骨な指で掬ったクリ−ムを差し出す。もちろん中空にそんな事をするわけが無い。私にだ。
  躊躇いもせず、私はその指を舌先で舐めた。びくっと、ジャックが震える。恐怖や戦きでは無い。私の行為に性欲を高めた証拠だった。チョコレートと一緒に溶けてしまいそうな舌を何度も這わせ、指が塩の味を感じさせると、私は不満げにその指を甘噛みする。すると、ジャックはもう一度指でクリ−ムを掬う。彼は気付いていない、その仕種がひどく扇情的でいやらしい事に。
  「セム…」
  ほら、ともう一度指が差し出される。今度は全部口の中に含んで、私が気が済むまで長く時間を掛けて味わっていく。その頃になると、ジャックの両耳がある辺りから、犬を彷佛とさせる平たい耳が生えているのが確認できる。下に向って垂れたそれは、薄く毛も生やしている。こうなると、腰から尻尾も生えている。今は大人しく椅子と身体の間に収まっているが、一度状況が変わると犬と同じに横に振られる。ふさりと、それなりに長い毛の束が愛しい。
  「ぷは…ッ」
  口を離す。ぬめりを帯びて光を反射する指が、私の『耳』に触る。既に人間の形など失っていた。模様からそれは豹の耳だと確認できるが、私は自分で今すぐに見る事は出来無い。無論、ジャックに起きているのと同じ現象なので尻尾も生える。そちらは長く、自分で豹柄だと確認出来た。期待にパタン、パタンとソファを打っているそれは、根元と先端が性感帯だ。ジャックが尻尾を優しく握ってくる時など、そのどちらでも無くても感じ入ってしまう。

 途端、ジャックが私を軽く横抱きに抱き上げた。普段はそのままソファか床で、なのだが、今日はベッドに行きたいらしい。そのまま階段を登り、私の部屋に入ると、ベッドに降ろした私の身体に襲い掛かってきた。
  正に、襲う、という表現は適確だと思う。唇は塞がれ、衣類はあっという間に脱がされていく。下衣だけを残して、上半身を露にされた。 熱が高まる。
  「…ジャック」
  呼び掛ける声は平静ではない。興奮と期待に熱を帯び、少し掠れている。
  答えず、耳を舐める。押し倒されのしかかられて、まるで主人に甘える犬がする様に、丁寧に丹念に、私が弱い所を舐める。…こうしてジャックと戯れる時、私は自分の卑猥さや発情した獣のような…事実、獣、だが…淫乱さを自覚する。それでいてその自分が大好きだ。仕事の時の様に常に冷静、常に動じない。そんな冷たい自分に嫌気が差していたのかも知れないな、と思う。ジャックを誘って、襲わせる。その一部始終私は淫らにいられる。しかも、ジャックはそれを満たしたい、とさえ言ってくれた。
  …初めての夜は、襲われたのだ。本当に、その時は怖かった。しかし、闇の中での行為の間に、私はジャックの手が暖かいことと、同じ秘密を共有する身体だということを知った。後は私も止まらなかった。二人で朝まで行為に耽った。…その後の私は、以前の私には考えもつかない状況になった。最初の夜が忘れられず、夜毎自ら慰める事が続いた。処理をするのではない。自分が求めていた。リリスが部屋に戻ると、私はすぐに部屋に籠って、ジャックを思い出す。そんな夜が何度となく続いた。
  「セム」
  短く呼ばれる。体中を舐め尽くした犬が、下衣を剥ぎ取り、欲求に膨らんだ私を舌先でつっ突く。私が嬌声を上げ、目を滲ませると、ジャックは一気に口に含んだ。もう、その柔らかさと熱さに狂ってしまいたかった。でも、理性に繋がれる事でより気持ち良くなれるのもまた事実、私はずっと手放さずにいる。その気持ちなのか、ジャックの頭に尻尾を巻き付けた。
「ん…」
  逆にジャックは頭を離す。一度熱さからは解放されるが、身体の中で疼く熱は収まらない。いきなり腰を掴まれて腹這いの体勢にされる。膝を上手く立たせ、尻尾と腰が良い位 置になるよう、足を開かされる。嫌じゃない、こうやって獣がやる様な姿勢は、獣の私には最高の体位 なのだ。 足の間からジャックの手が私の興奮を示す箇所を軽く握る。清掃の役割を持つ体液が、精液に先走って溢れている。別 段殖える目的もないのに、快感を感じればきちんと溢れる。律儀なのか大雑把なのか。とにかく滑る液体はジャックの手の平に着いて糸を引いた。そのまま液体を私と彼が繋がるための場所へ付ける。
  最初は何も無しに指でやったので、血が流れた。次の時に私の進言でコンドーム着用時などに使うローションを使ったら、痛みも出血も少なく済んだ。しかしジャックはこうして私の体液を使う事を好む。いつしか私もその方が気持ち良くなってしまった。何か一つやるにしてもここまでこだわって淫らになれる。私は早く身体が拓かれる事をただ望んだ。
  肩ごしに見るジャックの膨らみは、未だトランクスの中にある。 気が付けば指の数は増え、ニ本で蹂躙されていた。解れた内壁をもう少し、と声に出して掻き回す。私の性器の真裏に当たる場所で指が泳ぐと、声を出して身体を痙攣させていないといられなかった。我慢など出来ない。男同士で繋がれる証明の様に、内壁の一部にある性感帯。指よりももっと…もっと深く繋がってその場所で感じたかった。指を少し、締め付ける。すると、意外にもするりと指は抜けた。そして衣擦れの音。もう一度肩ごしに見遣る。すると、興奮して硬く、大きく、体液に濡れて先端が妖しく光るものを見る事が出来た。ジャックは決まって恥ずかしそうにトランクスを脱ぎ捨てる。別 に良いじゃないか、私しか見ていないのに。そう言った事もあったが、私がいるからこそ恥ずかしいのだ、と言われてしまった。
  「セム、俺セムのこと大好き…」
  一言が耳を打つ。しかし、すぐに快楽に言葉の余韻をかき消された。尻尾の根元を掴みながら、身体を反転させられた。
 「今日は抱き合ってたいの…いい?」
 「馬鹿…駄目なわけないだろう」
  ジャックは嬉しそうに尻尾を振る。私の尻尾は嬉しいのに、振る事は出来ない。ジャックが根元を指先で擦ったりしている所為だ。でも構わない、口元にあった耳を噛んで我慢した。ん、と小さく声をあげる。少し困った顔で、感じ入らない様に我慢する表情が可愛い。そんなジャックが愛しい。大好きなんて言葉しか言わない、愛してるって言ったら嘘臭いなんて考えてる犬が、少し色の濃い肌を擦り付けてくる。それだけでイってしまいそうな程、愛しい。
  行くよ、と小さい声は明瞭に届いた。その直後に拡げられた身体が満たされる。もう声なんか堪えなかった。上げられるだけ声を上げて、広げた足の間にいるジャックの背中にしがみついた。解放された尻尾をジャックの腰に巻き付ける。もっと深くと強請って、お互いの尻尾を絡め合った。ジャックの動きは時間が経つにつれ激しくなる。
  我慢の気かない獣が二匹、殆ど同時にイった。

 息を切らせる私にキスはしない。 ジャックはティッシュを探し、私はぐったりとベッドに身体を横たわらせる。それほど若くない。一度で十分だ。ジャックが戻る前に、私は眠りに落ちた…

 

 

end

 

 

2003/12/18
また言い訳。
掲示板に書いてあったのですがあんまり重いので
掲示板の文面削除の為にココに書き直して置く事に。
某姉さんと携帯メールで「セムは淫乱」と決めつけました(わー)
アルカディアの「全てを犠牲にして」という一文に私は妄想致しました。
全てってことは恋愛も全部かー欲求不満だろうに。
とかなんとかゆってね。
本当は先にもう一話、クジャセムを置く予定だったのですがこっちが先になりました。
なんだかマジで言い訳しか出来ないや。(苦笑

2004/01/15
今更とあるサイト様のクジャセムとネタが被っていることに気が付きました…(泣