しばらく働き詰めの日が続いて、家に帰るなり寝るだけの日々。
ようやく一息、という所で…思ってもみない事件が起きた。B-style SIREN×Nix [同居猫]
「サイレン」
不意に、呼ばれて食器を洗う手を止める。見れば珍しく炬燵から出て、読みかけの雑誌を手に持ったままキッチンを覗き込む同居人がいた。
「お前六日連続仕事だったよな」
なんだか珍しいことは続く様で、私の仕事をことを気に掛けてくれているらしい。普段は午前様でも午後からの仕事でも気にしたそぶりすら見せないのに。
「ええ、疲れマーシた。明日がお休みで良かったデース」
土曜日夜。今週は月曜日の朝の授業に始まって、午後六時まで授業授業の六日間だった。たまたま他の講師が欠勤した為に、仕事が詰まりに詰まった感じだ。もちろん、休憩はあるけれど、やっぱり仕事が待っていると思えばリラックスなんて出来ない。
「…サイレン、ちょっと付き合えよ」
呼ばれてる。でもまだ食器が…
「これが洗い終ったら…ね」
言えば不機嫌そうに、ちらとこっちを見て…でも納得したのかテレビの前に居座っている。少し前から、突然私の家に一匹、野良猫が住み着いた。金髪で燃えるような炎色の目をした、元は空軍という猫が。
「お待たせニクス」
その横に座り込む。ニクスはずっとテレビを見ている…というか、テレビの方向を見ている。あんまり内容は見ていないみたいだった。
「あのよぉ、サイレン」
「はい?」
いくらか普段より歯切れが悪い。また何かに煙草の火でも落としたのかな。ニクスがこっちを見ないので、私もテレビに目をやる。今の時間、スポーツバラエティの番組は画面 の中で一喜一憂が繰り返されている。
「お前、俺が来てからどーしてんの?」
突然で何を言われているやらさっぱりだ。真意を問おうとして顔を見るけど、ニクスはふいと顔を逸らしてしまった。
「何を、です?」
訪ねれば、しばらくそうやってそっぽを向いている。
「…ニクス?」
しばらく、待ってみても跳ねた金髪しか見えないので、もう一度声をかけた。…ゆっくり、振り返る。
「だからよ…せーよく処理はどうしてんだよ」
最初ピンとこなくて…ああ、とようやく思い立った。そういえばニクスが来てからは殆どしてなくて…余裕がある時にちょっと風呂で済ませるくらいに。それでも早さの方に気が行ってしまって味気ない。時間が無いのが理由なんだけど。
「ニクスは?」
こういう答えにくい質問は相手にも聞いてしまってしどろもどろにさせるに限る。…けど、ニクスは私の期待を大きく裏切った。
「あんましてねぇ。時々お前いない時にするくらい」
ちょっと目は伏せているものの、普通に答えられてしまった。これは…私も答えざるを得ないか…。あんまり答えたく無い気持ちの所為で、私が次の言葉を出せずにいると、赤い目がこちらを見て、焦れったそうな声がそれはもう、予測なんてできない素頓狂な事を言った。「お前もあんましてねぇんだろ…なぁ、しようぜ?」
まさか。耳を疑うがその目は揺らがずに私を見ている。…幾ら処理してないと言っても、男が相手、というのは気が引ける所の話じゃない。気持ち悪い。
「ニークス、冗談もほどほどに…」
言葉は遮られた。信じられない、まさか…ニクスの、キスで、唇が塞がれるなんて。引き離そうとしてもさすがに元空軍の腕力は舐められたものじゃなかった。私の頭をしっかりと抱き込む様にして、話している最中で開きっぱなしだった私の口の中に易々と舌が入り込んでくる。
不思議と不快じゃなかった。人は唇に触られる事を気持ちいいと感じる、と誰かが言っていた気がするけど、でも…相手が男だと分かっていてなお、気持ちいいものなのだろうか。初めて舌が入るキスをした時に、相手の舌を噛んでしまったのを覚えている。あの時は確かに舌が不快だった。その後は慣れてしまったけど、男の舌でも…こんなにやわらかいのか、と、考えさせられる。男同士なんて、冗談じゃないのに。
「っぷぁ…」
唇が離れてニクスを見ると、息を、大きく吸い込んでいた。多少目が潤んでいるのは、呼吸困難だからだろうか…それとも、快楽に、なんだろうか。
「…へっ…こんなモンで面喰らってンのかよ」
にやり、と笑う。
「お前だってアメリカンだろ?…お国の軍隊の内部事情、知らない訳じゃねえだろが」
それはもう…昔から噂やからかいのタネにしてきたことだ、知らないはずはなかった。要するに、軍隊は基本的に女性が入りにくい空間で…男だらけの空間になる事が多い。つまり、それを目当てに男を漁る男が入隊する事が少なくはなく、その空間で新たにそういった性の嗜好を開拓される、そういう事も稀ではない、ということだ。
私をせせら笑う。濡れた目は私をじっと見つめている…。次ぐ言葉と裏腹に、少しだけ、その表情は自虐的に見えた。それがどういうことかなんて、分からなかったが。
「勘違いはするなよ…俺は軍で初めて経験した。…それからはどっちもイケんだ」
首に手を回され、離れる事も出来ないまま、私は抵抗する事さえも忘れてしまっていた。あまりにショッキングだ。
「…ただの性欲処理だぜ? …二人でするってだけだ、付き合えよ」
言うなり右手を私の左手に添えて、その左手を、自分の股間に触らせる。
「ニクス!本当にもうヤメてくだサーイ!」
手を外そうとしても腕力に勝てない。蹴り飛ばすには距離が近くて、相手に痛い思いを指せるのは忍びない…。布越し、ニクスの性器が少しだけ硬いのが分かってしまって、本当にどうしていいか、とにかく逃げられないし適わない…最悪の状況だった。
「他人のを触ったことなんてねぇんだろ?まして興奮させる目的でなんかさ…。やってみろよ、以外と、面 白いぜ…」
右手で私の手首を掴んだまま、左手でジッパーを降ろす。そして…先の方が、ジッパーとジッパーの間から顔を出した。まだ湿っていないそれに、私の左手が触れる。
「ニクス…辞めましょう、私にはそういう趣味はないデース…」
逃げようと体を捩っても、左手がどうしても外れない。いいから、とぐいと引っ張られて、ついに指先が触ってしまった。
「新境地開拓も、たまにゃいいかもしれないぜ?」
からかう様にまた笑って、ニクスは自分の左手も添えて、私に握らせた。私のものよりも少し小さい…と、思った。というか、私は平均的に見て大きい方なので、ニクスのは平均的なだけであって、けして小さいという訳ではないのだけど。
ニクスは添えた手で私の手を前後に動かし始めた。ふっと、金髪が揺れるくらい体が痙攣する。私の手の中で、確かに性器は膨らみ、硬さを持ち始めている。それにつれて、ニクスの体はビクッ、ビクッと大きな震えを繰り替えした。それこそ、女が快楽に震えるのと変わらない様子で。
…確かに、他人を興奮させるのは、面白かった。こちらが自発的に強く握ったり、握る指を増やしたり減らしたりすると、喘ぎや震え方も変わってくる。一瞬、惑わされていた。喘ぐ顔や震える髪の毛、それに睫 …そういったものがやたらと色艶を持って私の視角をしっかりと捉えている事に気付いて、視線を逸らしたかったが無駄 な努力に終わる。目を離せないまま興奮を促し続け、先端がぬるぬると体液を分泌させ始めた頃、また強く手首を掴まれて、手を止められた。
「なんだ…乗り気じゃね?」
興奮でますます目を潤ませ、それでも余裕の笑みを絶やさない炎色の目。ぱっと、腕が解放される。少しばかり尻を引き摺って後ずさると、ひくつく性器が目に飛び込んで来た。…別 に私はホモじゃない…なのに…。
「サイレン」
呼ばれ、ふと見ると、そこに…ニクスがいる。けど、その…なんで、金髪に黒毛が混ざってるんだろう…。
「良く見てくれよ…耳はココ、で…これが尻尾」
すっと指差された頭上、ひょいと背中の方から掴まれた尻尾。…まさか、と、驚愕する。
「な…あれくらいで驚いてられねえだろ?」
笑うと頭上の耳が一緒に揺れ、手に取られた尻尾は先がくねっている。顔にも、いつものペイントとは別 に、黒い縞。虎の様だった。ニクスという、猫の様と形容詞が着くだけだったはずの男は、今は本物の虎の耳と尻尾を備えて、そこに座り込んでいる。
「気持ち良くなってくっとさ、こうなっちまうんだよ…」
尻尾がぱたん、と床に落ちた。
「犬とは違うけどよ…ちょっと犬にでも噛まれたと思って付き合えよ…」
媚びる様に。まるで猫そのものがする様に、肩に右耳を擦り付ける為に私の膝の横に手をついて身を乗り出す。そうやって乗り出すと、ずり落ち掛けのズボンが膝まで落ちて、下着も下がって意外な程綺麗な尻が見えた。筋肉で絞まっていて、丸みは乏しいが四角く、モデルになったらボトムスの後ろ姿がウリになるタイプ。
そしてそこから生える尻尾。実の所、驚いたと言っても、ニクスが思っているであろう驚きとは中身の違うもので…私にも、それを備える瞬間がある。まさか、同じ体質の人間がいるなんて。
「ニクスこそ…犬に噛まれますヨ?」
思わず、擦り付けてくるその胴の脇の下に手を入れて、そのまま恋人にする様にしっかり抱きしめていた。あまりに、可愛い存在に見えて、どうしてもそうせずにいられない状態。困ったな、私も触発されている…。
いつも、あの姿になるのに近い状態になると、どうにも我慢が出来なくなってしまう。癖みたいなものだろうけど、そのせいで酒に飲まれるまで飲んでしまったり、言わなければいい事を言ってしまうような事もままあるから、どうにかならないだろうかと、常々思っていた…でも、今回は私の偏見や固定観念を上手く取り払ってくれそうだ。それを望む自分に、ほんの少し苦笑する。
抱き締められたニクスは驚いた様に私を見ていた。それはそうだろう、まさか自分の、人とは違う姿を晒して、受け入れられるなんて思えないのが普通 なんだから。
「ちゃんと見てくだサーイ。…私にも、尻尾があるんデース」
一度放してやって、顔を見る。瞳孔が大きくなっていて、びっくりしてるみたい。なんだか、可愛いなぁ…。
「馬鹿…かよ。全然お前、普通の人間だ」
拗ねた様に、見開いた目を伏せた。尻尾はぱたん、と音を立てて床を叩き、そこに混じって、尻尾なんてねーじゃん、と、呟かれる。
こういう時ニクスを待たせると不機嫌に拍車を掛けるから、すぐに行動に移った。少し目を閉じて、さっきのキスと、手の中で膨らんだニクスの男のシンボルを思い出す。今ならぞくぞくする。ホモではないと思ってたけど、同じ体でこんなに私に甘えてくるニクスが愛しく思えてきて…愛しいと想う反面 、後ろめたさの様なものを感じながら、そこに生まれた劣情と、快楽を求める気持ちをさらに膨らませる。
少し、身体が強張ったのかもしれない。ニクスがそれに気付いてか、こちらを向く気配がした。
「サイレン…マジ?」
驚きに、嘆息のように呟き出された声。私が少し身震いしただけで、きっとニクスには信じられない事体が起こってしまったんだと思った。何せ、セットされた髪の毛の間から犬みたいな尖った耳が飛び出てるんだから。その上、尻尾も背中の後ろで揺れているんじゃ、驚いても無理は無いんだ。
「…一緒なのか?…その…エロい気分なると、コレ、出んのか?」
「オゥ、ニクス、ちょっと痛いデース」
尻尾を鷲掴みにされて眉をしかめると、慌てた様に手を放す。珍しい。酷く戸惑ったような顔でおろおろして。
「…ん、まぁニクスが言ったので概ね当たってマース」
そう言うとニクスは小さく本当か?と尋ね、首を縦に振って肯定すると、ニクスに胸を強く押されて、後に転ばせられた。
「じゃあよ…してくれん、だよな?」
ふいに視界からニクスが消える。…もちろん、消えたのではなかった。私の股間に顔を近付け…尻尾の所為でずり落ちかけていたズボンを、口に銜えて引き摺り下ろした。下着も引っ張られ、ほんの少しだけ充血した性器が露になる。
「俺と、セックスしてくれんだよな…? …俺に欲情したよな?」
確認する様に呟き、まだ柔らかさを保ったそこに唇を寄せながら私を見上げる。
「うーん…そうデースね…まだ、でもちょっと躊躇ってマス」
正直まだ、男とセックス、と考えるだけでも相当不安だし不快だ。それを聞いて、ニクスは少し顔を曇らせる。でも…だ。きっとニクスだって初めての時は不快だったんじゃないだろうか。
…私は躊躇っている。不快だと思い込んでいるのは、結局耳と尻尾が取り払ってくれなかった理性の部分だろう。人としてのモラルとか、人間としての排他的な部分が、ニクスを拒絶してる。反面 …この姿になったということは、ニクスとのそういう関わりを求めている自分がいることに他ならない。二つの感覚が、私をどちらへ傾けたものか、鬩ぎあってしまっているのだ。
私が一人眉をしかめる内、何を考えたのか、ふと、ニクスは耳を揺らして尻尾を私の足に絡めて来た。思えば興奮した股間を見せ合う様に足を開いているこの状態も相当不自然なのに、ずっとそのままの体勢で、やりとりを続けてしまっている。
「じゃあ、よぉ…サイレン」
また媚びる声。ずり、と足を引く様にしながら腰を近付ける。あともう少しでぬ るつく先端がくっ付いてしまいそうだ。
「気持ち良かったらさ…次は、ちゃんとセックスしようぜ?」
媚びる声に、悪戯めいた色が混じる。油断したその一瞬、腰は完全に密着し、ニクスのモノにまとわりついた粘液でヌルついた。
「んん…ッ」
気持ち悪い、と思わなかった。むしろ快楽を感じて、思わず引き結んだ唇から唸りが漏れ、尻尾が震えてしまう。変身に伴う過敏が、私の身体をあっというまに快楽の方向へ引きずり込んだ。理性は最早形なし、私は声を上げず、それを悟られないよう、顔を少しだけ伏せる。
「だから…だから、今日ダメだったら、もういいから」
自らの表情を知ってか知らずか、彼は寂し気に微笑んだ。その手が、おずおずと二人分の硬い熱を、並列に並べて握る。片手には納まらず、もう片方の手を出し、指を組んで包み込んだ。それが少しずつ、動く。ぴちゃぴちゃと、水の音がして、ニクスの手には透明な液体が絡み付いた。もちろん、それだけじゃない。その動きに合わせて、二人の不揃いな長さと太さが擦れて、快感を生む。それが男同士の行為だと言う事を差し引いて、快楽に溺れかけ、必死に声を殺す私がいた。
「ふはッ…あ、サイ、レンん…」
けど。ほんの少し盗み見る様に見たニクスは、手を動かしながら声を上げて、伏せた目から覗く瞳孔は窄まってしまっているし、尻尾もくねくねして落ち着かない。顔は真っ赤だし目は潤んで、興奮していると一目で分かる。泣き出しそうな程に潤んだ目元から、ぽろり、と小さな雫が零れた。
「さいれ…ふ、ぁッ…」
どうにも…さっきからニクスは、私の名前ばかり呼んでいる。もどかし気に二人分の快楽の源を摺り上げているが、まだ物足りないのかその動きは激しくなりかけては二人分である負荷に負けて指から中身を零してしまう事を繰り返していた。
それに痺れを切らしたのか。ニクスは突然私を後ろに押し倒し、私の腰を跨ぐ様に座りこむ。一瞬、酷く嫌な想像が脳裏を巡った。犯される。
しかし、それは本当に一瞬の出来事に過ぎなかった。腰を跨いでいるので、ニクスの性器が私の体内に入り込む事など出来ない。それにすぐニクスは新たな行動を始めた。
屹立したお互いの物を、腰の動きで擦りあわせる。一見単純な動作だが、一回一回違う場所を擦られ、その度に痺れが腰に走ってどうしようもないほど気持ち良い。抵抗する気さえ失せていた。半開きの私の口からは、小さな吐息が何度も漏れる。ニクスは気付いていない様だが、既にそれは彼との行為への不快感が消え去った事を示していた。
「サ、サイレン…」
腰が止まる。ぶるっ、ぶるっと大きな震えを繰り返しながら、ニクスは濡れた眼で私をじっと見つめていた。耳がへたりと前に倒れて、まるで伺いを立てるかの様に少しだけ頭が低くなる。
「俺っ…俺、サイレンの、突っ込んで、ほし…い…」
ごく素直な要求だった。けど、好んで犯されたがる心理が私には理解出来ず、答えを出しあぐねる。追い払われていたはずの理性が、突然また戻ってきてしまった。…が、それが功をそうしたみたいで。
多分、届きやすいであろう英語で話し掛けてみた。
「Ah...Nix?」「なぁ、ニクス」
答えない私の顔を見つめていた視線が、名を呼ばれる事で更にまじまじと私の目を捉える。理性は戻って来るなり私に一つの可能性を囁いていた。
「Do you make love me?」「私に恋してるのか?」
ビクリ、と。全身が強張り、尻尾が膨れ、剰え髪の毛まで少し逆立ってる。図星、といった所か。再度問おうとするが、その前にニクスが口を開く。
「I...I love you truly」「ほ…本当に、好きなんだよ」
声が幼い。普段なら絶対にしない、どこか子供が照れて俯くのを堪える顔にみえる表情で、私の顔をじっと見つめてきた。
「I don't...I don't want to have a sex except a favorite person...but, Siren, I love you eagerly...」「俺だって…俺だって、好きでもねえ奴としたくなんか…でも、サイレン、俺本当にサイレンが好きで…」
どうしていいか、とそこまででもごもごと声は小さくなってしまう。しかしその様子にもちろん嘘は無いし、ましてからかってる訳でも無いのは嫌でも分かった。黙り込むニクスを他所に、一人考え込む。人に好かれることに嫌悪感を覚える程、下衆には成り下がってないつもりだ。
「…サイレン」
もどかし気に腰を揺らす。その時に全身に駆け抜ける快楽も嘘じゃない。…かといって、まだ男同士であることの不快感やらもろもろのマイナス感情が取り払えた訳でもない。中途半端になってしまっている。
「…いいよ、すぐに答えが欲しいわけじゃないし…とりあえず、今は」
日本語の方が当てはまる様に思えるその言葉を口にし、小さく微笑みかけられ、尻尾が尻尾に川絡み付く。 ごし、と胸に擦り付けられた頭の上の耳も、先がほんのり染まっていた。
焦らしてしまった所為か、ニクスがさっきよりも腰を大きく動かし始めて、この奇妙な形のセックスが続行される。喋っている間も冷めることもなかった熱は更に温度を上げて爆発寸前まで持ち込まれた。そこに、ニクスの手が二人分をまた握る。摩擦の快楽は女のそれとは違うし、まして一人でする時とも違うが、確かに人肌に触れて心地良かった。その上、尻尾もでも擦れる。根元が性感帯であることを、今夜、ニクスとすることで初めて気付かされた。わざわざ性感帯なんて増やさなくていいのに。そう思っても快楽は快楽、根元同士が触れあい、絡む尻尾の感触が汗と流れた液体でぬ るついて、その快楽を否定なんて一瞬も出来なかった。遅くはなったが、ちゃんと耳と尻尾がある程度の躊躇を消してくれたらしい。感謝すべきかどうかは分からなかったが。
にわかに、その手の動きが加速する。
「ふッ…う!」
「んンッ…!」
お互いに声を殺したまま、行き着く所へいってしまった。
ほとんど密着状態だった腹の上に白っぽく濁った精液がべったりくっついて、一連の事が現実に起こった事実だと証明するかの様で、なんとも現実感の無い行為だったのだな、と今更に思う。終わった途端、ニクスは崩れて私の上に倒れ込んで、今もまだ荒く呼吸を繰り返していた。まさか、その顔に色気を感じるなんて。
中途半端な行為の代償が、もしかしたらニクスに惚れてしまうかも知れないなんていう馬鹿げたものに本当になってしまいそうで…私は真っ暗な前途を溜息を吐いて見遣ることしか出来なかった。
後日、私はニクスについて幾つも見直さなければならない点を見つけた。彼は怒りっぽいわけでは無かったのだ、とまず実感し、そして非常に照れ屋で天の邪鬼なのだと知る。あの行為の後も、二度三度と奇妙な性交の夜は訪れるのだが…それはまた別 の話。
end
2004/09/25
サイニク一本目〜。ケモケモな二匹。
ていうか最近何フェチなのかマトモにセックスさせないのが好きみたいで困ります。
一回前のジルケもそうだし…
あ、あんまり書くことも無いのでサヨナラ〜