まさか…なぁ。

B-style ZILCH×K-Na [Cutey Lion]

 今日何度溜息吐いたろう。目の前のデラ台にはお決まりの面 子。それも女ばっかりときた。叩いてるのはナイアで、それを見学と称して真横で見ているのは津軽とリリス。それから紅茶のペットボトルを持ってはしゃいでるエリカにセリカ。彩 葉は、しろろ魔術がどうの、で今日は来ていない。いつも思うが、しろろ魔術ってなぁなんなんだよ…。
 しかし…だ。どう見てもあれは「ナイアお姉様〜」な雰囲気に見えて仕方ない。俺が近づこうモンなら、津軽が大牽制の睨みを効かせるし、リリスもそれとなく恐ろし気なオーラを漂わせる。結局、俺はたまの休日もデラ台が開くのをこうして、ベンチで待つハメに陥っている。ちなみにドラマニは、この前客が素手で叩いたとかでブッ壊れて、今は修理中だそうだ。
 ったく、店内エアコンはかなり効いてるのに、デラ台だけ暑苦しく見えるぜ。

 「ジルチあーにきっ」

 ベンチ待ちの俺に後ろから達磨が呼ぶ。振り向く前に、すたすたと早い足取りで達磨は俺の前に回り込んだ。
 「兄貴、なんか元気無いな?」
 「まぁ、な…アレがちょっと」
 「アレ?」
 顎で示す先を、達磨がくるっと振り向いて確認する。もちろん、即行俺の方に視線が戻ってきた。
 「ココ、いつから女子校になったの」
 「学校じゃないから男子禁制ってトコか」
 思いきり眉をしかめるも、その視線はもう一度デラ台の方を見た。まあ…コイツだから、尻撫でても胸揉んでも許されるんだよな。きっと今、達磨の目には綺麗な曲線を描く五つの桃と、そこから生える非の打ち所も無いような足、それからこちらを見ると撓わに揺れる六つの乳と、こじんまりしちゃいるが柔らかそうな二つの乳と、これからの発展が楽しみな胸しか映っていないんだろう。口元弛んで鼻の下伸びてんぞ、コラ。
 俺の思いを知ってか知らずか、はっとした様に達磨はベンチにすとんと座った。
 「ま、いいんだけどさ…目の保養だし。それより兄貴、もうナイア姐さん諦めたの?」
 「…」
 まだ高校生、きっと俺の心境も理解出来て無い質問に、口を噤むしか出来ない。

 この所、ナイアがゲーセンに来ると毎度あの調子だ。元々セリエリの姉の様であったし、まずああいう事態は不自然じゃねぇ。リリスもナイアをお姉様、なんて呼んでるし、津軽も右に習えだ。彩 葉は…なんというか、会う度突っかかってはデラを無理に叩いてんのか、指がつるのか、悲鳴を上げてじたばたしている。とにかくナイアは引っ張りだこだ。その上、俺は眼中に無いのかユーズや士朗、識とのバトルに熱心だし…。とにかく喋る機会さえ無い。正直達磨が羨ましい…俺はあのナイアの身体に触れる事は疎か、最近は間近で声を聞く事もなくなっていた。
 …諦める気は無くても、これは、めげる。
 …もともと望みの無い片思いだったとしても、めげる。

 「…お子様にはまだ解らねーんだよ、大人の気持ちなんて」
 俺の言葉にむっとして、達磨はまた、眉をしかめた。
 「だってさー、前みたいに姐さんに勝負挑んだりしないじゃん。なんか…冷めた? とか思うよ、普通」
 冷めてなんか、と言い掛けた所で携帯電話のバイブが伝わった。開いてみると、ケイナから。
 『ジルチ、燃えてるか〜?この前の奢りの約束なんだけどさ、奢りよりジルチのお手製のイタリアン食べたいな。俺んち来いよ。そんで、夕飯イタリアン! ダメ?』
 内心ほっとした。今月は給料(と言う名目のやや多額のお小遣い感覚だ…)が少しばかり少なかった。いつもよりも客入りが悪かったからだそうだが…まあ、両親には逆らわねーよ…。そんなわけで、今奢れ、と言われてしまうより、ある程度値段が分かる分、マシに思える。
 『OK、いつにしようか。メニューのリクエストがあれば応えるぜ』
 そう返信して、ようやく空いたデラ台に向った。またセリカの尻に触って殴られる達磨を尻目に、俺はさっさとハイスピードを選択する。
 仄かに残る香水の香に、敗北感が混ざってた。

 

 「おー!」
 夕暮れ、玄関の扉を開けるなり歓声。いつものツンツン頭でケイナが迎えに出てきた。
 「よっ、イタリアンのデリバリーにあがりやした」
 「あっは、それじゃラーメン屋さん」
 にこにこしながら荷物を少し俺の手から奪い取りながら、中へ通される。実は此処へ来る度に思ってるんだが、ケイナって金持ちなんじゃねーか?このマンション、てか、億ション、呼び名の通 り億単位の売却なんだけどよ…。こんなトコに悠々延び延び住んでる男一人ってのは中々いねぇよ。だって、ここ多分、普通 三人とか四人とか家族で住む部屋だぜ?仕事はプログラマーだって聞いてるけど、ちょっとそれすら怪しく感じる時がある…。
 「じゃ、ま、とりあえず取りかかりますか」
 持ってきたエプロンを身につけながら、この前来た時より部屋が掃除されている事に気付く。何かあったか、部屋は綺麗になっていた。前は物も置けないし足の踏み場も無かった記憶が…。
 「俺も手伝う?」
 興味津々に袋を覗いていたケイナは、俺がエプロンを付け終わると犬が尻尾を振るがごとくに、そりゃもう漫画だったらキラキラと光っていそうな笑顔で尋ねてきた。
 「いいよ、客に手伝わせる程下手じゃねえ」
 「そう?じゃあ俺待ってていいの?」
 待つなら待つで嫌ではないらしい。構わねえからと追い返すと、大人しくテレビの前に座り込んだ。
 すぐに準備に取りかかる。この家、何故か使いもしないのに大量の調理器具があるから助かった。前にユーズに負けた時、罰ゲームでユーズの家にイタリアンのコース料理を作りに行かされた時なんか、道具が足りなくて次々作っても最初の方の料理が冷めちまったりしたし。

 今日も相当暑くて火を使うだけでも汗がだらだらだが、集中して作ればものの四十分。自分が自身を持って味付けできる料理しか作ってないが、まぁその辺りは大目に見てもらいたいもんだ。本当ならラーメンのが絶対いいんだよ。ラーメンはイタリアンなんかよりもっとずっと奥が深くて上手いモンが出来た時は本当に嬉しくなるんだ。っつっても…仲間内で俺のラーメン、旨いって言ってくれたのって、サイレンだけだった気がするんだけどよ…ま、皆旨過ぎて絶句してたんだろうさ。
 「おー、さすが」
 いつの間にかケイナが横から覗き込んでいた。コイツ、変な奴でファミレスの料理に喜んだりするからその辺りは俺としては微妙な気分になる。俺の料理が旨そうで喜んでるのか、それともそれのファミレスっぽさに喜んでるのか。喜ばれるのは悪い気はしないが、非常に微妙だ。
 「もう食べるだろ?あっちに運んで良い?」
 「ああ、取り皿先に頼むぜ」
 並べられたニ種のパスタとサラダ、適当に栄養バランスが取れそうな感じに取り揃えた煮物に炒め物。シンクからはみ出すまで作ったそれを、持てるだけ持って食卓へ運ぶ。途中、ケイナが入れ代わりでやってきて残りの皿を運んだ。

 イタリアンで埋まる食卓。それを見て、ケイナはおいしそう、と声を弾ませた。その笑顔があんまりにいい笑顔なモンだから…俺はつい、まあイタリアンもいいかな、なんて思いそうになる。全く、俺はラーメンのが絶対いいっての。ナイアがいいって言ってもコレだきゃ譲れねぇよ。
 「ジルチ、早く食べようぜ?」
 さっさと椅子に座り、俺を促してまるでお預けを食らった犬みてぇな顔をしてる。涎垂らされる前に、と、俺はエプロンを取って向いの椅子に座った。

 ケイナは終始旨いを連発した。元々語彙が乏しいらしく、旨い以上の言葉は出ない。だがその笑顔が全て物語っていた。普段、仲間内にも親しい奴にしか見せない一番素の笑顔。コレは最近気付いたんだが、どうもケイナは相当警戒心が強いらしい。なんでかなんて俺には全く未知の範疇だが、少なくとも津軽や士朗、それにナイア辺りにはこんな笑顔は見せない。なんでそんな面 子なんだか。たまに識にまで厳しい顔してるし。どうにも俺には掴み切れない男だ。
 それでも、俺がそれだけ信頼されているらしいってのは結構嬉しい話で。あんまり俺は人とこう、駆け引きってのが得意じゃない。だから、こいつみたく、どう思ってるかは別 として、良い顔して俺と一緒に楽しめるやつは大切だ。
 ぼんやり考えてる内に、ケイナの「ジルチ、聞いてる?」を三回程耳にしたところで食事は終わり、ケイナが嬉々としてキッチンに一度引っ込み、赤ワインのボトルとグラスを持って足取りも軽く帰ってくる。
 「これさ、セムのお薦めなんだ。一緒に呑もうぜ?」
 埃でも被っていたか、少し濡れたグラスをテーブルに置いてワインで満たす。真っ赤な液体はなるほどセムを思わせる。どうしてこう、気障ったらしいモンが似合うんだか。前に店のディスプレイ用にってエレキが写 真を取る時も、小道具にバラの花束を使ってた気がする。
 その気障ったらしい赤を持ったボトルが傾いて中身が二つのグラスに注がれ、光の加減でゆらゆらと木目の入ったテーブルに影を落とした。
 「じゃ、別に祝い事でもないけど、カンパイ」
 にっこり、と擬音語が付きそうな笑顔を浮かべ、ケイナがグラスを持ち上げた。
 「おう…カンパイ」
 細い音が透明なグラス同士がぶつかった手ごたえを伝える。
 ほとんど同じタイミングでまずは一口。ああ、こりゃ料理になんかつかったらバチが当たるタイプのワインだ、と直感する。舌触りが市販の安物とはあからさまに違う。喉越しもいいし、後味もいい。どういいかってのは…ちょっとオレはソムリエじゃねえからわかんねーけどさ。でも、これは年代物のはずだ。
 「わぁ、結構おいしいじゃん、コレ」
 そのケイナの口調に俺は少し違和感を覚える。まるで「いいワインを飲みなれ、舌の肥えた人間」の口にするニュアンス。それこそソムリエが選別 した最高級のワインを飲んだ事が有りそうな。セムがこれをどこから入手したかは知らないし、どういう経緯でケイナに渡ったかも分からないが、こんな高級そうなワインをどんな値段で入手したかは気になる所だ。軽々しく口にできねぇよ…。
 「あ、おつまみいる?」
 「いや、いい…」
 平然としたケイナを他所に、俺はもう一口ワインを含む。…信頼、されてんだかされてないんだか。コイツの私情ってのを、俺はほとんど知らない気がする。何もそういうことは話してくれねーんだから…

 

 気がつけば、俺は何故か天井を見上げる形で寝転んでいた。視界に入ったパソコンから、ケイナの寝室にいるんだと判断する。いつのまにか寝ちまったのか…けど、俺、そんなに呑んでなかったはず。
 起き上がろうとして、腕にも足にも自由がない事に気付かされた。いや、なんで今まで気付かなかったんだろう、こんな事ってあるか?手首と肘、それに膝と足首も、結構太いロープで結ばれてる。手は頭の上の方で縛られて、足はピッタリ両足がくっ付く様にされてる。こんな事をするのは…
 「ケイナ!おい、ケイナ!」
 幸い、お決まりの猿轡は噛まされていなかったお陰で声だけはちゃんと出せた。大声で呼ぶと、視界の外、足元の方からいつもの硬そうなツンツン頭が覗く。
 「…どういうことだ、悪戯にしちゃすぎるぜ?」
  答えないケイナに、俺はなるべく相手に怒りを悟られない様に話し掛けた。もそり、と足元で動く気配はするのに、言葉では答えない。
 「ケイナ」
 もう一声掛けると、ようやくケイナは俺の視界に表情を見せた。そいつはえらく微妙な表情で、泣きそうにも見えるし、笑ってる様にも見える。でも、口はきつく引き結ばれてた。
 その唇が、うっすらと開く。
 「ジルチ」
 名前だけ。掠れて、声はクーラーの音にさえ掻き消されそうだった。
 溜息が聞こえる。つきたいのはこっちだってのに。
 ゆっくりと、ケイナが動いた。一々動作が遅いし、何をしようとしているのかさえも分からなかったし、身動きも撮れなくて、ただ、眼で追う。
 「ジルチ…」
 半ば吐息の様に吐き出された俺の名前。それと一緒に、腰の上に確かな重みが加わった。
 「おい、ケイナ?」
 見れば、どこか少し瞳の色が霞んでみえる。というより、涙の所為でそう見えるみたいだ。泣き出す直前くらいまで溜まった涙が、いつもの綺麗に反射する緑色の瞳を曇らせてる。
 「ねぇ、ジルチ、俺を抱いてよ」

 

 晴天の霹靂、寝耳に水、鳩に豆鉄砲、薮から棒。あんまりにも突拍子なさ過ぎる。
 「ケイナ、お前何言ってるか分かってるのか?」
 それこそ物欲しげに強請る子供の顔をしたケイナに、問う。すげぇ残念な話、そこでケイナはこんな時に力強く頷いた。
 「わかってるよ」
 ぺたん、と俺の身体の上に、まるでベッドに横になる様にうつ伏せに倒れるケイナ。顔がぐっと近くなる。
 「おかしいと思う…よ」
 一度唇を舐めて、一呼吸置いてからの当然の一言は、俺を納得させるには不十分だった。それに、密着していて、エアコンで十分に冷えてるはずの部屋の中なのに暑い。俺のイライラは溜まる一方だった。
 「でも、俺本当にジルチが好きで、好きでしょうがなくて…」
 猫みたいに両手を俺の胸の上に揃えて、その上に顎を乗せて俺の顔をじっと見つめる。笑ってはいる。けど、どっか暗くて辛気くさい笑いだった。いつものケイナじゃない。
 「キショい、キモい、いいからさっさとこれを解け、ケイナ」
 それが分かっていても気持ち悪い、男を抱くなんざ金積まれてもぜってぇ嫌だ。ケイナの野郎、振り落とそうとしても全然落ちやしねぇし。それどころか俺のことを抱きしめやがった。
 「いい加減にしろ、俺にはナイアが」
 「知ってる」
  口を手の平で塞がれて、二の句が繋げなくなる。
 「だから、ジルチ賭けよう。もし俺がジルチのこと、納得出来るくらいに気持ち良くできたら、俺を抱いて?」
 手が外れる。
 「じゃあ、お前は何を賭ける?」
 どうにも、それに乗らないとこのまま縛られ続けそうだ。全く、今日は厄日だ。
 「ジルチは何が欲しいの?」
 ぐるり、と頭の中で様々な物が駆け巡っていく。だが出来るならコイツを困らせてやりたい。これだけ迷惑被って、ケイナばっかり安泰なんて俺は許せないからな。心は広くなんてない。
 「そうだな…」
 でも簡単に浮かぶモンじゃなかった。そもそもコイツにとって何が迷惑かよくわからねぇ。俺が考える限り、コイツは満ち足りた男だ。デラもそこそこにできるし、金もあるらしいし、人望もそれなりにあるし…なら欲しがってる物が手に入らない様にするのが手っ取り早い。
 「お前が負けたら、俺に金輪際近付くな」
 その言葉に、ケイナは悲し気に眼を伏せた。けど、すぐに顔を上げて、頷く。
 「わかった。でも、俺も頑張るから」
 いつもの笑顔で、にっこりと、微笑みやがった。

 もう、なんて言っていいか…簡単に、落とされちまったんだ。男の、ケイナにだぞ。有り得ない。そう思ってた。
 けど…その…ケイナは笑ってそのまま俺にキスして、しつこい位に舌を絡めてきた。その上、ようは素股の要領で腰の上で動かれちまったら…あっと言う間、だった。そん時のケイナの嬉しそうな顔ったらなかった。
 「あ…ジルチ」
 嬉しそうに、ケイナは俺の股間をまさぐった。あああ…本当、冗談じゃねぇよ…こんなんで勃つと思わなかった。ていうか、すげぇショック。俺変態じゃねーか…。結局、惨敗してる。気持ち良いんだ、本当、納得出来るくらいに。口には出さないが多分、俺相当弛んだ顔してるはずだ。
 「ジルチの負けー…な、約束ちゃんと、守ってくれよな?」
 ケイナは俺の顔をほんの数瞬眺めて、それからもう一度俺にキスして、また笑った。その顔がヤラしいな、と俺は真っ暗な気分で睨み付ける。ケイナは気にもせず、少し肩を竦めただけだった。
 「なんか、今ほどいたら逃げちゃいそうだね、ジルチ」
 もうちょっと、ね? そう言って首を傾げた。全く、これから何されんだかよ…。

 縛られてるから下ろせる所までズボンと下着を降ろされ、俺は情けないモノを晒す事になった。そんなすぐにイッちまう程じゃないが、それでもちゃんと勃ってるからますます情けない。ケイナはそれに恐る恐る手を出した。
 「ジルチの…」
 興味津々。まるで新しい玩具の遊び方を確認する様に、俺の一物をじっくりと眺め回した。手を添えて、確認する様にゆっくりと。見終わったら今度は指でそろそろと触る。ゆったりとした動きでもむず痒いような感触は、簡単に熱を喚起した。もう否定のしようもない程の興奮を露呈している。俺自身も、下半身の快感に頭がヤラれてる…もうどうでもいい。やりたいようにやらせることにした。どうせ途中でやめるだろうし…。
 一方でケイナは俺の股間をいじるのに熱心だ。同性の触って何が面白いんだか。
 「ジルチ、あのさ」
 ケイナが不意に顔を上げて俺の方を見る。
 「…えっと、ジルチさ、ライオンって好き?」
 また突拍子もなくて俺はがっくりしてしまった。
 「お前さ、話の脈絡って何か分かるか」
 「分かってるけど、でも今聞きたかったんだよ」
 困った様に眉尻を下げて、じっと見つめてくる。こちらがうんざりして溜息を吐くと、ケイナは俺の頭をぎゅっと抱きしめた。
 「ジルチがライオン好きなら、俺嬉しいなぁ」
 ぱっと放す。その声に深刻さや真剣さを感じられず、俺は訝しんで睨むに留まった。デラのあの曲のことを言ってるのか、それとも単純に動物のことを言ってるのか。全く、どっちにしても俺が拘束されてる状況じゃ意味不明だ。
 「ちょっと待ってろよ…ちゃんと分かる様にするから」
 俺のその心境を知ってか知らずか、ケイナは俺に納得させる様に語りかける。けど俺にはやっぱり通 じない。本当、今の状態とかそういうの全部抜きで、もう少しコイツの考えてる事が分かりゃいいのに。
 俺が一人もやもやしてる内に、ケイナは軽く顔を伏せて、俺の傘の部分に触りながら自分のパンツに手を突っ込んだ。俺がオカズか…なんとも複雑だ。今までもそうされてきたのかちっとだけ気になる。行動はその内心の質問には答えないが、それでもずり落とされたパンツの下のトランクスの中身が、手の動きに合わせて膨張していくのは見て取れた。息を荒くしながら、薄目で俺のをずっと見つめ、触って一人でシてる男を見てるのは奇妙な気分だ。オカズにされた女が、それを意識した時ってのはこんな気分なのかも知れない。まぁ実地でそれを見たりする事はないだろうから、それよりももっと気分的に複雑か…。
 その様子が変化したのはすぐに分かった。ケイナがそれに気付いてるかは分からないが、でもその頭の上の方から丸っこい耳が見えたのは錯覚じゃない。現に、人として耳があるべき場所には耳がなくて、ぽっかり空き地みたいになってる。
 溜息を吐いた。好きも嫌いも、コイツはライオン、俺も似たようなもんだ。
 「ね…ジルチ、俺ライオンみたいっしょ?」
  トランクスもずり下がって、ふらりと尻尾が手前に現れる。決定的だ。こりゃもう、俺も自分から言っちまった方が早い気がする。
 「お前、以外と細かい見落としやる方だろ?」
 見当違いの俺の返答に、きょとんと目を丸くするケイナ。無理矢理足を跳ね上げてケイナを倒れ込ませて俺の胸にのっけた。こうすりゃ俺の頭頂部も見えるだろ。モヒカンの横、二つ並んだあんまりに可愛い真ん丸な耳が。
 はっ、と息の音。飲んだか吐いたか、とにかく、俺の耳に気付いた様だった。
 「か、可愛い…コレ」
 そろり、と指が撫でる。さっきまでのベタベタ付きの指なもんだから不快なくらいベタついた。ああもう。
 「テディベアみたいだ…」
 そういうな、俺の唯一のコンプレックスなんだ。ケイナはやたらしっかり俺の頭を抱き締める。あんまりきっちり抱き締めるもんだから、無い胸に頭が埋まる。
  あーあ…なんか本当、ヤバいなぁ…と、一人胸の奥で囁く。想像以上に、間近で見た顔は可愛い。男にこういうことを言うのは褒め言葉じゃ無いが、男としちゃ大きい目、その目も今は色情で霞んで奇妙なくらい色っぽいし、顎も細い。頬骨の高さも絶妙で、その下に構える口だって綺麗な弧 を描く。鼻も日本人にしちゃちょいと上に向いて綺麗な形にまとまってある。笑って、同じだぁ、なんていう。どこから出るのか分からない程明るい顔で笑う。
 ああああ、まずい。耳元で冷静な俺が幾ら呼び止めたって熱に浮かされた俺には聞こえない。だってあんまりに可愛い。可愛いんだ、ケイナ。別 にそこまで細くないはずの身体も、俺と比較するとこんなに細い。本当に俺とたいして歳変わんねぇのかな、ってくらい。
 「ケイナ、コレ、解けよ」
 溜息混じりに要求すれば、素直に全ての縄を解いて床に捨てる。気が済んだのか、それとも俺の考えてることが分かったのか。
 「ジールチッ」
 ぎゅう、っと、首に重み。言わなくても分かってる。俺もそういう気分だ。

 二人とも全裸でベッドにいる。
 俺は言われるまま、ベビーローションをケイナの肛門に垂らす。女の様に簡単には拡がらないから、必要らしい。たっぷりベビーローションで濡らして、指を押し込むと、ケイナの喉から漫画で見るような小さい悲鳴が漏れる。痛むのか、仰け反ってる所為で真っ白い首が晒されて、そういえばコイツ、いつも腕は出す癖に首は全然出してないんだな、なんて気付かされた。尻尾も痛む度にびくん、びくんと毛を逆立てて痙攣する。さきっぽのフサまでびくびくするからちょっと面 白い。
 「俺も初めてなんだ。だから、多分、始めたら結構痛くて声も出ないってのどっかのサイトで見たからさ、先に全部言っとくな? 指、入れたらまず入り口んトコを大きく輪を書くみたいにして拡げて。拡がったら指、根元んとこまでゆっくりいれて、それからまた少し輪を書いてみて。俺が、欲しいって言ったらさ、ジルチの、入れてよ?」
 ほんの数分前の会話。言った通り、ケイナは痛みに声もなかなか出ない。痛過ぎるのか、息子も萎えちまってちょっと可哀想な有り様だ。でもやめねぇ。約束、ちゃんと守ってやろうと思ったんだから。
 「ひぁっ」
 シーツを握る手が痛々しくさえ見える。あんまりぎっちし握ってるから指先が白かった。
 ゆっくり、拡げる。その内、俺のが入るかな、と思えるくらいに拡がってるのに気付いた。緩くなるモンだな、なんて独り言を言うと、ケイナは涙目で俺を見下ろした。でも、笑ってる。唇が震えて、微かに、早く、と訴えた。
 頷いて指を押し込む。まさしく押し込む、ってな感じで、ローションでなんとか滑り込ませた。ぐっと、人差し指が入りきる。
 「ッぐっ…」
 歯を食いしばって大きく痙攣。だが拡げ始めたら痛みに唸る声も震えも止まってた。まさか、気絶か?
 「ケイナ?」
 声をかけると、まるで浮かされた様に小さな声が、ぁあ、と艶を持って答える。
 「へ、き…なんか、気持ち、良い、そこ…」
 言葉一つ一つの区切りに短い喘ぎ声が挟まった。それこそ女みたいに掠れた声で、呼吸は吸っても吐いても弾む。俺は用心しながら指を引いてみた。
 「っう、あ…」
 あからさまに変わる声。なんかごろごろしたモンが指に当たるポイントがイイらしい。面 白がってそこを指で撫でると、尻尾が腕に絡み付いた。弾んだ息では上手く言葉も出ないみたいだが、必死に上半身を起こして、俺の首に抱きつき、耳元で弾む息が囁いた。
 「…欲しい」
 淫猥とか淫らとか、多分そういう類いの難しい言葉が出れば言いやすいかもしれねえ。あんまりにやらしい声だった。思わず腰を引きそうになる。目が合うと、すっとそれが細まって、耳をひくひくさせながら唇を押しつけてきた。舌を使って俺の口の中に引き入れて、存分に弄る。ずる、と指が抜けちまうと、苦し気に俺の肩を押して離れた。
 「…やらしいな」
 髪の毛に汚れてない方だけ、指を突っ込んで撫で回す。その勢いで触った耳も熱い。ケイナも俺の…もう、大分汗やらなんやらでへたれちまったモヒカンを撫で付けた。
 「うん…俺、エッチすんの好きだから」
 何度も何度も。そうやって髪の毛だけ触ってるはずなのに俺は下半身の熱ばっかり上がってきて、溜まらなくなってもう一度ケイナを抱きしめた。
 胸は無いし、喉仏はあるし、結構ゴツゴツした体つきしてるし、まして柔らかくなんてない。なのに俺は…ナイアを一瞬忘れるくらいに、もう入れ込んでる。いや、むしろナイアを忘れようとしてるのは俺なのかも知れないな…とか。今日もそう、その前からもうずっと、俺はナイアに今までみたいに近付くことも、多分ちょっと強引なアピールもできないでいたし、もしかしたらナイア諦めるいい機会なのかもしんねーなって。
 「ジルチ」
 でこに一つ。俺は軽く息を吐いてそんな面倒な考えを一旦一掃した。それから、ケイナをゆっくり押し倒して、その上にかぶさる。
 「後悔しっこなしだぜ」
 「うん」
 頷いたのを確認して、俺はゆっくり、熱くてどうしようもなくなってるモノを、指よりも強引に押し込んだ。
 「ひゃぁ、ああ!」
 痛みかそれともさっきのイイとこに触ったのか、悲鳴をあげるケイナを無視する。一気に奥まで突っ込んで、それ以上無理になるまで入り込んだ。
 「っあー…」
 本当、すっげぇ気持ち良い。女と変わらねぇと思った。なんつーか、ぴったりした感じがすっげぇいい。こんな気持ち良いなんて 思ってなかったから、予想を物凄ぇ裏切られた。
 「ジル…ぁ…」
 背中にしがみついて震えて、それでも俺の名前を呼ぶ。さっきの悲鳴が気持ちイイからだろうな、と思った。なんでかっつーと、腕だけじゃなくて、足までしっかり俺の腰に絡めて、尻尾も、俺の足に絡んでたから。痛いなら突き放すだろうしな。
 それにしても…なんか、コレはマジで凄い。全身で色気を醸し出してるみたいだ。
 「動くぞ」
 「あっ」
 返事も待てない。腹に擦れてる男そのものの一物さえも俺の色情を煽るってのはどういうことだ?ひらりひらり動く耳も、唇も、汗で濡れた肌だってみんなやらしく見えた。
  引いて、押し込む。繰り返す。それだけでも跳ねる身体。
 「ジルチッ、じ…あっ」
 声も。全部がまるで何か一色に染まってるかのようで。
 「好きっ…ジルチ、きッ…あ、はぁっ」

 一際強くしがみついて、生暖かい感触が腹にべったりとくっ付く。
 俺も限界で、そのままブチこんでた。

 

 ぐったりと俺の上に横たわるケイナの髪を撫でる。まだ耳はそこにあって、一緒に触るとひくり、と俺の方を向いた。
 「ジルチ…」
 呟きはシーツが擦れるだけで消えてしまいそうな程微かだったが、俺の耳には届いて、少し余韻を残す。
 「俺と、さ…やじゃなかったら…付き合ってほしいんだ。…ナイアがジルチに振り向くまでの間だけでも、いいから…」
 随分と控えめな台詞だった。俺の心境をそれなりに理解してるのかもしれないな、と思いながら…俺はもう一度耳を撫でた。
 「…分かった」
 曖昧に、それだけ答える。照れくさくて顔を逸らすと、胸の上で笑った気配がした。

 数時間後も、俺はケイナと一緒にいた。今日は泊まると自宅に連絡し、朝まで一緒にいることにしてみる。ケイナは満面 の笑みで嬉しいな、と何度も繰り替えしていた。
 ほんの少し、俺は揺らいでいた。本当にナイアを諦めるか、それとも、ケイナの言う様に、ナイアが振り向くまで頑張るか…どちらにせよ、俺に今それを決断することは出来なさそうだった。

 

 翌朝、俺はキッチンに立ってまず、不穏なものを見つけた。小さな小瓶だが、そこには「催眠剤」としっかり明記してあって…
 「ケイナ〜…」
 そう、昨日俺はコレを飲まされたんだ。未だ眠る、奇妙な縁を持つハメになった男の爪の甘さに苦笑して、俺はその小瓶をゴミ箱に投げ捨てた。

 

end

2004/08/21
ん、う〜ん…恋人として確立出来なかった感じです…
そりゃ妄想だけで突っ走って良いならナイアの存在は無視出来ますけど、
そういう訳にも…ね。ジルナイも好きだし。
ちなみに催眠剤にケイナさん、催淫剤も混ぜてます。
そっちはちゃんと処理した御様子。
そんな感じにジルケ大好きっ。