*注意*
ここから先、非常に不愉快なお話です。
DJキャラが道を踏み外し過ぎて済みません。
やおいじゃないんです。ぶっちゃけ幼女です。
興味が無い人は回れ右!クイックターンで。
本当に読むんですか?
いいんですか?夢ぶっ壊れますよ?
ではどうぞ。
…毎週金曜日、夜中に彼はやってくる。
Rapunzel …Grim[m] Monster… -Tsugaru>Shem(But she doesn't know that the wolf is he)-
「さようならー!」
中学生になっても、この挨拶は全員でやることを強要されている。今もそれを終えた所。名門校の名誉の為に、こうして挨拶は徹底することが校則になっていて…実は、こうしているのに早くもうんざりした生徒会長が、私だったりする。
本当に名門かと疑いたくなるくらい、周りの子はレベルが低い。ここに来て、私は何の為に今まで必死に勉強をしてたんだろうと、疑問ばかりを抱いてしまう。その上、日々耳にする話題も幼稚そのもの、誰が誰を好きだの、アイドルの誰が婚約しただの、よくもまぁ毎日飽きないわね、と言ってやりたくなる。他にやること無いのかしら。授業中に化粧をするななんて怒られ方を聞いたのは初めてだし、携帯電話とお菓子もそれは同じ。どうして守るべき規律も守れないで教師に不満を言えるのか、私にはさっぱり。広い敷地の中では循環バスが校門と中等部舎と高等部舎の二つの校舎、学生寮への道を繋いでいるけど、そのバスに乗ると必ず耳を塞ぎたくなる。いい加減高校生にまでなって、横入りだの割り込みだの、バス内で禁止されてる飲食をするとか、辞めてくれないかしら。毎日毎日、たい焼きじゃないけど嫌になっちゃう。
そんな感じだから、生徒会長である私への風当たりなんて無いかキツいかのどっちか。正直な話、部下にあたる役員はみんな上級生ばかり、無感動な人は淡々と事務的に仕事をこなすだけだし、副会長になった前生徒会長の高校生はことあるごとにつっかかってくる。もちろん義務だから私は皆の素行について注意する必要があるんだけど、それをすると必ず何処かからゴミが飛んでくる。もう慣れてきたけど、最年少学年の生徒会長なんて、皆ただ「ウザい」としか思ってないのが当たり前なのよ。どうして中高一貫だからって生徒会を一緒にしてしまっているのだろう、こんな酷い状況を見ても先生は何も言いもしない。ただ私に向かってこう言うだけ。
「良い仕事をしているね、その調子で最終任期まで頑張って」
息苦しいって言っても、きっと誤魔化されちゃうのよね。そんな最中に、連続殺人事件が起こった。被害者は私よりも小さい子達が多かったけど、学校では異常なくらい気を遣ってて、登下校に先生の引率、バスの完全監視、寮の出入り検査強化…諸々の規制が敷かれて、大人はみんなピリピリしてた。私だって怖くない訳じゃなかったけど、でも、事件があまりに不可解だったから、こういう規制とか監視とか、意味がないんだろうなって思ってた。…でも、その規制は私に対してのゴミの投げつけをなくしてくれた。これは本当に嬉しくて、いつまでも殺人鬼が出回れば良い、ってちょっとだけ思ってた。
学校から被害者は出なかったし、その身辺も無事だった。あっという間にそんな事を忘れた平穏な日っていうのは戻ってくる。先生達の監視も解かれるし、引率も無くなった。それは私にとっては平穏では無くなるっていうことで、また辛い日々が戻ってくる。今日もガムのゴミが髪の毛にくっついたから、バスを降りてからすぐに鋏で切り落としたけど…途端に後ろから空き缶 。もう、コントじゃないんだからね! って、怒りをぶつける場所もなくて…でも、最近私に秘密が出来た。その秘密は本当に誰にも話せない事。今日は丁度金曜日で、私は授業が終るなりその事を頭に思い浮かべた。正直な話、その秘密は私にとって悪いものなんだと思うのだけど、でも、何故かとてもドキドキする…それがあるって思うだけで、多分、アンタ達なんかと違うのよ!って叫ぶくらいにスッキリしてる。だって、本当に違うんだもの。
寮で、独り。隣との間は何メートル離れてるんだろう。角部屋のここは隣に行くまでに階段を過ぎなければ行けない。しかも真下は掃除用具の倉庫、上は屋上で完全に隔離された部屋になってる。歴代生徒会長が女子生徒になる時はこの部屋を宛てがわれるんだっていうけど、それを思うと生徒会長を隔離するのは安全の為なのか疎外の為なのか分からない。歴代みんなこうして風当たりに悩んでいたのか、それともこういう待遇がますます苦痛を呼ぶのか。どっちにしても、静かな空間は私には有難いものに思えていた。静かだし、誰にも何も聞こえない。好きに好きな事ができる。ようやく、私は落ち着いて一冊の本を鞄から取り出した。大好きな作家の本、これがあれば少しはマシ。いつも持ち歩いて何度も読み返してるから表紙がボロボロになってるけど、好きなものってそこにあるだけで幸せなもので、お世話になりっぱなしだけど買い替える気にはなれない。今日も、栞を挟んだページを開く。
お風呂に入って、少しパソコンを付けて、インターネットでニュースを見て…またベッドに戻って、読書灯を付けてから本の続きを。…うとうとしてからの記憶はない。今、くすぐったくて目を開いた所。
「今晩和、お嬢さん」
小さい声。でも低い声。頬に湿った感触があったのは、彼が舌で私を撫でたから。
「今晩和、狼さん」
返せば、多分、口の端をくいっと上に上げて笑ったみたいな顔をした。真っ黒な毛並みで、真っ赤な目で、大きくて怖い形の生き物。赤頭巾ならきっと尋ねるんだわ、どうしてそんなにお口が大きいの?
「いいかい?」
それはもうお決まりの台詞。私は頷きもせず、パジャマのズボンをごそごそベッドの上で横になったまま引き下げた。そうしている時の彼の顔…いつも涎を垂らすんじゃないかってくらいに息が荒くなって、急かす様にその息を掛けてくる。私が引き下げ終った手を胸まで運ぶと、待ち兼ねたと言わんばかりにベタリと舌で太腿を舐めた。彼はこの警備の厳しい学生寮にいとも簡単に入り込み、しかも私の部屋までやってくる。その正体は知らないけど、少なくともちょっと前の連続猟奇殺人事件の犯人だって言うのは、自分でも言っていたし、間違いないと思う。この口なら子供を食べてしまう事だって容易いはずだもの。
くすぐったくて笑うと、目を細くして私を眺める。それから少しの間舐めるのを止めて、ベッドに腰掛けて私に話し掛けてくるの。
「くすぐったかった?」
いつもそれ。でも悪い気はしない…というか、気づかってくれるのが嬉しい。そのまま暫く休憩するみたいに私に触れないでいるのだけど、ふとした時に急に再開する。今度は爪先からゆっくり、私の足の形をなぞってじっくり、舌が這い回る。…でも今日は、私から少し、話し掛ける事にした。怖いけど、でも、この生き物は私の話も聞いてくれそうな気がする。
「少し…ねえ、なんで私なの?」
狼みたいな顔の二つの真っ赤な目がきろりと光って、少し大きくなる。びっくりしたみたいに耳も急にピクピクして、座ってこっちに見える尻尾もふりふり揺れて、なんだか、本当にあの事件を起こした犯人なのか、疑わしくすら思えてしまった。
考え込むみたいに顔をあげて私を真っ赤な目でじっと見ながら、しばらくは口の中で牙がかち、と鳴らせたり、耳をぱたり、とはためくみたいにしていたけど、彼はついに牙だらけの怖い口を開く。
「君を」
そこまでで一度唸った。ぐる、ぐる、と喉の奥で空気が転がされたような…犬特有の、低い音。
「見掛けて…足が、綺麗で、忘れられなくて…見かける度に、欲しくて欲しくて堪らなくなって、もう堪えても堪え切れなくなって…どうしたら、手に入るかって、そんなことばかり考えてしまうようになった」
声が一定にならなくて、上ずってみたり急にぼそぼそしてみたり…映画で見るような、何かに対する情熱を語る役者みたい。でも、本当に私をじっと、さっきよりも光を反射する眼でみつめながら捲し立てる様子は、そういう気持ちが凄く強いのかもしれないって思える。
「それで…本当に堪え切れなくなって、君を脅してこういうことに至っているっていうわけだ」
悪戯っぽく語尾が跳ね上がって、爪先をぱっくり銜えられてしまった。でも危機感はない…とうより、食べるはずがないと思ったから、心配もしなかった。もしかしたら怖がらせるつもりだったのかもしれない、でも私が平静としてるものだから、べろ、とそのまま爪先は吐き出されてしまう。
「…まあ、そんなことだ。 …多分、性欲だよ、これは」
そう言うだけ言ってしまうと、また太腿に戻ってくる。熱くてざらざらしてる舌が、ぬ るっとした唾液で私の足はぬらぬら光ってく。痛いようでむず痒いような変な気分。時々牙が引っ掛かっても痛くない。何度も作り物なんじゃないかって思ったけど、どうしても、そうは見えなかった。いつも、時計をちらちら眺めていて、午前二時に帰って行く。今日もあと五分、という所で辞めてしまった。
「また来週来るよ」
名残惜しいみたいで、ベッドから少し離れた場所から脚を見つめてる。最初は脅すような口調だったのに、最近はこうして恋人が秘密の逢瀬をするような、ごく親しい挨拶に変わった。私があんまり抵抗しないからかもしれないし、もしかしたら私の心を読んでるのかもしれない。お化けならそういうこともできそう。
「明日は?」
こちらから聞いてみる。怖くはないもの、むしろ…無機質な教室にいるよりも、ずっとこの生き物は暖かくて、私を気にしてくれる。来るなら毎晩だって構わないかもしれない。自分を我侭だと思う、大事にされたいなんて、そんなの自分勝手な話なんだから。
彼は少し首を傾げていた。また驚いているのか、尻尾も耳もせわしなく動いている。
「どうして?」
怖くないのかい、俺のことは嫌いだろう? と、彼は小声で言った。まぁ、お馬鹿さん。
「嫌いな相手に、明日は、なんて聞かないわ」
そう言ってしまえば、むぅ、と鼻から唸り声が漏れる。
「用事がある」
断られた。そう、と一言言うので精一杯。でも、まだ考え込んでいる。腕組みをしてどこか明後日当たりを見ながら首を傾げてると、なんだか黄色い熊のぬ いぐるみを思い出す。考える、考える…そんな事を思っていると、二回目の「どうして」を提示する。
「迷惑だろう、殺人犯に身体を晒してるんだぞ」
自分の事なのにまるで他人のような言い種。失礼しちゃう、好きでパンツ一枚の下半身晒してるわけじゃないわ。そうしろっていうからそうしてる。…最近は、それを待ってるのに。
「私にも色々あるの」
わざとらしく溜め息を吐くと、そういうものかい、と呟く。それから腕を組むのを辞めた。
「なら、来週は土曜日に来ようか?」
「そうじゃなくて」
気付いたらアニメで動物のキャラクターにやるみたいに、彼の鼻を人差し指で押していた。面 喰らって彼は目をぱちぱちと何度も瞬いて、私と指を見比べていた。
「金曜日に来て、土曜日にも来てほしいの」
噛み付かれたらどうしよう、一瞬そんなことも考えたけど、もともと悪戯でそういうことをしても本気では噛み付かない彼だもの、とても紳士的に指を少しだけ鼻先で押し返して、少しだけ口を開いて、考えと答える言葉をどう出そうか迷うみたいに、あー、と小さく鳴いた。
じっと私を見る。
「二日来てくれ、と?」
多分眉毛あたりの部分が、右側だけくいっと上がる。そう、と頷けば、口の端を少しだけ持ち上げた。…多分微笑んだんだと思う。
「あぁ、確かに嬉しい申し出だ」
じゃあ、と私が言うや否や、彼はだが、と否定の言葉を口にした。
「俺にも事情がある。 …あまり時間が無いんだ」
ごめんな、と少し近付いてきてほっぺたを舐める。そんなに浮かない顔してたかしら?
「別に…貴方にも、私生活っていうものがあるんだろうし」
少し手でその顔を押し返すと、ふっと鼻息が掛かる。普通の犬とは違って生臭いとかそういう感じじゃない息。もし犬科の動物か人間か分類したら、この生き物は、彼は、一体どちらになるのかしら。どちらでもないのか、それとも、どちらでもあるのか。たてがみもどう刈っているのか、髪の毛みたいに見えなくもない。前髪みたいな場所、もみあげみたいな場所、後ろは首の真ん中くらいまでで、そこから先は首の毛。その下が全部裸だけれど、この薄暗い部屋だと全身を見た事はない。でもちょっと気になったりするから、服くらい、着てくれないかなぁ…。
「じゃあ、また金曜日」
「ええ、また金曜日」
まるで絵本のように繰り返すと、彼はにっこり笑って…多分、そうしてから、窓の外の樹に跳び移った。その次には女子寮を囲む塀に乗り、すぐに跳び去って見えなくなる。あんなに素早くて、簡単に動くんだもの、誰も目撃者になんかなれないんだわ。
窓からベッドに戻れば、そこはいつもの私の部屋になる。月曜日を迎える間では平和な…寮の中で誰かに会わなければ平和な時間を過ごせる、はず。食堂に行くのも億劫なのよね。いっそ、彼が私を攫ってくれればいいのに。生きるって、なんなんだろう。そんな、私ごときが考えても一生解らないような哲学的な言葉が浮かんだ。それを、一度起き上がって携帯電話のメモ帳に書き入れる。今度彼が来たら、彼にとって生きるってどういうことなのか、聞いてみよう。別 に解決なんて望んでない、ただ聞きたいだけ。
私の今生きる意味って、きっとここを、大学院まで主席で卒業する事なんだと、思う。両親はそれだけを期待して、周囲の人間もきっとそれを期待している。でもその先は? 良い会社に就職? 次は重役に? 最後は社長かしら? 私の生きるっていうのは、そうやってお金と名誉を作る機械みたいにしていること? だったら私じゃなくたっていいのに。どうして私なのか、それはただあの両親の間に生まれたのが私だったから、それだけのことなのに。
私はもっと自由にデラをしに行きたいし、もっと自由に友達と遊びたい。もっと自由に発言したいし、もっと自由に行動したい。
彼はどうなんだろう。彼は彼の自由で生きているのかな。人をあれだけ騒がせても平然と私に会いに来る。罪の意識みたいなものは感じない。赤い瞳は私の脚を見て潤んで光る、それも彼がそういうことが出来る力と自由を持ってるからなのかしら。いっそ、彼に殺されてもいいかもしれない…そんな、本当に直面したら逃げ出したくなるかもしれないことを一瞬想像して、私は携帯電話の電源を切った。明日は…せめて、寝坊しよう。それが私の「生きる意味」を縛り付けた人達へのささやかな抵抗なんだから。
Rapunzel Ende
2006/02/19第三段、こっちは津軽視点になります。
津軽はセムだとは知りませんが彼女なりに金曜日が楽しみなようです。
にしたってまた犯罪のにほひが!すみません!
でもおそらくコレ、まだ続きます…