大人と云う名の轍を踏んで、どれくらいの日が過ぎたろうか。
あれから数年でたくさんの事を学び、変わり、あの日々を…FAR FROM...
独り、眠る。自ら選んだ道で、日々すべき事を終えてこうして眠っている。未だゲームセンターにも通 う。けど、徐々に忙しさが押し寄せる…そう、あの時既に自分よりも大人だったあの人の様に、若く新しい面 子の様には足を運べなくなり、時折は日々の疲れに行こうとしていた意思さえも曲げて、こうして寝床に沈み込む。
浅い夢の中で、過去に、未だ余裕があった頃に、ゲームセンターで聴いた声を反響させる。何度思い出しても忘れ得ぬ 声、それがこうして今も生きる内に響き、支えとなり、その声を発した人々と未だ繋がれる事に歓喜する。
そしてそれは明日も、その次も、ずっと…変わらない。いや、そんなことはないはず。それでも、自らを偽って、変わらないと、少し開いてしまった眼を伏せて、眠る。そんなある夏の終わりに、手紙が着く。
住所はとても遠く、ただ遠く、そして宛名は友のものだった。
便せんは濡れて縒れ、中身を開けば黒い文字が眼を打った。
ただただ遠くに行ってしまった事だけを綴った文字の列、既に遅きを告げる日付け、未練を微塵にも感じさせない簡潔な言葉。
急ぎ、仲間に連絡をする。同じ文が皆に届いていた。ただ沈む存在の重さ。どうして、と誰かは、ただそれだけを、言った。馬鹿馬鹿しい嘘だと、また自らに嘘を吐く。そしてそれを実証したいが為に、自分の持つしがらみを凡て振り解く様にして、友の、住まう家に走る。合鍵は無い、扉を叩く、表札には名前も無く、いつも扉の向こうから聴こえた声は…幻が聞かせた。既に空虚とかした空間だけが、扉を叩く音をしんと受け止めていた。
夏の終わりの日、風が強く吹いた。きっと事情がある、仕方が無いと、勝手に彼の人を加害者にし、その理由を聞かぬ まま許した事にする。どうして、と自問した。いつの間に友の先行くを許し、まるで知ったような顔でそれを諦めるようになったのだ、と。あの日あの時持っていた、友へ詰問する熱さは失われている。それが大人になった事で払う代償だった。友を想い愛を持って、自らの感情を余す事無く自らの意思と出来ていた、その情熱を、大人であることに必要な惰性と事勿れ主義と交換した。
何故。最早意味も成さない疑問だけをぶつける。遠くの友を浮かべて投げ付ける。何故。今自分が、たった今自分が諦めた事をそれでも矛盾して、投げ付ける。矛盾に壊れた問いは届く事無く、ただ虚無に寄って落ちる。その答えを、と、自らの意思を貫く心も、既に自分の心を終われて久しかった。ただ風がその、最後に残された手紙への返事を届けてはくれないと、雨雲に覆われ始めた夕日を見上げた。突風は、急に眼が開いた様に見えて来た、疑問も問いも、矛盾も情熱の残り香も、全て掻き消した。
いつまでも友は変わらずにいる、そう考えていた昨日の自分が寝床を前にして剥がれ落ちた。全て嘘だった。自分が痛みを受けぬ 為に作り上げた嘘だった。眼を背ける為に長い間唱え続けた嘘の言霊は真実の力を帯びる事をしないままに、嘘だった、と自ら告げた。
自らが自らに吐き続けた嘘、そして友の遅きを、ただ憎む様に、じっと心にしまう。それが荒れ狂う嵐になるのは簡単だった。何故、とまた問う。何故嘘を。何故一人で。何故続けた。何故、行ってしまった。雨の音がする。窓を見る前に目の前は豪雨に打たれて濡れていた。ゆっくりと風が鳴らす硝子の向こうへ眼をやれば、やはり豪雨が外をただ流す。光も静かに、それを受けて滲んでいた。
ふと、黒く濡れた硝子に映る自分の顔が見えた。汚れた顔、眼は光を無くし、自らの世話もしないままにある姿。
不意に、笑えた。外に出れば突き裂く雨が体を強く打った。打ち殴るようなその雨に、荒れ狂っていたものがゆっくりと、少しだけ、小さくなる。少し笑う。まるで馬鹿の様だと自らを笑う。何も持たず、こうしてこんな時に、冷たく、暗く、辛く、吹き抜ける風と打ち付ける雨に身を嬲る。
無力だ、と小さな声は頭の片隅から聴こえた。そうだ、自分は無力だった。嘘を吐き自らを保つ事で精一杯だ。この雨は、教えてくれるだろうか。何故友がここに居ないだけで喜びが途切れたのか。
台風のような雨だ。だのに、朝の天気予報が通り雨を予報していたのを思い出す。教えてくれるだろうか。
友に、思いを伝えてくれるだろうか。
FAR FROM... end
2005/08/31
BRAHMANの歌詞が好きです。
最初はCDを持っていなかったので英歌詞はほとんど分からず、
日本語も意味合の難しい言葉が多く、分からないままでした。
今年の夏、一年越しにBRAHMANの良さを思い知り、
CDを買いました。
こんな最後の夏休みに、残暑見舞いには少し重い、別れを選びました。この話の主人公はデラのDJキャラなら誰でも当てはまる話です。
お好みのキャラを当てはめて、読めると思います。