所詮叶わぬ儚い恋模様

 

 知ってます、俺はアンタの手の中で踊る道化、そうでしょう?
 だから今言える事はたった一つなんスよ。

 「夢なら醒めないで…」

 ああ、なんでこの人に惚れたんだろう。笑わない吸血鬼。こうやって満月の夜になると淫乱になって俺を求めて。でも翌朝には何事もなかった様にして。なんでこの人、こんなに覚めてるんだ?

 所詮叶わない、儚い恋模様。

 一回思い切って告白した。…辛らつな答。俺は一気にドン底で。
 「私は愛し方なんて知らない」

 玉砕したその日にモノクロの夢を見たのを思い出した。
 夢の中で夢を見た。夢の中で一度眠ると灰色の映画の背景みたいな寂しい街の中に居て、うろうろする内にアンタを見つけた。俺を見るなりにんまり笑う。満月の笑顔で、その唇が横に割れて、小さな笑い声。俺が釣られて笑うとその笑いはどんどん大きくなる。有り得ない。アンタそんな笑い方したっけ。すげえ笑ってる。高笑いじゃない。かといってお芝居みたいでもない。狂っちまったの?なら俺に狂ってほしいのに。そう思いたくなるような笑い方。

 今俺の下で愛してると嘘の睦言を呟く淫乱な下吸血鬼だぞ。
 俺は本気で愛してるのに。悔しいな。

 夢の夢から夢に戻ると今度は夕日に透かしたミックスジュースみたいな白味掛かった世界の中で真っ赤な夕日に街が照らされていた。ちょっと変な色。でも目の前には当然の様にアンタが居て、俺は困らせたくてこんな事を言うんだ。
 「俺のココロが行方不明ッス」
 そうすると酷く困った顔になった。嬉しいな、そんな顔もできるんだな、アンタは。それとも俺の妄想か?どちらにせよ、俺とアンタと二人で街の中を歩き回る。見つかるかな、色も形も知らない俺の心。

 窓の外には今夜月はない。じゃあ今すぐアンタの部屋に乗り込まないと。俺はアンタが好きだから、月なんてなくても抱いてやる。言葉で愛せないなら身体で愛してやる。連れ出してやるんだ、たった一人のベッドにくっ付いた硝子の扉を開いて、そこから天鵞絨の空の見える快楽の在り処まで。

 お決まりの台詞、「ユーリ、愛してるッス」そう呟くとアンタ、クスクスって小さく笑って何も答えないだろう。せめて反応してくれよ、イエスかノーか。二進も三進も付かなくて、でも分かるのはコレがしょせんは叶わぬ 恋って事で。
 ああでも、抱いてる間だけ、「愛してる」って譫言みたいに言うだろアンタ。どうせコレが夢みたいなモンなら本当、醒めないでくれ!どうせなら俺をアンタに惑わされる道化のままで居させてくれ!

 段々変わってくる。「ユーリ、愛してるッス」「ああ」なんだ、答えてくれる。なんでだ?俺の気持ち、伝わったって自惚れて良いのかな。でも抱いてる間、誰に愛してるって囁いてるんだ?

 こうやってつかの間の優越感や幸福も、音もなく崩れていく瞬間に飲み込まれる。
 ただそうやって俺には分からない事がある。
 ほとんど理由もなく、けれど容赦なく、俺の中で優越感も幸福も終わりがやってくる。この恋も終らせた方が良いのか?

 「ユーリ…愛してるッス」
 この台詞で何回夜のアンタに近づいただろう。
 でもダメだ、アンタ結局こっちを見てなくて。
 ほら、今夕日が沈む。俺の心ももう沈んできてる。ユーリ、愛してたッス。

 何にも無かった頃に帰ろう。

 ゼロに孵ろう。

 今夜、満月。部屋にはきっちりときつく鍵が閉めてある…
 俺の理性が負けるか、アンタの欲望が負けるか。

 

eNd