毎日飽き飽きしてる顔。ボクが…変えてみせようか?

Waltz

 全てに飽き飽きしたって、ユーリはボクに漏らした。その椅子に座ってもう何年だったっけ?そりゃあボクはフラフラして楽しんでるけど、ユーリはいっつもそこで毎晩開かれる舞踏会を見てる。飽きないわけないよねぇ…
 「スマイル」
 呼ばれて飛び出て…いや、ギャグやってる場合じゃなくて。ボクはユーリの前に寄ってから姿を現した。
 「…今日はワルツに合わせて踊るのだそうだ」
 ワルツは踊らないのにな、ユーリはそう吐き捨てて席を立った。その首に鎖が繋がれてる。ユーリのパパがくっつけたんだ。ユーリが毎日ダンスを見てられるようにって。これが外れるのはダンスしてる時だけ。ユーリはでも、いつも逃げられない。パートナーにしっかり手を掴まれちゃうんだ。
 「今日はボクもおーどろっと」
 ボクは一つ悪戯を考え付いた。ユーリは紅茶を入れながら、そうかって、一言言っただけだったけど。

 「あーあ…」
 毎日じゃないけど決まったサイクルで繰り替えしてるだけのダンス。ボクだって全部覚えちゃったよ。
 「まるで機械だねぇ…」
 ボクは準備をしながら一人でそのダンスの輪を見ていた。執事に賄賂を渡したら呆気無く部屋が一つ、鍵付きで手に入ったし、準備は万全…あとはお姫さまを救い出すだけだってワケ。そのタイミングは、ワルツが始まったらすぐ。

 ワルツの調べはボクには眠たかったけど、できるだけリズムに乗って黒いマントをひらひらさせながら踊って見せる。ユーリも気付いたみたいで、パートナーを渡りボクの所までやってきた。
 「やぁ、お姫さま」
 ボクが笑うとユーリは微笑んで、本当に来たんだなって、小さく笑った。銀色の髪の毛に僕は指を絡ませた。
 「さぁ、ホラ、一緒にね?」
 ボクは手を握ってリードした。ユーリは合わせてダンスを女性型に変える。もう完璧なダンスに、誰もついて来れない。

 決まったダンス、もちろん足の置き場も、全部。それでボクはいくつかの法則をきちんと整理し、すり抜けられるようにステップを踏んだ。ユーリは戸惑ったように、でもボクに付いて踊る。そのまますり抜け切ったところで、ボクは思いきり廊下に飛び出した。
 踊る人々は踊ることに熱中して止めることさえしない。ユーリのパパはこの場にいなかった。ボクとユーリだけのステップで、執事に借りた部屋へ直行する。

 「スマイル!」
 あんまり驚いてユーリは部屋に入るなり口元を押さえた。それはユーリが驚いた時によくやる仕種。
 「…びっくりした」
 その顔にははっきり楽しいとか嬉しいとかそういう感情が出てる。素直だなぁ…なんて、ボクにしか分らないだろうけどね、彼のこんなカオ。
 「じゃあもっと楽しいことを教えてアゲル」
 ボクはユーリをお姫様みたいにだっこして、ベッドまで運んだ。
 「何、スマイル?」
 ユーリはたぶん、本当に何か分らないでいったんだろうけど、その声も顔も、ボクを誘ってるみたい。少し傾げた首がイヤラシイんだよねェ…
 「ヒヒッ…何だと思う?」
 ボクは楽しいゲームに興じることにした。明日からダンスの度に、ユ−リをさらってやる。ボクも毎日に飽き飽きしてたってコトなのかな…

 「…ッ!」
 ユーリは声も出せなくて、バタバタ暴れた。そりゃそーか、ヤローとキスなんて初めてだろーし。
 「んー…」
 ボクは舌を上手くユ−リの舌に絡ませてユ−リの口の中に触ろうとした。途端、舌を噛まれて鉄の味がした。ボクが痛くて放すとユーリはベッドに肘をついて何度も肩で呼吸して、それからボクの方を肩ごしに見遣った。
 「…ス、マイル…」
 目が潤んでる、ほっぺたも赤ーい。
 「…なんか…なんだろ…」
 耳まで真っ赤にしながら、ユーリは小声で言った。
 「なんか…気持ちよかった…本当に今の、ただのキス…?」
 ただの、じゃないねーというと、ユーリは目を丸くした。体を起こして子供みたいに身を乗り出して、じゃあ何、って問いつめるから、ボクは、好きな人とキスすると気持ち良いんだよって言ってやった。ユーリは今までずーっと、好きな人じゃなくて、用意された女とだけ関係を持ってたしね。きっとマズいキスばっかしてた…一度覗いた時、ユーリは女のキスくらいじゃビクともしなかったんだよねー…。
 「同性相手なんて…」
 ゆがんでる、そうだろうねぇ…ボクは歪んだ恋をしちゃったみたいだから、もう、引き返したくないんだヨ。

 それからダンスの度にユーリを連れ出した。ボクが行くとユーリは目だけで、早く、なーんて可愛く合図する。お決まりのステップの合間を縫って部屋まで抜ける、それがボク等のオリジナルのステップ。順番に踏んでお部屋に御案内ってワケ。
 「スマイル、凄い…!」
 魔法のように通り抜ける様をユーリは何か宝物を見せてもらった子供のような顔をしてはしゃぎたいのを堪えてた。あっという間に廊下、それから、ボク等のスウィートルームだ…ヒヒヒ、ちょこっと割り増しで賄賂上げたら、あっさり部屋の合鍵全部くれたヨ。もう邪魔は入らないねぇー…。

 「ふ…」
 今日は噛まないでーなんて念を押したから、ユーリは完全にボクの舌を受け付けた。ユーリが苦しくなれば放して、何度も何度もキスばっかり。ユーリの舌も唇もあり得ないくらい柔らかくてあったかくてまるで吸血鬼だなんて思えない。キスの度にユーリの体は熱くなる。顔がまた真っ赤で、…ヒヒ、処女みたいだ。
 「スマ…」
 息を切らしてボクを見る。その赤い目に熱が籠ってる。
 「スマイル…」
 「どしたのぅ?」
 ボクが首を傾げると、その首にギューッと、ユーリが抱きついてきた。
 「う…動くな…」
 噛まれるかなーとか、痛いのを覚悟してたんだけど、ユーリはギューッとしたまま。しばらくして、眠っちゃったのがわかった。ユーリってば…可愛いよね?

 ユーリの鎖が外れるとダンスガ始まる。ボクはその度にマントを翻す。今日も居るよって合図。ユーリはボクの合図をきっと待ってる。

 そんな感じでもう何回逃げ出したろう?ボクはキスだけじゃ飽きてきた。また繰り返しの毎日になってるだけだってボク、気付いちゃったんだよねぇ…
 その日はユーリを部屋に連れてきて、ベッドに下ろして、それから…
 「ちょッ、スマイルッ!」
 一発殴られた。無理もないヨね、いきなり服脱がそうとするなんて確かにオカシイから。
 「ユーリ、ボク、ユーリが好きだよ」
 ほっぺたを舐めてやる。そうするとユーリはびくっと震える。
 「だからね…先に進みたいんだ」
 そう言ったら、ユーリはキスが終わったのと同じくらい、顔が真っ赤になったんだ。可愛い…ユーリは可愛い。ボクだけのモノにしたい…
 「スマイル…あの…」
 ユーリはぼそぼそなんか言ったけど聞こえなかった。けど多分、いいよーとか、優しくねとか言ってたんじゃないかな…自分でブラウスの前のボタン、外してくれたから。

 最初の一晩はボク、かなり殴られたし蹴られた。ユーリだから許すケドね。
 次の一晩はユーリが痛いのが怖いって分かったから、ちゃんとジェルを用意したヨ。
 三日目の夜は羽と足首が性感帯だって知ったんだぁー…ユーリはビックりしてたケド。
 四日目はユーリが嫌がったからキスだけにした。ボクって優しー。

 「はぁッ…」
 息が詰まってるみたい。五日目の今晩、ボクはユーリの震えてるソコには触らない。いつもはソコに触ってあげないとダメなんだけど、今晩は大丈夫みたいなんだヨね。だから、ユーリと繋がって、ソコに触らないままでイかせてあげられそう。
 「…すま…ぁ」
  ボクの下でユーリは汗だくになって堪えてる。何を皮色々あるから言わないけど、でもボクもそうそう我慢効かないヨ。
 「いくよ?」
 ユーリが頷くのを確認してから動き始める。ゆっくりしたいけど、ボクのカラダは欲望に忠実で…ヒッヒッヒ…手加減なんかしないヨ。
 「あぁアッ…ア、ぅあ…すまっ、スマイルぅ!」
 甘ったるい声。可愛い顔。息。全部全部ユーリの。それで、ボクだけの。
 ユーリの中に出すと、ユーリはそのすぐ後に僕のお腹をベチャベチャにした。

 それでもう何回の夜を過ごしたんだろう?ボクはまた同じサイクルになってることに気付く。飽きて来るよねェ…毎日毎日同じじゃ…

 「やっ…何、スマ…!?」
 ボクは遂にやってしまうことにする。俗に言う女王様の道具を一通り揃えて、ボクはユーリを鞭で打った。
 「あッ!」
 ユーリは逃げる。そうそう、そうじゃなきゃ面白くないヨ…
 「スマッ、なんで…?」
 泣きそうな顔でボクを見る。
 「なんで…だって?」
 ヒヒヒヒヒ、ボクは笑いが堪えられずに大笑いした。ユーリは呆気にとられてる。
 「好奇心だヨ、ユーリ」
 みせたげる。ボクの好奇心の源を。コレだよって。
 ボクが左胸の上に手の平をおいて、鎖骨あたりに指を異いれて、鮮血が飛び散ってその胸の皮膚も筋肉も皮も血管も全部引き剥がして見せると、ユーリは真っ青な顔でそれを見つめた。
 「スマイル、しん…死んでしまうだろう!?」
 ユーリはボクの肉の蓋で心臓の見える穴を塞いで、ボクをじっと見る。
 「…スマイル…私は普通にしたい…」
 ボクは…ボクは鞭を投げ捨てて、ユーリを抱きしめたままベッドに転がった。
 …ほだされてるヨ、ボクは。 アレほど嫌だった普通を、ユーリはボクが居ればそれでイイなんて、そんな甘い言葉を囁いてくれちゃうから…
 「また飽きるまで…我慢してアゲル。」
 ユーリはボクの言葉にクスクス笑った。
 「殺されないように抵抗するよ?」
 もちろん、望む所だヨ。

 たとえ周りの誰がこのことを知ってたってボク等はボク等なりに同じダンスを踊ってることに変わりはないんだ…

 

 

Waltz -end-