除隊。
ピアス -Nix-
除隊された。…その日の内、俺は親父に呼び出された。
「どういうことだ」
軍の中でも高い位置に属する親父にすら、俺の除隊の理由は届かなかったらしい。
「…面汚しめ」
唸る。なんだよ、たまたま曾祖父さんの代から軍で良好な成績を持ち続けたってだけだ。そんなの、俺にまでそれが引き継がれると思ってる都合の良さが悪いんだ。
「お前の我が儘で空軍に入れたと言うのに、この様か」
歴代海軍。興味も無かった。ただ、俺は空を飛びたかった。海みたいに底があって限られた場所じゃ無い、高くて広くて何も無い空が飛びたかっただけだ。
「出て行け。」
それを最後に、親父の顔は見ていない。お袋は泣きついて親父に何か喚いていた。でも喚くばかりで特に何をしようということは無い。多分、せめて家に置く様に、せめて一緒に暮らす様にと、頼み込みでもしてるんだろう。それに反して、俺は家を出る準備を始めていた。最後に一度、もう一度軍の本部に行かなけりゃならない。それが終ったら、どうしようか。
こんな腐った家を出られるなら、野垂れ死にでも本望だ。
除隊が不当なものである。それは上部にも認められていた。けど俺の張り合った相手が悪過ぎた。軍のスポンサーの息子で、そいつへの懲罰は軍の先行きを暗くする。今や政府だけの金では動かないのが現状らしい。
残念だよ、と、最後に事務的に掛けられた声は、本物だったのだろうか。眼鏡の奥、暗いものを宿す目で俺を見る会計事務の男。見送りは無い。
「内密に、な」
分厚い封筒を渡された。開封しないまま、軍基地を出た。
除隊が不当なものである。だから、俺の除隊には多額の退職金が出た。今月分の給料も、本来の除隊であれば日割りになる所を全額支給され、さらに一枚だけ手紙が入っていた。走り書きで、「Sorry」と一言。
笑えた。
新しい住居を決める。それまでは駅前の漫画喫茶でどうにか夜を明かした。なんとかボロアパートの一部屋を借り、持ち出したボストンバッグ一つ分の荷物を部屋に適当に出した。何も無い部屋だ。何も無い。
翌日、極小型の冷蔵庫と電子レンジ、それから寝袋を買って来た。できるだけ出費を抑えたい。やりたいことが出来たから。
池袋でピアスが比較的安い店を見つける。そこでピアッサーばかり九個買い込む。店員は別 段驚きもせず売ってくれた。一緒に消毒剤を勧められ、断る。適当に薬局で消毒液の安売りのを一つ買えば済むことだ。
家に着くなり薬局で一緒に買った簡易保冷剤の中身を割る。ピアッサーを全部箱から出して、左耳を感覚が無くなるまで冷やした。
もうどうでもよかった。とにかく開けられれば。終ってみれば軟骨に五つ、耳たぶに一つ開けていた。ただバチンバチンと大きな音が六回しただけみたいだったのに。冷やさないまま、右耳の耳たぶにピアッサーの針を当てる。
さすがに、悲鳴をあげずにいられなかった。
落ち着いて来たら、また、笑えた。
「いらっしゃいませ」
やる気のなさそうな店員が一人、カウンターで雑誌を読み続けながら俺を一瞥した。
「…タンエッジとリップ…。あと…フレナムとダイドー」
前にピアスマニアの元同僚から聞いた内、覚えておこうと思ってメモ書きした名前を上げる。カウンターの男は顔色を変えた。
「何を通す?リング?バーベル?」
カウンターの上のピアスの一覧を見る。形は多々あれど、とにかく通す形を決める。
「タンエッジとリップにはリングでいい。フレナムも。…ダイドーだけバーベルがいいか?」
「…ダイドーは場所が場所だけにバーベルじゃないと使い物にならない」
「ならバーベルでいい」
店員はそれをメモして、ついと俺の耳を見た。
「それ、自分で?」
軟骨をペンで指し示す。消毒はしているが昨日開けたばかりでまだ血が滲んでる所もある。
「ああ。…昨日な」
少しピアスに指先で触る。金属が俺の体温で暖まってる。早く定着すりゃいい、好きなピアスを好きに付けたい。
「一度には開けられない…予約で一週間に一つずつ、だな」
今日一つ、どこに開ける?言われて俺は…フレナムを選んだ。
相当間抜けだと思う。座ったり寝転ぶと内股に擦れて痛む。その度に唸る俺は傍から見れば相当間抜けに見えることだろう。最初の二日は気を付けて、と、ピアスを通 した男は言った。カウンターの男も見にきて、俺には出来ないなぁ、としげしげと眺めているくらいだ、やる奴もそうそういないんだろう。
早い話がチンピアって奴で、今裏筋に一つ、リングが通っている。極小さく、生活に支障が無いようなサイズで、今はただその穴が開いた痛みに耐えればいい。一週間後が楽しみだった。リップを開けた。唇にリングが通っている。舌で遊ぶと滲みたが嬉しかった。
タンエッジを開けた。歯が引っ掛かる。三日くらいは、喋りにくかった。
そして、とどめのダイドー。これもチンピアだ。先の方から括れの辺りに貫き通 す。勃った時に引っ張られない様に、少し余裕を持たせて長いバーベルを通してくれた。
サービスで無料でもう一つ開けてくれる、と言われ、俺はもう一つ、タンエッジを増やすことにした。
「ニクス」
呼ばれ、ふいと振り返ると士朗がいた。
「今日こそ真面目に勝負をしてくれ」
打倒ユーズを目指すも、ユーズに相手にされず俺の所に来たらしい。当のユーズは向こうでエキスパートコースの制覇に励んでいる。
「…面倒」
ベー、と舌を出してやると、士朗は酷く面喰らった顔をした。
「お前…それ、まさかピアスか!?」
いつの間にか、こうして人を驚かすのが趣味になっていた。驚いて卒倒しやがれ、と見せつけてやる。二つのリングがカチカチと音を立てながら口の中で遊ぶのを感じて、開けた時の痛みを思い出して、独り笑う。
「お前も開ける?」
煙草に火を付けながら囁けば、また驚いて首を横に振った。いつか、誰かにこっちも見せてやりてぇな。
end
2004/3/20
ウチのMorfineこと妹は今現在4Gと12Gのピアスをしています。
4Gはもうボディピアスサイズで、拡張も血が出て当たり前のレベル。
元々妹は痛みに鈍く、ピアスもやすやすと三つ開けてしまいました。
この話は妹ちゃんが色々指導してくれたのですが、
さすがにボディピアスを開けるシーンは無理でした。
痛いよ、一瞬でも。いいい…(ブルブルニクスは何だかんだ言って両親に迷惑をかけて、自責の念から
自分に痛みを与える行動としてピアスしまくったのかなーとか。
有り得ないかな、ありえませんか。
最近弱いニクスもいいなと思うのでやってみました。チ@コピアスはボディピアスで検索かけると色々出て来ます。
本物画像は痛そうで、おーこさん自分が痛いの大嫌いだからビクビクしちゃいました。
でもニクスはチン@ピアス二つくらいしてても不思議じゃ無いかな、とかね。
でも素でもいいと思うです。
つーかピアスはゴリゴリしそうで相手が可哀想…(笑とりとめのない後書きですが、
Morfineちゃん、ありがとう。2004/08/10
手直し。