『青猫の街』感想めも


 涼元悠一『青猫の街』(新潮社:第10回ファンタジーノベル大賞優秀賞受賞)を読み終えました。ファンタジーというよりもミステリー的な作品ではあります。文章は読みやすいし、会話のテンポもいいし、オタク的なやりとりも好きなのですが、サイバー系のミステリといったほうがいいように思えました。現実感が溢れていてたしかに「なるほど」と思うのですが、ネットをそれなりにやっている人なら「うーむ、ファンタジーなのか?」と思ってしまうじゃないかと思います>ぼくはそうでした。 逆にいうと、ネットをやっていない人やそんなに詳しくない人には御勧めなんですけど、ある程度知識があると何だか「普通の小説じゃん」という気分にさせられるような気がします。その辺りが惜しいところです。

 作者のホームページに本についてのアフターケアがあって、FAQなどがあり、その点はとても重宝すると思います。

 あらすじは三井不動産販売に書かれておりますので、そちらを参照してくださいませ。

 現実に即した形でのインターネットミステリはあまり見かけなかったのでその点では斬新だとは思いましたが、SFを中心に読んでいる人やミステリーを読んでいる人にはちょっと物足りないかもしれないと思いました。インターネットのメリット・デメリットを書いている点、ハッカーやクラッカーの生息する場所、検索エンジン、草の根BBS、メールボムとかの小道具や、オフラインミーティングやMLとかの雰囲気はとてもよく出ていると思います。そういう意味では現実感覚があるので、主人公の神野に没入しやすいとは思います。あとは作者の蘊蓄なんですが、結構こういう部分はなつかしーとか思ったりしますけどね。雰囲気はとてもよくできているし、文体が好きなので読みやすかったです。でも不満もかなりあります。

 でも、何だかインパクトが足りないような気がするんです。例えば失踪したAが作っていたソフトがどういう役割を果たしているのかぼくの読解力の不足のせいか、よくわからなかったです。この架空の街がどう関わっているのかがわかればより面白くなったように思えるのですが。あとは青猫の存在にしろ、確かにSF的ではあるのだけれど、なんとなくぼかされすぎてもったいないと思います。何が足りないのか?というと青猫の正体が結構ありきたりになっているということ、現実感覚に即して書かれているのでファンタジーとは言い難いことです。失踪人やホームレス問題などを取り入れている点からもいってやっぱり現実社会に近似しすぎたために、ファンタジーを描き切れなかったように思えるんです。

 一言でいうと、クーロン黒沢さんの著作から毒を抜いて、物語に構築した雰囲気だったです。サイバーパンクとかそういうものではなくて、あくまでも「現実」にものすごい近い非現実作品を描こうとして、現実的になってしまったという感じです。