『自転車で月に行った男』感想めも |
バーナード・フイッシュマン『自転車で月に行った男』(ハヤカワ文庫FT)読了。自分の存在がだんだんと薄れていく感覚があったステファンは仕事でもプライベートでも成功していた。しかし何をやっても満足感が得られないのだ。ステファンは妻からもらった10段変速の自転車に乗って、色々な場所を見ようと思った。深い満足感と達成感を得られる素敵な自転車。この素敵な自転車に乗ればなんでもできる!そう思った彼は月に行こうと思い立ったのだ……。
ハヤカワFT文庫でもあまり見かけない本書は犬が好きな人ならばほろりときてしまう作品でした。中年男性の喪失感が見事に描き出されていて、しみじみとした気分になってしまいます。物質的には満たされているのに、心の中が満たされないという主人公ステファンの気持ちに共感する人も多いでしょう。過去を振り返れば、一度はどんなに腹が立ったことでも、いつか時の浄化を経てなつかしく、慕わしいものになるものでしょう。そんなしみじみとしたものを訴えかけてくるファンタジーです。月旅行の付き添いになった愛犬サムとの巡り合いのシーンはじいんときてしまいます。自転車に乗って地平の果てまで行きたい気分にさせます。ビッスンの『世界の果てまで何マイル』(ハヤカワSF文庫)のようなアダルトファンタジーの佳品でした。