『宇宙兵ブルース』 |
イラスト:横山えいじ野良仕事をしている素朴な農夫ビルは、集中力を失ってしまったばかりに、兵士募集のために魅惑的な音楽を流していたロボットの一人楽隊についていってしまったために、自分の人生が変わるとは思ってはいなかっただろう。がたいのいいビルを見て、「こいつは掘り出し物だ!」と一人ボーナスで膨らんだポケットを想像しながら、徴募係軍曹はほくそえんで、ビルをはめて、宇宙兵とした。ビルは平和な農夫生活と別れを告げ、新兵教育のために訓練をされる。しかし折からの爬虫人<チンガー>との闘いは日に日に激しさを加え、果てにはビルの属する部隊までもが、駆り出される始末。ビルはヒューズ交換兵として宇宙船に乗り込み、日々苦闘するが、ある日自分の乗り込んでいた宇宙船がチンガーの攻撃を喰らい、戦友たちがばたばたと戦死していく中で、たまたま打った主砲塔から発射したミサイルが、敵の艦船に命中。一躍ビルは英雄になるが……。
1965年に書かれた作品で、1967年にハヤカワSFシリーズの一冊として日本語に翻訳され、1978年に文庫化されています。
ハリイ・ハリスンといえば、モンキー・パンチのイラストで記憶に新しいと思いますが、『テクニカラー・タイムマシン』が最近復刊されて、読むことができるようになったので、知っている方も多いと思います。最近はハリイ・ハリスンの作品も書店ではあまり見かけなく、スペースオペラの一冊として名声の高い本書も長らく品切れになっていて、読むことができないのが残念な限りです。早川SF文庫からは他に近未来ニューヨークの人口爆発問題を取り上げた『人間がいっぱい』や、冒険SFとしては名高い『殺意の惑星』や、E.E.スミスをパロった『銀河遊撃隊』などを読むことができますが、『テクニカラー・タイムマシン』以外は入手が困難だと思います。
著者自身は1925年コネチカット州生まれのロシア系のアメリカ人で、第二次大戦後から復員後、美術学校に入学、漫画画家たちと知り合い、その仲間として活躍する。1948年、SF関係者の集まりであるヒドラ・クラブが設立されると、7歳のときからSFファンだった彼は即座に加わり、マーヴェル・テールズやギャラクシィ誌にイラストを寄稿し始めた。小説を書き始めたのは、病気によって絵が描けなくなったことによってSFを書き始めたのである。1960年に、アナログ誌に連載した最初の長篇『死の世界』が、その年のヒューゴー賞候補にノミネートされ、受賞は逃したが、気鋭の新人として一躍注目を浴びることになる。1964年には親友ブライアン・オールディスと組んで、自費出版の評論誌<SFホライズン>を起こし、旧態に囚われたSFに対する批判を加えはじめました。
ハリスンはまたレオン・ストーヴァーと共に、1973年に国籍を問わず前年度に初めて発表された最優秀SF長篇に与えられるジョン・W・キャンベル記念賞を創設した。現在ハリスンは世界SF会議の組織者の一人として活躍する傍ら、精力的に小説を書き続けている。現代SFを担ってきた一人として、是非読むことを進める作家の一人だと思います。なお本人はかなりの引っ越しをしていて、その落ちついた場所ははんぱな数ではありません。
『宇宙兵ブルース』はロバート・A・ハインラインのヒューゴー賞受賞作である『宇宙の戦士』やアイサック・アシモフの『銀河帝国』をパロった戦士ものSFで(両作品を読むと、「ああこの部分、パロだなぁ」ってわかります。)、野田昌宏先生もハリイ・ハリスンのこの作品を”スペース・オペラ”を知るための一冊として、指定されております。この作品はパロディ(といっても結構書かれていることは深刻なんですが)イラスト(横山えいじ氏)のコミカルさともマッチして、非常に笑える仕立てになっております。そこにはベトナム戦争への反戦のメッセージがくみ取れられますし、息子を軍隊にとられる年老いた母親の気分や、軍隊の不可解さをところどころに、作者一流の口調で我々読者に伝えている、そんな作品です。あと途中で、ごみ問題!(廃棄物問題)についても明確にメッセージを出していて、後の『人間がいっぱい』と共に、環境問題を鋭くSFにした、先見的なビジョンを持った数少ないSF作品の一つになっています。当然、登場人物も変なのばかりだし、なんだか軍隊の狂気みたいなのを感じます。この単行本もさっと読めてしまうほど面白く、「我らが主人公ビルはどうなってしまうの?」という汗を手に握るテンポが小気味いい、そんなSFです。是非早川書房に「『宇宙兵ブルース』復刊してくれー」という魂の叫びを送りつけましょう。(笑)