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「最終都市」

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Jul.3,1998 (Fri)

Katherin MacLean "Kiss Me"

 先日入手したHartwellの"Year's Best SF3"の短編からKatherin MacLeanの"Kiss Me"を読みおえる。このベストはギブスンやグレック・イーガンなど読みごたえのある作家が多いので楽しみである。MacLeanの短編はグリム童話に出てきているモチーフを利用していて、「ある日恋人(男)の研究所に出かけた主人公の女性がカエルにキスをしたことによっておこった不思議なファンタジー」という感じです。最後のオチが中々女性らしくていい感じである。英語がとても簡単なので、ぜひさっと読み流してほしい短編である。ポール・クックの方は200ページほどで、あと2/5というところまで来た。かなりぶっとんだSFかもしれないということが判明して嬉しい限りである。


Jul.6,1998 (Mon)

Jack Williamson "The Firefly Tree"

 先日入手したHartwellの"Year's Best SF3"の短編からJack Williamsonの"The Firefly Tree"を読みおえる。田舎で農業を営んでいる(非合法的な作物を栽培している)農家の主人公の少年がある日不思議な樹(蛍の樹)を気に入って育てると実は、その蛍の樹が……という話。とてもストレートな話で、読み終わった後じぃーんとしました。いいショートショートだと思います。

A&B・ストルガツキー『ストーカー』(ハヤカワ文庫SF)

 SFマガジンの特集を踏まえて、懸念だったA&B・ストルガツキー『ストーカー』(ハヤカワ文庫SF)を読み終える。原題を見れば明らかなのだが、久々に夢中に読みふけってしまいました。「地球に来訪し、地球人と接触することなく去っていった異星の超文明が残した痕跡、<ゾーン>。ここでは何が起こるか想像もつかず、この謎を解くべく国際地球外文化研究所が設立された。だが、この<ゾーン>に不法侵入し、自らの生命をかけて異星の超文明が残していった謎の物品をサルベージする者たち、<ストーカー>がいた……」という話。

 タルコフスキー監督によって映画化されていることを御存知の人も多いと思うが、本作品はこの映画の原作となっている作品である。スリリングな展開、未知なる危険で一杯な<ゾーン>、そして一癖も二癖もあるストーカーたち。この作品を今まで読んでいなかったことに非常に後悔している。異星の超文明にとってはあくまでもピクニックに寄ったということかもしれないが、そういう意味ではファーストコンタクトものとしてはかなり特殊ではないか?と思う。しかし、<黄金の玉>が「希望」をもたらすものであるとすれば、主人公のシュハルトは<黄金の玉>を前に何を考えていたのであろうか。なんというか<ストーカー>というハイリスクな職業をやめたくてもやめられない、男の姿が見事に描かれていると思いました。これはお薦めです。

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Jul.9,1998 (Thu)

川島誠『800』(角川文庫)

800

 『夏のこどもたち』に比べれば、ややおとなしめな感じの心地よい青春小説である。物語は中沢君と広瀬君の思ったこと、感じたことを交互に織り交ぜて進行していく。物語は陸上競技場を中心に展開される。そう、表題の通り「800m」のランナーの話である。主人公の中沢君は今風の高校生、身長も高くて、自己主張が強く、自分がいちばんと思っているタイプだが、根はとても純情な高校生。対する広瀬君は自らを制御して、「800m」のために効率的に、最適なプランを実行するという、「800m」と「陸上」のことしか考えられないタイプで、ロボットのような高校生である。この二人が「800m」を通じて、知りあい、親交を結び、そして彼らを取り巻く女性たちと恋愛をしていくという話である。

 川島誠は徹底して考え方の違う二人の姿を記していく。彼らの共通点は「800mへの情熱」だけであるといっても過言ではない。中沢君は陸上でいうならたぶん天性の才能を持ったタイプ。彼の練習シーンはあまり出てこないが、走るのが好きだから走るというわけでもない。さらに女性に関してもそうである。不思議ともてるタイプ、という奴である。一方の広瀬君にも女性に関しては不思議ともてるタイプであろうか。しかし陸上に対する情熱は広瀬君の方が熱い。だからこそ伊田さんが広瀬君に惹かれ、寝たのであろう。異質なものへのあこがれ、という要素もあると思うがやはり、陸上に対する姿勢なんだろうと思う。「物を極めようとする人へのあこがれ」ではないだろうか?広瀬君の思いは自殺した先輩の影が背後にあるし、重みが違う。もちろん、住宅環境の違いやら、トラウマの問題、身体障害の問題なども絡みあって、いろいろな思いが錯綜し、からみながら物語は紡がれている。どちらに感情移入するのか、均等なのか、は皆さんの意見を聞きたい所である。


Jul.12,1998 (Sun)

松村光生『悪い夏』『怒りの日』(早川Hiブックス)

 笠井あゆみのカバーが気になっていた松村光生のアーマゲドン2000シリーズ(全3冊)のうち『悪い夏』と『怒りの日』(早川Hiブックス)を読み終えました。Hi!ブックスは読むのがはじめてなのですが、こういう面白い話が出ているのであればこれからもチェックしたいと思いました。「東京からさほど遠くない海上に浮かぶ小島……波島、夏休みでひとり島に遊びにきていた宏の運命は、その日大きく変わることになる。宏たち子供の前で次々と大人たちは死んでゆき、17歳以上の人間すべてにその死は平等に訪れた。この異常な事態は波島だけなのか?リーダーとなった宏は、食料をかき集め、島からの脱出を図った。宏が波島から脱出して8年、伊豆高原のコミューンのリーダーとして彼は活躍していた。しかしこの8年間の間、重機で武装し、伊豆半島を制圧しようとする東京軍との闘いの日々が続いたのである。ところが宏とともに波島からやってきた正夫と美香の結婚式の当日、東京軍の突然の襲撃により花嫁の美香は連れ去られてしまった。彼女の奪還のために敵の本拠地の熱海に乗り込んだのであるが……」という感じで『悪い夏』と『怒りの日』が展開されます。

 キングの未訳長篇の"The Stand"の子供版的な話です。(映画版を見ていたので、なるほどと思いました。)大人を失った子供たちがどのように対処していくのか、そしてコミュニティを作って、大人たちの文化を継承していくのか、などなどいろいろな要素が含まれていて面白いと思いました。この本も今は見かけないので、お薦めできないのが残念ですけれど……。今日からカシュニッツの本も読めればと思っています。


Jul.13,1998 (Mon)

松村光生『目醒めの時』(ハヤカワHI!)

 <アーマゲドン2000>シリーズの最終巻である。「海と空の交わる水平線上に現れた船影−−それはアメリカからやってきた外交使節団だった。その使節団から、驚くべき情報がもたらされた。東京軍が核兵器を入手したというのだ。伊豆コミューンのメンバーは超能力者の助けをかり、東京軍の全面攻撃に対して先手を打つべく精鋭メンバーを送り込んだのだが……」というのが三巻のあらすじである。謎だった東京軍の赤杉総統(ジャンキー、危ない奴)の正体が割れる。最終巻を読んで、「やっぱりキングの"The Stand"の子供版じゃないか、これ?」と思ったのは正しいのでしょうか?ぼくはこの作品が大好きなので、松村氏のこの作品も好きになりました。ある意味局地的な闘いなのですが、不思議な力を持ったミュータントの子供たちや神の出現、そして過ちがまた繰り返されるという皮肉な結末。しかしその皮肉な結末の中にもすくいはある……。新人類になった子供たちがこの世界をどう変えていくのか、それは我々の想像力に任されることになるのであろうか……。


Jul.22,1998 (Wed)

スーザン・ヒル『黒衣の女』(ハヤカワ文庫NV)

 モダンホラーセレクションの一冊。「主人公の弁護士キップスは妻と子供に囲まれて平穏な日々を送っていた。そんな彼が<修道士の館>と呼ばれている郊外の古い別荘で、暖かく燃える暖炉の火を囲み、クリスマス・イヴの団欒で、昔からのしきたりに沿ってそれぞれ順に怖い話を披露し、誰の話が怖かったかを競い合う。主人公のキップスは誰にも話していない忌まわしく、恐ろしい恐怖の過去を背負っていたのである。彼は過去に<うなぎ沼の館>の老未亡人が亡くなった際に、遺産整理をやっていたのである。その館の周辺で彼が体験したいまだかつてない恐怖とは……」という感じで物語が展開されます。

 中年に差しかかった主人公が恐怖を少しでも和らげるために、記した一つの手記、という形式をとります。(この辺り、ホジスンの『異次元を覗く家』を想起してしまいました。)イギリスの鬱々とした雰囲気が物語全体をうまくデコレートしていて、この辺り女性的な細やかさに惚れ惚れとしました。子供を失った女性の怨念が災いをもたらすというストーリーはよくあるのですが、ここまで執念深いとぞっとするものがあります……。しかも主人公は関係のない人物、そして主人公もその呪縛に囚われてしまい、だんだんと恐怖の念に駆られていくシーンが実に濃厚に書かれていて、緊迫して楽しめました。この作品はお薦めなホラーだと思います。

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Jul.23,1998 (Thu)

Paul Cook "Fortress on the Sun"(RoC)

Fortress on the Sun

 長らく読んでいたPaul Cookの"Fortress on the Sun"(RoC)を読み終えました。いろいろな意味で凄い展開の話でした。「太陽ステーションであるRaは21世紀におけるプラズマから金属を収穫する工場であり、Rennerシールドと呼ばれる強力なシールドに守られた太陽につながれた場所であった。そこは凶悪犯の収容所であり、100人を超える男女が収容されていた。しかし彼らには犯罪を犯したという記憶も認識も薄かったのであるが。そしてもう一つ謎の理由で、彼らの記憶はほとんど完全に消去されていたのである。そんな中、新しい入獄者たちがRaへと送られてくる。彼らは受け入れられ、太陽ステーションで同様に役割分担させられることになる。ところが奇妙な病気が囚人たちを襲ったとき、比較的記憶がはっきりしたリーダー格である主人公のイアン・ハンチングはこのことを、仮釈放された仲間に託して、地球にこのことを知らせようとしていた。しかし地球はその事実を否定し、果てには仮釈放の問題や仮釈放者に対してこのようなメッセージを持たせたことに対して、もし他の仮釈放の人々を速やかに仮釈放させないとVaporというロボットを投入して、囚人達を破滅させるというものであった。イアンは禁じられた領域に進入した新入獄者の一人である、プレインフィールドという幼児退行している男性の脳を調べることで、ある事実を発見する。このことこそが、彼らの記憶を退行させているものであったのである。イアンたちはさらなる苦境に陥ることになるのであるが……」というのがあらすじです。

 ここまでは「うーん、また収容所物かなぁ?」と漠然と読んでいたのですが、後半になって謎が解けてくると「うぅ、めちゃくちゃやられた」という気分になります。日本語にも訳されている『光の使者』のアイディアをふたヒネリほどしているうまい作品だと思いました。ネタバレはしたくはないのですが、最後は<ターミネーター2>のラストを彷彿させる凄さです。翻訳は難しいでしょうけれど、意外とクックの英語は読みやすかったので機会があれば他の本にもとりかかりたいです。


Jul.24,1998 (Fri)

クライヴ・バーカー『ミッドナイト・ミートトレイン』(集英社文庫)

ミッドナイト・ミートトレイン

 この日は夏を涼しく過ごすために、身の毛もよだつようなホラーを読もうかと思い、先日そろえることのできたのクライヴ・バーカーの<血の本>シリーズの第一巻目『ミッドナイト・ミートトレイン』(集英社文庫)を読み終えました。<血の本>シリーズ自体は1985年度の世界幻想文学大賞&英国幻想文学賞を受賞しており、このシリーズのインパクトがいかに凄かったのかがわかります。

 バーカー自身の衣目地ネーションの凄さはやっぱり視覚に訴えることではないかと思いました。例えば表題作の「ミッドナイト・ミートトレイン」はまあニューヨークという街の暗黒面だけではなく、もう一ひねりしているところがすごいです。やっぱり、人肉列車の到達する先が実は……という辺りかなり現実味を帯びていて恐いです。人を処理するシーンというのが実に視覚的です。この辺りは名作『魔界の盗賊』に通ずるように、イマジネーションに訴えかけるような作品であるということでしょうか。


Jul.25,1998 (Sat)

クライヴ・バーカー『ジャクリーン・エス』(集英社文庫)

ジャクリーン・エス

 友人宅からの帰りにクライヴ・バーカーの『ジャクリーン・エス』(集英社文庫)を読みえました。一巻目の勢いも衰えず、相変わらず殺戮の嵐+神秘的な恐怖が待ち構えていました。心臓の弱い人は読まないほうがいいかもしれません。ただまた蒸し暑くなった夏の夜を涼しくすごすためにはいい本かもしれません。バーカーの作品を読んでいて思ったのは、「人間の体は所詮肉と血の入れ物である」という徹底した視点の凄さだと思いました。やはりバーカーのイマジネーションの凄さを痛感した一冊です。ホラー題材としても非常にバランスがとれているように思えました。どちらかというとメンタリティ的な部分の恐怖・異世界の存在への盲目的な恐怖を見事に描いた作品だと思いました。その辺りバーカーの力量を垣間見れてよかったと思います。

 特に怖かったのは「腐肉の晩餐」で、極限状態で人間が潜在的恐怖に感じているものに直面したときに対するリアクションが恐ろしいのと、絶対的恐怖を与えることができるものはないということへの恐怖でしょうか。立場の逆転が見事だと思いました。恐怖を与えるものが必ずしも恐怖を持っていないということではないということでしょうか。「父たちの皮膚」は、クトゥルー神話がベースになっており、かつ、インキュパスの伝説なども混ざっていてなかなか興味深い作品だと思います。そして、最後の人間と悪魔との戦いが実に映画的で凄いと思いました。(もともと森山さんから噂を聞いて集め始めて、読み始めたら正解でした。森山さんに超感謝!です。


Jul.26,1998 (Sun)

イアン・ワトスン『スロー・バード』(ハヤカワ文庫SF)

 とっても素敵な短編集です。この本はやっぱり同時並行読みの一冊で勿体なくてゆっくり読んでいたのですが、ゆっくり読めて正解でした。やっぱりワトスンはアイディアが奇抜でとても痛快だなぁと思いました。お薦めは「知識のミルク」です。一瞬リプレイもののタイムトラベラーものかと思ったのですが、まったく違って、その展開に唖然としました。そのひねりが見事だと思いました。ワトスンは長篇はいまのところ<黒き流れ>(読書中断中)しか読んでいないのですが、短篇の方が実はうまい作家なのかなと思いました。ここに「異次元を覗くホームページ」の加藤さんの感想があるので併せて参照することをお薦め致します。しかしこの短編集も今や入手できないことが残念です……。