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「最終都市」

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Nov.1,1998 (Sun)

横田順彌『山田太郎十番勝負』(角川文庫)

 念願の一軒屋を購入した山田太郎一家に襲撃者たちが!それも巨大な力士が、突然「相撲で勝負!」とかちっぽけな武者人形が「家具将棋で勝負!」とか、不条理ハチャハチャな作品に仕上がっている。負けたら彼は家を襲撃者に譲らなければならないという、無理難題の条件の下、家族が一丸となって襲撃者とバトルする。最後の寒いギャグが「ああ、なるほどぉ」という気分になれるが……。感じとしてはカフカの『審判』のギャグ版といったところだろうか。そこそこお薦め。


Nov.2,1998 (Mon)

横田順彌『寒い国に行きたくなかったスパイ』(徳間文庫)

 ハチャハチャのネタに苦しんだのか、「話にならない話」のようなつらそうなものがある。というよりもSF作品をパロった系と純粋なギャグ系とたぶん区別できるのであろうが、表題作の「寒い国に行きたくなかったスパイ」のくだらなさは「まだらのひもの」に見劣りしない出来になっている。

 まあ、アシモフの『ミクロの決死圏』ネタは結構ヨコジュンのハチャハチャでは見かけるのであるが、まさかイチジク浣腸で……(自主規制)。さらにこの作品集は女性が読んだら顔面が赤面、男性でものけぞるネタがある。「保存版 未来生活の知恵」だ。つーか、読んだら一発でわかるのだが、下手な官能小説よりもイケているところがヨコジュンの筆力によるものだろうか。この話は(戦略的撤退)。ということで、ここは読了日記なのでネタバレはなるべく避けたい(特に短編集では)ので、入手して読んでみてください。お薦め。


Nov.3,1998 (Tue)

レイ・ブラッドベリ『太陽の黄金の林檎』(ハヤカワ文庫NV)

 ブラッドベリがハロウィンの作家(10月の作家というべきか)という説には賛成。そんなブラッドベリの才能が如才なく生かされた見事な短篇集。「霧笛」は誰もがどこかで読んだことがある作品だろう。霧の濃い灯台の下で二人の男が見たものは……。そして『黒いカーニバル』にも確か似たような話が収録されていたはずであるが、「四月の魔女」がお気に入りである。心が切なくなるだろう。

 なんというかこの短編集では「滅びゆくもの」をテーマに、「打ち捨てられたものにも必ず何か美しきものが存在する」ということが根底にあるのだろうか。ぼくたち自身、新しいものを追及して古き良きものを背後に見捨ててはいないだろうか?と考えさせてくれる短編集だと思った。あとは表題作「太陽の黄金の林檎」はイメージするだけでなんだかわくわくしてしまう作品じゃないかなあと思う。「炎もて進む宇宙船が彼方から来たりて、我々に希望の火を灯してくれるであろう。」って感じか。強力にお薦め。


Nov.5,1998 (Thu)

横田順彌『ヨコジュンの日本おかし話』(徳間文庫)

 並行世界の日本を扱った話のようだ。ハチャハチャSFなんだが、ここではもっとウィットがきいていて実ににやりとさせられる。どういうウィットかというと「社会風刺」という形でぴりりと聞いてきている。現在日本とは違う並行世界で(当時の)日本の現状を皮肉るのがとても楽しい。読めば読むほど、味が違ってくるような短編集だ。住宅問題、外国人力士の話、自殺の問題、不思議な本の話(これは欲しい)、野球の話、エネルギー問題、銀行の顧客取り合戦、ゴミ問題の9つのトピックがヨコジュンにかかるとあっと驚くハチャハチャSFにへーんしんだ。ひねりにひねっている部分が実に楽しい。どこがSFかは読んでみてからのお楽しみということで、図書館等で探してみてください。


Nov.15,1998 (Sun)

クエンティン・クリスプ『魔性の犬』(ハヤカワ文庫FT)

 現実社会への皮肉とウィットの効いたゴジック・ファンタジー。裏に描かれた話しを考えれば考えるほど恐ろしい話しかもしれない。例えば中国の一人っ子政策みたいな社会現象を思い出す。人間嫌いの大金持が死後残した遺産をフィドーという愛犬に残すという遺言状をつくり、もし彼が死んだら雇われている二人の召し使いは解雇されるという条件であった、そこで彼らは……。という感じの話し。まさかハヤカワFTでこんな話しが読めるとは思ってもいなかった。

 原文のタイトルはCHOGつまり、合成語で、何の合成語かは想像できるんではないかと思う。オチ的には想像つくものの、クリスプの一言が痛烈。「腐敗は権力を生じる」この物語のエッセンスはこの言葉に凝縮されている。このことがいいたかったのではないかと思った。ゴシック・ホラーに分類される話しだろう。しかしFTの中でも入手難しさでも上位に入っているので興味がある人はぜひどうぞ。


Nov.16,1998 (Mon)

夢枕獏『猫弾きのオルオラネ』(ハヤカワ文庫JA)

猫弾きのオルオラネ

 まったくイメージが違ったのでびっくり。なぜなら中学生のときに氏の本を多少読んでいたのだが、そのときの印象が「エロスとバイオレンスな作家」だと思っていたのだ。そうしたらこのオルオラネは最初コバルトにまとめられたファンタジーだそうで、ぼく好みのファンタジーであった。作者の体験もだぶっているのであろうか、失恋した男性が主人公の話しが多い。それはともかく山好きな氏の知識もうまく生かされて、自然の不思議とが絡み合って見事なハーモニーを奏でている。そう、この作品はそのタイトルどおり酒の好きな猫たちを楽器のように操って人々を魅了する音楽を奏でるオルオラネ爺さんが悲しいときにひょいとあらわれ、ぼくたちを慰めてくれる。なんというかぼくたちが忘れてしまった自然への不思議さ、そして人と人とのふれあいを音楽をテーマに見事に文字で表現しているんじゃないかなと思う。ふと窓の外を眺めたくなるようなそんな作品ではないかと思う。『青猫屋』といい、猫の神秘性・シンボル性を感じてしまったのだった。「逝く時よ、わたしは去り花の季節はくりかえす」そういうことなのだろうか、我々の営みというのは。


Nov.17,1998 (Tue)

風見潤編『たんぽぽ娘』(集英社コバルト文庫)

 今やレアになってしまったコバルトの海外SF傑作選。とにかく表題作のヤングの「たんぽぽ娘」が絶品。どう絶品かというと、たんぽぽ色の髪をした女性が丘の上でたたずんでいる。主人公のマークはその女性に恋をするが、実は(自主規制)だった、という話。

 このアンソロジーはハッピーエンドとアンハッピーエンドの二つがうまく混ざっていて、いいアンソロジーだと思う。ケイト・ウィルヘルムの短篇「翼のジェニー」しかり、ゼナ・ヘンダースンの「なんでも箱」、ブラッドベリの「詩」などなどあっと驚く素敵な作品が多い。個人的に気に入ったのはもちろん「たんぽぽ娘」と「詩」は入れているのだが、ウィリアム・M・リーの「チャリティからのメッセージ」がいい。梶尾真治にも確か似たような話があったが、こちらはチフスにかかった二人の男女が時を超えてつながる物語だ。オチも内容も全然違和感もなく、逆に物語の構成のうまさに唸ってしまった。このアンソロジーは絶対お薦め。読め!


Nov.21,1998 (Sat)

小林泰三『密室・殺人』(角川書店)

 なんというかどこかで読んだような感じの話だ。ミステリが苦手なぼくとしては最初躊躇していたが筋道だって考えて読むと数学書みたいな感じで実に味わい深い。主人公は探偵助手の四ツ谷(女性)。その裏にはもちろん本格推理物であるから名探偵の存在が……。ぼく自身はミステリーをあまり読まないので、探偵−助手の関係が常にこういう感じなのかというのが正直な気分である。会話なんかは北村薫『冬のオペラ』テイストで、ちょっとオチまで似ているところが気になってしまった。ミステリを本格的に読んでいないぼくも何となくトリックの目星がついてしまったのが痛い。(北村薫を読んでいなかったら感心して読んでいただろう。人間知識がつくのは時として困ったことになる。)登場人物も一癖二癖ある人ばかりだ。論理的に考えながら読んでいったのだが、ありとあらゆる可能性が世の中存在しており、その可能性の存在の中から経験から観察された妥当な現実からの仮定を付与して最適経路を発見するというメソッドは納得。

 「最適経路探索」についてはある意味シュミュレートに近いものがあるだろうか。仮定の条件を変えればもちろん推論法も変化し、結果も異なったものになる。その当りの扱いが見事だと思った。あとは小道具についてだが、C神話を読んでいる人にはすぐピンとくるようになっている。殺された女性の(自主規制)が「何で必要なのか?」と思ってしまった。信仰&絵については小道具としてうまいとしかいいようがないのに、(自主規制)の部分を敢て書いたところに氏の試みがあるのだろうが……。うーん、現実と幻想の接点が『玩具修理者』に比べるとインパクトが弱いように思えた。まあこれは本格推理なネタであるのでしょうがないのだろうか。しかし論理構造をしっかりつかみたい人にはお薦めする。背筋にちりちりと感じる偏執的な恐怖はぜったいあると思うので。


Nov.22,1998 (Sun)

倉阪鬼一郎『赤い額縁』(幻冬舎)

赤い額縁

 ホラーゲームブック(懐かしい)の執筆を依頼された主人公がその参考資料にとインターネットから註文した本−「赤い額縁」世界一怖い本−を入手したときから惨劇の扉は開かれる。物語はオムニパスで進行。主人公の作家と古本屋を開業しようとする吸血鬼の二人、若手翻訳者の三者などが入り乱れて一種混乱した作風がメタ的様相を帯びてくるのが見事。某殺人事件や倉坂氏の蘊蓄(朝日ソノラマ文庫の古書価とか(注))はまるでジョン・ダニングの『幻の特装本』を彷彿させる雰囲気である。猟奇系+古本系がうまくミックスされて、古書好きホラーマニアにはエクスタシーを感じてしまうかも(笑)。

 途中までの展開は息を呑む呑む。でもどこかで読んだことのあるなぁと首をかしげていると、小林泰三『人獣細工』(角川書店)の本の話を思い出した人も多いはず。最近どうも自分の読んだ本との比較をしてしまうのでどうもまずい。『赤い額縁』の惜しい部分はやはりラストが何だか勿体なさ過ぎる点にある。あーいう展開は確かに後味がいいけど、むしろ作風からいってもっとドロドロな暗黒的終わり(ジョン・ソール的)にしてほしかったというのが正直な感想。吸血鬼のコンビもコミカルで素敵なので、この路線で続編があるのなら、ミステリホラーとしては申し分ない出来ではないかと思う。


Nov.28,1998 (Sat)

堀晃『マッド・サイエンス入門』(新潮文庫)

 昭和六十一年にこういう本が発売されているとは……。ハードSFの日本の旗手の一人である堀晃氏による爆笑超科学エッセイである。もともとぼく自身は物理が苦手で文系に進学したのだが、何かの縁だろうか、最近は数学的手法を用いて経済を解析している。取り扱っている対象こそ違えど、類似点は多いと思う。例えば「無から有へ」の章ではねずみ講をネタに熱力学第二法則、第一法則の説明の導入としている。ねずみ講が問題となるのはもちろん人類の数が有限であるためで、必ず損をする人が出てくるからである。もし損をしないのであれば、ねずみ講はただで楽をして利益を得られる手段である。経済学では無限に借りることを禁じることを「非ポンジーゲーム条件」といい、有限期間において借り逃げできないという制約を課している。もしこのことを許せば、最初に借りた人はもっとも得をし、最後の人は祖先が借りた借金を返さなければならず、損をすることになる。つまりねずみ講と同じである。このように有限から無限を引き出すことは不可能であり、経済自体が成立しないことになる。可能だとすれば無限世界の住人だけだろう。

 この他にもロボットの話し、太陽系の話し、月の話し、香りの話し、地震の話しなどなどを現実の物理の理論と堀氏の冗談めいた分かり易い口調で説明してくれている。SFのコアなSOWがみっちり詰まった素晴らしい本だと思う。厳密な科学理論によって導出された体系に料理人たる作者が楽しみながら調理するというハードSFという分野にますます興味が湧いてきた今日この頃だ。


Nov.29,1998 (Sun)

原田宗典『東京見聞録』(講談社文庫)

東京見聞録

 ホットドックプレスに連載していたものを集めたエッセイ集。いきなり渋谷の円山町の話しから始まり、「うひょー」という気分に陥る。まあ東京の変な場所とかをスラップスティック口調で書いているので好みが別れるかもしれないが。普段何気なく通り過ぎている場所とかがまた違った目で見れるようになるのではないかと思う。ぼく自身徒歩が好きな人なので氏が挙げている場所がどーなっているのかとか興味がある。まあ、それだけ世の中気がついていないことって多いんじゃないかなぁとか思うわけだけども。

横田順彌『奇想展覧会』(双葉文庫)

 相変わらず素敵なだじゃれでまとめられたショートショート集だ。ヨコジュンが面白いのはやはり発想の転換にあると思う。ショートショートのアイディアを生み出す苦しみも綴られていて興味深い。今まで読んだものとはまた一味違って実に楽しめる。このショートショートの連作集で「膨張する宇宙」「桃太郎殺人事件」辺りで思わずうなってしまうかと思う。やっぱり脳が疲れたときにヨコジュンの短篇集を読むと元気になれる。落ち込んだときには「一家に一冊ハチャハチャのヨコジュン」(笑)でしょう。


Nov.30,1998 (Mon)

菊地秀行他『舌づけ』(祥伝社ノン・ポシェット)

 小林泰三の短篇も入っており非常にお得なホラーアンソロジーだ。小林泰三の「影の国」はぼくのページでも紹介しているが、キングを彷彿させるようなホラー。小林泰三のホラーには現実性がかなりあって、いつ読んでもぞっとしてしまうが。このアンソロジーに収録されている話しはどれも一癖あって背筋がちりちりとしてしまう怖さがある。北川歩実の短篇なんかは、受験生に読むことを絶対薦めないホラーだし、受験を経験している人ならぞっとするような話しだ。主人公が4浪しているという点から推測していただくとわかると思うが。とにかく後味が悪い仕上がりになっている。お勧めな短篇は山崎洋子の「のっとり」。ボケ老人問題かと思ったら、意外なオチだし。加門七海の「恋人」も幻想なのか現実なのかわけがわからなくなるような怖さがある。全体的に調和がとれていて、そこそこよいホラーアンソロジーだと思う。