amazon外国人作家リスト
魔法の本棚
Bookstore Me
書物の帝国
「最終都市」

Hojotoho, Hojotoho! Heiaha!


 「書物の帝国」リンクフリーです。リンク許可等は要りません。

 復刊ドットコムに「夢の国のリトル・ニモ」の復刊をリクエスト。ご協力お願い致します。

 Amazon.co.jpアソシエイト
Generated by nDiary version 0.9.2

Jun.3,2002 (Mon)

吉川良太郎『ボーイソプラノ』(徳間書店)

ボーイソプラノ

 『ペロー……』と同じ、近未来都市<パレ・フラノ>を舞台としたSFノワール。内容的にはモロエフィンジャーの<ブーダーイン>シリーズ、レセム、荒木飛呂彦の『バオー来訪者』、ギブスンなどの影響をモロに受けていて、分かる人には展開が分かってしまうような気がしてなりませんでしたが、エンターテイメントとしてはさくさく読めたので、満足しています。

 色々な影響を受けながらも吉川氏が作り上げた世界は、読者を惹き付ける魅力がありました。今回の主人公は元警官の探偵ヴィッキー。フィリップ・マーロウ的なイメージ。(実際、チャンドラーの引用がたくさん出てくる。)支配者パパ・フラノは、冷酷ながらも父親的な存在。創造主である彼と対立するのは、汚職にまみれた神父。汚職にまみれた神父に与えられた神からの聖痕は罰でもあり、対抗できる強力な剣でもあった。そんな
神父の愛人として庇護された美少年。果たして彼は?そんな生憎交えた状況にて、<パレ・フラノ>で起こった事件とは……?

 ペローは今回お休み。シモーヌも脇役。SF色はやや薄め。レセム的な感じというか。ミステリ的な部分ではパンチが効いていないので、やや物足りなさがあるかもしれないが、物語の構成や読者を楽しませるツボは押さえているので、満足。もう一度、エフィンジャーを読み直したくなってしまったのでした。


Jun.5,2002 (Wed)

谷口裕貴『遺産の方舟』(徳間デュアル文庫)

遺産の方舟

 破滅後の世界を取り扱ったディストピアSF。デビュー作『ドックファイト』(徳間書店)は一つの星系で展開されるマクロコスモスである作品であったが、本作品はネビル・シュードを髣髴させるミクロコスモスの作品であった。『ドックファイト』と比較すると、物語の展開的に強引かなと思った部分もある。しかしながらSF的設定、リーダビリティの上では環境問題など、様々な要素をうまく凝縮した点は非常に評価できる。

 <文化遺産>を守るという学芸員たちによって支配された社会という一種特殊な設定を用いることで、なんとなくユニークに思えた。世界の名品、美術品等をサルベージし、ストックする巨大な戦艦<アレクサンドリア>(アレクサンドリアがプトレマイオス朝時代に文化の中心になっていたこと、巨大な図書館があったことなどを考慮に入れると、このネーミングは意味がある)。そんなアレクサンドリアの若き軍人ニコルは艦の支配者である学芸員たちの指示によって、モネの睡蓮を回収するよう命令される。そして……。

 マニアという人々の持つ熱意による悲劇ではあるが、今後のことを考えたときに<学芸員>たちがどうなるのか興味深い。主人公たちよりも、実際学芸員たちの今後の方が心配になってしまったのだった。70億の亡霊が彼らを目的のためなら何をしてもいいという方向に変えた、というのは面白いと思う。主人公たちにとっては、再生への道であり、小松左京の『復活の日』的ラストにつながるものがある。そういった意味では、谷口裕貴は、小松左京の流れを汲んだ日本SFの正統的な担い手であるように思える。吉川良太郎が純文学に傾倒しているのに対し、谷口裕貴はエンターテイメントに徹しているように思える。SFに対する姿勢こそが、二人の異なる才能の最大の違いではないだろうか。

 SFはアイディアである、ということを痛感させてくれた一冊でした。

山田正紀『サブウェイ』(ハルキホラー文庫)

サブウェイ

 「山田正紀先生のSFが読みたい!」と思っている人は多いと思うが、最近の山田正紀はミステリやホラー等にも手を染め、ボーダージャンルな作家に成長したといえる。特に昨今の『ミステリ・オペラ』での受賞は山田正紀をよりアクティブな方向に誘導する誘発剤になったのではないだろうか。本作品は、普段我々もなんとなく不気味に思っているUndergroundの世界を描いた山田正紀の得意とするオムニバス形式の中篇ホラーだ。永田町とその周辺の地下鉄の世界を舞台に、心にトラウマを持つ人々が死者に出会うために彷徨うという話。

 この作品で面白い!と思ったのは、現在社会に住んでいる我々の心の暗部を地下鉄に象徴させ、深く抉り掘っていることである。クラスメートを失った女子中学生、不倫相手とその妻を事故で失ったOL、妻に自殺された中年男、母親と妹を自殺によって失った地下鉄運転手、幼い愛娘を消息不明にしてしまった父親が彼らに再び会うべく、腐心する。なんというか、切なくてやるせない気分に襲われるのは間違いないと思う。彼らは本当に最愛の人たちを愛していたのだろうか?また山田正紀は本作品の中で、「Limbo」という表現を使って地下鉄という一種異様な世界を表現しています。まさに冥府との境目。死者と生者が交信できる場所。しかし黄泉を見るためには、自分も黄泉の住人にならなければならない。それが黄泉の掟なのだ。地下はこうして人々の想いを受け取り、力を増していく。
 分量的には丁度いいという感じ。しかし『ナース』(ハルキホラー文庫)とは異なり、この中途半端さが読者に余韻を与えることに成功しているので、楽しむことができた。ノンストップというより、カットバックで切り替えていく作品については山田正紀にはあまり外れがないように思えた。都市伝説等ホラーが好きな人は一読の価値あり。


Jun.6,2002 (Thu)

d本コーナー

 更新。URLはこちら。期間限定ですが、どうぞよろしくお願いします。

キース・ローマー『銀河のさすらいびと』(ハヤカワ文庫SF)

銀河のさすらいびと

 金森達氏のイラスト、才人キース・ローマーの書いた作品ということもあって、今回読んでみた。昭和49年に翻訳された作品だから、自分が1歳のときの本である。内容は正統的なスペースオペラ。訳者は伊藤典夫先生。スペースオペラを手がけない伊藤典夫先生が惚れこんで訳したという。実際、伊藤先生がほれ込んだ理由もわからないではない作品であった。伊藤典夫先生はこの作品を「なにげなく手にとり、テンポのはやい文章に引き込まれ、つぎに何がおこるかわからない物語の展開に魅せられていつのまにか読み終え、あとに残るのは、夏の日かげを風が吹きすぎていったような、そんな爽やかさ」(P267)と形容する。そう、まさに伊藤先生の言葉がこの作品のすべてを言いつくしている。

 貧困のため餓死しかけていた青年ビリイ。寒さで凍えかけていた彼がたまたま暖を取るために入った場所は実は宇宙船だったのだ。運悪く発進してしまった宇宙船。彼は宇宙船の人々に救われ、運良く宇宙船の人々の召使として働くことになる。宇宙人たちはヒューマノイドで、高い貴族階級の人々であった。そんな彼らは、宇宙をまたにかけて珍しい動物たちの狩猟を楽しんでいた。ところが凶暴な獣にビリイの二人の主人が殺される羽目に。残ったのは美しき高貴の血を引くレア姫だけだった。ビリイは彼女をサポートすべく腐心するが、たまたま作り上げた救難信号をキャッチした小型のこびと生物に、レア姫はさらわれてしまう。憔悴した身で次の救難を待つビリイ。運良く救われたビリイは、レア姫を助けるべく、色々な知識を身に付け、強靭な男に成長する……。

 伊藤先生も書かれているようにとにかくテンポのよさが逸品。主人公が最初ひ弱で、ダメな奴だったのが段々と経験をつんでいくうちに強靭な男に成長していくという点では、バローズなどのスペースオペラとは一線を引いた作品だと思う。どこにでもいる男が、成長していき、最後には一人前の男として成長するというサクセスストーリー。もちろん、登場する宇宙人たちもユニークで、後半に出てくるフシャ=フシャとスラット、その他の宇宙人たちの風俗や習慣などが面白く描かれているのがいい。知性を持った巨大な猫ユリーカはアンドレ・ノートンの<ゼロ・ストーンシリーズ>を思い起こさせた。1969年という古い年代に書かれた作品だが、今読んでもまったく古びていない。オススメです。

 追記:この名作がハヤカワ名作セレクションとして、復刊したので改めてリンクを張ることにする。

トーマス・M・ディッシュ『いさましいちびのトースター』(ハヤカワ文庫SF)

いさましいちびのトースター

 ディズニーでアニメーションとして映画化され、好評を博した作品。才人ディッシュの多彩ぶりをまさまさと見せ付けられた一冊。<電化製品>たち−主人公のトースター、電気毛布、電気スタンド、AMラジオ、掃除機たちが、長らく別荘に来ないご主人を心配してまるで犬のように、ご主人を求めて三千里(なのかわからないが)するお話。SFというよりは、正統的なジュブナイル・ファンタジーであるといえる。この作品ローカス賞とイギリスSF協会賞を受賞しているので、相当受けたのかと思う。

 電化製品たちが持つ個性の部分がとてもいい。明朗闊達なトースター、鬱体質な掃除機、個性があんまりない電気スタンド、気弱な電気毛布、朗らかなAMラジオ。こんな彼らの珍道中は、さながら野次喜多道中さながらの旅。道中彼らは雨に濡れたり(大丈夫なのか?)、バッテリーが低くなったりと色々と大変な経験をしながらも、着実にご主人の住むニューヨークのアパートにたどり着く。彼らにつきつけられた衝撃的な事実。ここで、「えっ!」と思う人は多いと思うけれども、流石ディッシュ。きちんと泣かせます。

 ジュブナイル・ファンタジーとしては、色々とメッセージもありきちんとした作品だと思います。続編『いさましいちびのトースター、火星に行く』(ハヤカワ文庫SF)もあるので、今度読んでみたいと思います。


Jun.7,2002 (Fri)

町井登志夫『今池電波聖ゴミマリア』(角川春樹事務所)

今池電波聖ゴミマリア

 第二回小松左京賞受賞作品。小松左京賞の懐の広さを感じられる受賞作品だった。タイトルや表紙からも想像できるように、ディストピアSFの傑作だった。特に舞台が日本の近未来を扱っており、ウェラブルな携帯機器、公共サーヴィスの停止によるゴミの蔓延など実際にありえ得る将来の日本の姿をSFという形で生々しく表現している。

 時は西暦2025年、日本中部の都市今池。公共サーヴィスが停止した街の中では、ゴミで溢れ、死と暴力が都市を支配していた。主人公森本は、そんな暴力のはびこる街で生き延びようともがく高校生。彼は腕っ節の強い白石という同年代の高校生の傘下で、かろうじて安全を確保していた。そんなある日のこと、白石がマリアという風俗娘にはまってしまったことで、森本の人生は狂い始める。マリアを抱くために金が必要になった白石は、とうとうJCDと呼ばれる天才的なトレーダーをターゲットにした強盗をしてしまう。そのとき、森本はあるデータCDを好奇心からトレーダー真紀から奪ってしまう。ところがこのデータCDが彼の運命を左右することなる……。

 高見広春の影響を受けたという部分は後半で、まあこれは流れ上自然だし、オリジナルだと思います。確かに藤原征矢の影響を受けた部分も見受けられますが、ディストピア設定は著者独自のオリジナルで、説得力があります。国債の利子支払いによる国家財政の悪化&人口の少子化→近未来の労働力低下&国債の借金支払いの増大→国家の破綻という部分はリアリティがあります。その上で、公共サーヴィスの停止と外貨獲得のためにJCDと呼ばれる天才少年・少女たちが金融市場で稼ぐというのはなかなか面白い。SFとしての経済的バックグラウンドがしっかりしていて、納得がいきます。また、人口少子化に対抗するために行った方策が、日本で一番普及しているモノを利用していて、実際ありえそうな現実なので考えさせられました。

 経済学のモデルでは、人口成長は重要な経済発展のファクターである。この作品ではいかに未来世代を作り出すかという部分に焦点を当てていて、特に日本という現実を踏まえて、悪夢のような未来絵図を描くことで、第二のソドムとゴモラを表現したのではないかと思う。特に子供の堕胎、胎児の闇取引、そしてヒロインであるマリアは、日本の現実を象徴しているように思えます。また、登場人物たちで唯一まともなのが森本というのが悲しい。友情じゃなくて、金がすべてという日本の今を象徴しているように思えた。一体全体日本はどうなるのか、そういう気分にさせられるSFです。強力にオススメしたい!

茶木則雄『帰りたくない!』(本の雑誌社)

帰りたくない!

 脱力系エッセイ。書評家として有名な茶木氏。そんな氏の妻にまつわるエッセイ(笑)。なんというか、これだけ読むとどっちもどっちという感じがしてならない。本エッセイは、妻との戦いを中心にしたエッセイ集。フリーランスになる前、なった後の変化や子供に接する氏の姿に同情。ぼくはギャンブルをやらない危険回避者なので、茶木氏のような危険愛好者の考え方を知ることができたのが、最大の収穫か。

 このエッセイで面白いのは、所々にさりげなく挿入されている本である。考えてみれば、本と茶木氏自身の生活を対比していることによって、読者に本をさりげなく紹介しているのがいい。ちなみに、未読王氏が茶木氏の先輩であることをこの本で知った。むむ、なるほど。ただ、一般の人が買うかどうかというと悩ましい。本の雑誌&茶木氏のファンなら買いなのでしょうが。


Jun.9,2002 (Sun)

ルーディ・ラッカー『時空ドーナツ』(ハヤカワ文庫SF)

時空ドーナツ

 当時新刊で購入していたのだが、なんとなく放置したまま4年が経過。今回、『フリーウェア』(ハヤカワ文庫SF)が刊行されたこともあわせて、なんとなくラッカーの作品が読みたくなったので、読んでみた。数学SF(トポロジー)を代表する一作品としてとても面白く読むことができた。物理学者菊地誠氏のあとがきを含めて、なかなかお得な一冊になっているといえる。

 時は未来。コンピューターとロボットが人間に奉仕し、中央管理コンピューターフィズイズがコントロールしている世界。人間は仕事から解放され、人間は一日中コンピュータの与えてくれる夢にひたっていた。人々はありとあらゆる方法にて、刺激を求めようとしていた。そんなある日、ドラックによってトリップした<ドリーマー>と呼ばれる一群の人々がフィズウィズに直接アクセスすることを考えた。彼らはエンジェルと呼ばれ、更なる刺激を求めて試行錯誤していた。そんなある日、グル的存在だったアンディがフィズウィズのアクセス中に死亡し、エンジェルはある事件によって壊滅してしまう。そんな中、主人公のヴァーナーはクルトフスキ教授の発明した仮想場発生器を使って、フィズウィズに意識を与えようとしたのだが……。

 ミクロとマクロの扱いがとても面白い。尺度の小さいほうから大きな方に向かう方向によって、空間の大きさが異なってくるというアイディアは面白かった。実際、このような次元を通り抜けていくことによって、ギャフン!と言わせる恐るべしアイディア。神々がセックスするシーンには爆笑。なんというかアイディアの勝利でしょう。数学的なアイディア以外にも、面白い点はたくさんあります。この作品はラッカーの最初の作品で、80年代初頭に書かれたというのが面白い。作品全体に流れるアナーキーな雰囲気、退廃的な状態などはたぶん、ラッカーがサイバーパンクの書き手の一人と目指される理由がわかりました。この作品は現在品切れ中のようで、訳者の大森望氏が嘆くのもむべならん。重版望みます、はい。

早見裕司『Mr.サイレント 仮想世界のやさしい奇跡』(富士見ミステリ文庫)

仮想世界のやさしい奇跡

 声を失った金持ちの少年晋一郎と後見人の娘真理香の迷探偵コンビが送る短編形式の作品集。構成は三つの事件から成る。ネットに詳しい早見氏の博識が生かされた謎が多く、なかなか興味深い。ユニークだと思った点は、主人公の少年晋一郎と真理香とのやり取りが手話であること。この設定により、今までにない探偵を作り上げることに成功している。総合的にはパンチの効いていないジュヴナイルミステリといった感がある。

 さて個別に見てみる。第一話は「小説家拉致事件」。うーん、という感じ。謎解きの部分なんかは、インターネットの常識から考えると信じがたいというか。どうしてそんな手段で?という気がした。ただ書評や感想を書いている人たちに対する作者の考えとかが垣間見れた点では、興味深かった。第二話はオフ会を絡めた推理事件。横溝正史のファンクラブのオフ会で、聾唖の女性がストーカーされているという。その謎を晋一郎が解くのだが、この話はミステリとしてそんなに悪くないと思う。オフ会の描写の感じは悪くない。第三話が作者の実体験が入っている分面白かった。でもオチはネットをやっている人には、すぐにわかってしまうと思うので多少ひねりが欲しかった。

 作者の労力がきちんと費やされている、という印象がもてた作品だった。可もなく不可もないのだが、なんとなく主人公たちの描写の個々のピースに微妙なずれがあるように思えたのだが、果たして他に読まれた方々がどう思っているのかぜひ知りたいものである。


Jun.10,2002 (Mon)

d本

 追加。本を整理していたら、またさらに出てきた。鬱だ……。

戸梶圭太『湾岸リベンジャー』(祥伝社)

湾岸リベンジャー

 戸梶マンセー!むちゃくちゃ面白いっ。本作品も『なぎら☆ツイスター』同様、スピーディーな展開と登場人物の性格描写が混合して、実に濃いブレンドを醸し出している。戸梶の作品を読んでいると、マンシェットやA・D・G等のフレンチノワール作家を思い起こす。なんというか、文章に迫力があって読者をぐいぐいと引き込む魔力がある。思うに、戸梶は今日本で一番ホットな暗黒小説作家ではないかと思う。

 湾岸道路での凄惨な事故で新妻を失った主人公野島。彼は元レーサーのサラリーマン。そんな彼は同じくこの事故で愛息子を失ったダイヤモンド会社社長美濃部に依頼されて、事故の真相を探るように依頼される。どうも彼らの死には、サーキット族と呼ばれる連中の無謀な運転が関係していたようだ。怒りに打ち震える野島は、事件の張本人を暴くために、走り屋となって単身敵地に侵入するのだが……。

 この作品の魅力は、妻を失った野島という人間の弱さや欲望を描ききっているところであり、またオムニバスで進行するほかの物語の面白さにもある。それはサーキット族の殺伐とした日常や、それを取り巻く環境だったり、実に生々しく書かれているのが妙にリアルなインパクトを作品に与えているように思える。カットバックの手法が実にうまく生かされ、狂気とスピードに満ちた作品に仕上がっている。一気に何も考えさせずに読ませる戸梶圭太の力量にめろめろです。


Jun.11,2002 (Tue)

咲田哲宏『水の牢獄』(角川スニーカー文庫)

水の牢獄

 第四回角川学園小説大賞優秀賞受賞作『竜が飛ばない日曜日』が、不条理系ジュブナイルホラーの傑作だったので、手にとって読んでみた。正直、前作よりは質が落ちた感じがする。ただ『竜が飛ばない日曜日』と同様、不条理な形で高校生たちが殺されていく、という不気味さや気味悪さは踏襲しているので、安心して読める。水潜と呼ばれる水の化け物が、高校生たちを抹殺(しているように見える)していくのだが、どうして自分たちが殺されるのかたぶん理解できないまま殺されていく部分が不条理的ホラーなのだろう。

 特に恐ろしいのは閉塞した空間の中で、高校生たちが互いに対して不信感に陥るシーンは不気味である。『竜の飛ばない日曜日』においてもそうであったように、咲田作品の魅力は「登場人物間の心理状況」にある。敵なのか味方なのか、段々とわからなくなっていくところが実に不気味で、救いようがない。ミステリホラーとして読めば、かなり面白くなるだろうか。キングの作品を読み終えたあとの読後感に似ているかな。


Jun.12,2002 (Wed)

マーティン・スコット『魔術探偵スラクサス』(ハヤカワ文庫FT)

魔術探偵スラクサス

 ファンタジー探偵物。軽いけど、面白く読めた。昔からSFとミステリの相性はよくて、たくさん作品が書かれている。しかし、ファンタジーという領域ではあまりミステリ的風味を効かした作品は多くない。そんな中で、本作品はファンタジーとミステリという組み合わせでも、相性がいいことを示した作品だった。ファンタジー&ユーモアミステリというと、レズニックの『一角獣を探せ!』(ハヤカワ文庫FT)やポール・アンダースン『大魔王作戦』(ハヤカワ文庫SF)、タートルダウ『精霊がいっぱい!』(ハヤカワ文庫FT)のような作品もあるが、中世ファンタジー的な世界を使って面白おかしく探偵物を描いたのは本作品が初めてのような気がした(もし他に作品があれば、ご指示ください)。

 世界幻想文学大賞を受賞したという意味でも、興味が持てる。ぼく自身、昨今のファンタジーが重厚増大であり、なんとなく敬遠していた。ところがアスプリンのようなユーモアファンタジーが人気を得ていることなども加味すると、現地でもユーモアファンタジーはかなり人気が高いように思える。それは<ディスクワールドシリーズ>やトム・ホルトなどの作家が現地では、棚一つ分のスペースがあるようなものだと思われる。そういう意味では、本作品が世界幻想文学大賞を受賞したことは、意味があるように思われた。ユーモアだけではない、きちんとファンタジー的世界を構築している部分にも好感が持てたこともプラス要因であると思われる。

 主人公はうらぶれた中年探偵。トゥライの王女からの依頼がとんでもない事件に発展するとは、そのときは予想だにしなかった。彼は国家的陰謀に巻き込まれ、とんでもないことになる。

 意外な結末にびっくり。いやまさか、そう来るとは想像もしていなかったのでびっくり。動機がとても面白いというか。ファンタジーの設定は見事に、現在社会の病理をすべてファンタジーの世界に直したもの。その分、とても分かりやすいというか。人種差別、薬、退廃的かつ沈滞した社会状況。そんな状況の中で、生き生きとしているスラクサスと相棒のマクリ(美女!)の凸凹コンビによる活躍が、一種の清涼剤のような感じ。謎解き的にも面白かったし、ボリューム的にも丁度いいので、非常によかったと思う。お勧め。


Jun.13,2002 (Thu)

時雨沢恵一『キノの旅IV』(電撃文庫)

キノの旅IV

 <キノの旅>第四弾。二輪車エルメスとガンマン、キノが様々な国を放浪するというお話。今回もキノは色々な人々に出会い、成長していきます。僕たちが想像もしえないような習慣や出来事に出会って、インパクトを受けることが旅のいい点だと思っている。キノの旅という作品のよい点はキノが訪れた国の習慣を描くことにより、<差>を描くことに成功していると思う。

 なんといってもこの作品の魅力は、旅先で出会う色々な国々にあるんじゃないかと思う。御伽噺、といえばそれまでだけれどもキノが感じたことは色々な意味で、深い。読み終わった後に感じる一抹の寂寥感。旅先での一時的な出会いにて感じる感覚に似ている。時雨沢恵一はこういった感情をキノの旅にたくすことで、成功したと思う。ただ、このシリーズがどこまで続くのか?は謎ではある。#できればタイトにして、きりがいいところで終わって欲しい)。


Jun.15,2002 (Sat)

内藤陳『読まずに死ねるか!』(集英社文庫)

 日本冒険小説協会会長、内藤陳氏の読書ガイド。主にスパイ小説、冒険小説、一部のミステリ、ハードボイルドを中心に紹介したガイドブック。取り扱っている本は、時代を考えれば多少古びているものの、古典を読もうという人にとっては非常にありがたいガイドブックであるといえましょう。特に冒険小説関連のガイドブックは数少ないため、たくさんの冒険小説が販売されている現在、何を読んだらいいのかという意味で戸惑う人たちも多いと思います。読んでいて思い出したのは小林信彦の『地獄の読書録』(ちくま文庫・品切)です。内藤陳の本は小林信彦の本とはまた一味違う面白さがあり、本に対する惚れ込みようがとても伺えます。例えば、ギャビン・ライアルやデズモンド・バクリイ、ジャック・ヒギンズらの本は一度手にとって読みたくなります。

 この『読まずに死ねるか!』はたぶん現在Part5まで販売されているはずです。たぶん内藤陳のキャラクターも相俟って、人気が高いのではないかと思われます。また本の紹介もとても面白くて、読者をいかに惹き付けるのかという部分をしっかりと押さえたガイドブックだといえます。#たぶん現在、絶版。


Jun.16,2002 (Sun)

岬兄吾・大原まり子篇『SFバカ本 電撃ボンバー篇』(メディアファクトリー)

SFバカ本 電撃ボンバー篇

 メディアファクトリーにSFバカ本のアンソロジーが移ってから初めて読んだ。きっかけは翻訳家の山岸真さんに薦められたこともあり、早速購入してみて読んでみた。作家陣は、佐藤哲也、藤田雅矢、中村うさぎ、岩井志麻子、岬兄吾、大原まり子、瀬名秀明の7人。こういうアンソロジーはアンソロジストの力量が問われるのだけれども、本アンソロジーはクオリティが高く、安心して読めた(でも、大原まり子は除くけどな!)。
SFバカ本というよりも、異色短編作家集という色合いが強くなってきたように思える。個々の短編について、一応紹介と感想を書きたいと思う。SFバカ本等のアンソロジーにおいては、今後はなるべく個人的に独断に基づく評価を入れていきたいと思います。なぜなら、このアンソロジーは当たり外れが多く、買う必要がないと思われるときがあるからです。

 読め!は佐藤哲也、藤田雅矢、瀬名秀明。好みに応じて読むといいのは、中村うさぎ、岩井志麻子でしょうか。つーことは、編者以外は面白いってことか(笑)。電撃ボンバーは買いですね、個人的には。


Jun.17,2002 (Mon)

リチャード・マシスン『ある日どこかで』(創元推理文庫)

ある日どこかで

 1976年世界幻想文学大賞受賞作。映画化され、劇としても上演された本作品は、つらく切ないラヴ・ストーリー。ラヴ・ストーリーという性格上、人を選んでしまう作品であるといえます。ただ、読んでいくうちに段々と引き込まれていくのは確かで、マシスンの筆力を感じさせます。マシスンといえば、SFの古典的名作『地球最後の男』(ハヤカワ文庫NV)や、映画化によって翻訳された『奇蹟の輝き』(創元推理文庫)などの名作が翻訳されていますが、本作品はジャック・フィニイの強い影響を受けた作品ではないかと思われます。

 主人公リチャードは脳腫瘍に冒された脚本家。彼の命の灯火はあとわずか半年足らずだった。そんなリチャードは、ただ死ぬのを待つのではなく、色々な場所を旅行することにしていた。そんな旅の途中、リチャードはサンディエゴのホテル・デル・コロナードに立ち寄り、ある女優のポートレートに一目惚れする。女優の名前は、エリーズ。一昔に活躍した著名な女優だった。リチャードはどうしても一目彼女に出会おうと、時間旅行の旅を試みるのだが……。

 瀬名秀明の解説はグット。マシスンがなぜこの作品を書くことになった動機や、エピソードが資料によってしっかり説明されています。瀬名は「他のマシスンの甘い恋の物語に戸惑う読者もいるのではないか」と指摘する。実際、甘ったるい部分は「ほんとにそうなのかよ!」と突っ込みをたくさん入れたくなるのですが、、きっとこれは「運命によって定められた」愛であるという西洋的な価値観が色濃く現れた作品であるといえます。時間旅行の部分は、いかにもという幻想文学的なフレームの中での転移なので問題なし。ただ、今読んで「ああよかったなぁ」というためにはパンチ力がないと思われるので、マシスンファンや甘ったるいロマンスが好きな人以外はあまり読むことをオススメできません。世界幻想文学大賞として読む場合は、資料的な価値の強い作品です。


Jun.18,2002 (Tue)

戸梶圭太『牛乳アンタッチャブル』(双葉社)

牛乳アンタッチャブル

 戸梶マンセー!読んでいる間、笑いが抑えきれなくて笑いながら読んでいました。これ、例の食中毒事件をネタにした小説だと思うんですが、執筆時期を見ると去年の5月ぐらいなのでたぶん、狙っていたのかもしれない。なんというか、こういうドタバタ活劇を読んでいるとパワーがもらえるような気がして、楽しかったです。ストーリーは単純なんだけど、戸梶の狂犬パワーが発揮された快作でした。

 牛乳会社を襲った突然の食中毒騒ぎ。無能な会社経営陣は、責任逃れのため自己保身に走る始末。ところが、雲印乳業のブランドをこよなく愛する取締役の1人、柴田は原因を探るべく、調査チームを作ることになる。その調査チームは、ありとあらゆる手段をもって、責任者を追及し、解雇するチームなのだ。そんな責任追及の過程の中で見られる人間の怨念が渦巻いた雲印乳業の未来はいかに?

 いやー、ヤヴァいでしょう。筒井康隆テイストのドタバタ活劇でした。会社経営陣の醜い保身とか、ダメ社員たちの抵抗とかがすごすぎ。色々な意味で、人間の奥に潜むドロドロしたものを、あえてコミカル調に書くことによって、成功した作品といえましょう。戸梶作品で面白いのは、どこかたがが外れた人々の描写や行動様式。うーん、ありえないだろうと一概に言い切れない部分もあって、なかなか意味深です。そんなわけで、この作品もまた、著者自身独特の世界を構築したことに成功しているように思えます。これは、色々な意味でも読んで笑ってもらいたい作品。超オススメ。


Jun.19,2002 (Wed)

伊藤麻紀『優しく歌って…』(講談社X文庫)

 SF&ファンタジー作家伊藤麻紀のデビュー作。X文庫という少女を対象としたレーベルの中で、スラップスティックなファンタジーを世に出すことに成功している。なんといってもこの作品の売りは、とにかくテンポがとても心地よく、さくさく読めることにある。また、現在を舞台にしたアーバンファンタジー、例えば『竜の飛ばない日曜日』などの先駆的な意味合いを持つ作品だといえましょう。

 主人公の松尾瑠美は高校一年生。学内ではちょっとした美少女として評判で、狙っている(?)女子高生も多かった。漫研で地味に作業をしていると、いきなり頭に環をはめた美少年が駆け込んできたのだ!彼はどうも誰かに追われているらしい。そして彼を追って、年増の美女がすごい形相で追いかけてきたのだ。どうもこの美女とこの美少年とは一悶着あったらしい。瑠美の機転でやり過ごした後、この美少年に話を聞くと驚くべきことを話しはじめる。彼の名前はゼピュロス、修行中の吟遊詩人で、瑠美の棲む世界(ピュシス界)とは別の世界、ヌース界からやってきたという。当てのないゼピュロスは当面のところ、瑠美の家にとどまることになるのだけれども……。

 面白かった、です。ゼピュロスと瑠美の顔がとても似ているという描写もあるんですが、後でその謎も明かされ、なるほどと首肯します。ミステリの要素もあるし、クオリティ的には十分満足な一作です。著者のフィールドはもともとSFのため、異世界ではなく現代世界を舞台にしたファンタジーにしなければならなかった、ということが著者あとがきにかかれています。そんな制約がありながらも、スラップスティックな異世界ファンタジーに仕上げたことについても、評価は高いです。また登場キャラに対して萌えする設定も十分押さえていて、よかったと思います。

 著者の伊藤麻紀は昨今、月森聖巳というペンネームで再デビューしており、『願い事』(A−Novels)という作品があります。この作品については、後々感想をあげる予定ですが、同じく傑作でした。著者は力量もあるベテラン作家なのですが、なぜ不遇なのか理解ができません。本サイトでは、今後月森聖巳作品を応援していきたいと思います。


Jun.20,2002 (Thu)

林譲治『大赤斑追撃』(徳間デュアル文庫)

大赤斑追撃

 徳間デュアル文庫の中篇シリーズ。ハードSF作家林譲治のアイディア勝ちの一冊。性能の異なる二隻の宇宙船の接近劇を題材にした一冊。面白く読むことができた。なんと言うか、ハードSFという枠内に収まりながらもエンターテイメント性を失っていないという点に力量を感じた。パードラム・チャンドラーをちょっと思い出した。

 木星の象徴、大赤斑。その内部等の近辺を調査していた民間調査宇宙船<フェニックス>号は、無線機が壊れるというトラブルがありながらも順調な旅をしていた。ところが、突然「応答に答えなかった」という理由で、近くを巡回中の戦艦ネルソンにミサイル攻撃される。フェニックスの乗組員たちは、何が起こったのかもわからないまま、何とかこの正体不明の敵から逃れようと、最善を尽くすのだが……。

 正統的なSFを読んでいる感じ。宇宙軍の規律の辺りとか、作者の作り上げた泥臭いリアリティがうまく作品に活かされた、という感じがしました。個人的には、ジュヴナイルとしてのハードSFとして、確実にオススメできる一冊。林譲治の作品は今回が初読だったが、かなり楽しんで読むことができたのでハルキ文庫から出ているシリーズを読んでみたいと思ったのでした。


Jun.21,2002 (Fri)

岬兄吾・大原まり子篇『SFバカ本 天然パラダイス篇』(メディアファクトリー)

ヘンな本あります

 相変わらず続くSFバカ本。今回は関西系SF作家と耽美系の作家が混ざった感じ。全体的にクオリティも高く、安心して読める。特に関西系の作家の作品は笑えるものも多く、バカSFと呼ぶにふさわしい。ただ、SFバカをメインにしていないものもあり、ふさわしくないものもあった。総合的にはオススメできる仕上がりなんじゃないかと思う。この版形で1000円ならそんなに高くはないと思う。

オススメは小林泰三と牧野修。好みに応じて田中啓文、森岡浩之、岬兄吾、松本侑子。松本作品はSFじゃないので、好みは分かれますが。


Jun.22,2002 (Sat)

戸梶圭太『アウトリミット』(徳間書店)

アウトリミット

 今まさに旬の作家、戸梶圭太の悪漢警察もの。相変わらず、馬鹿な登場人物たちがいい味出しています。『湾岸リベンジャー』や『牛乳アンタッチャブル』同様、スピーディーな展開が心地よい一冊です。ただ、書き込みなど、総合的に判断するとややクオリティは落ちますが、安心して楽しめます。

 ケチな窃盗犯を逮捕しに向かった向島署の刑事井川は、逆に窃盗犯から反撃を受け、同僚の松原を射殺されてしまう。窃盗犯を追跡した井川は、正当防衛とはいえ、この男を過剰防衛で殺害してしまう。殺してしまった窃盗犯を調べると、三千万円の価値のあるメモリーカードを奴が持っていることがわかったのだ。しかし、その情報の価値は、午後7時までに交換しないと無一文になってしまうという。井川は刑事を止め、三千万円を手に入れるべく、行動を開始したのだが……。

 相変わらず戸梶圭太本人の脱力系イラストが、物語にB級テイストを与えていていい感じです。これ、たぶん今後も続くんでしょうけど、物語の雰囲気にぴったりとしているので、個人的にはオッケーだったりします。もちろん、物語の方もエクセントリックな連中が、向島という下町にてあっけに取られるような追跡劇を繰り返すわけです。途中に出てくる、センスのない服装屋とか、花火見物に来ているアホな親父たちとか。なんと言うかB級テイストが、物語に必要といわんばかりに自己主張を始めて、物語を多彩にしているように思えました。スピーディーな展開が好きな人にはオススメの一冊。


Jun.23,2002 (Sun)

大場惑『時間鉄道の夜』(朝日ソノラマ)

 時をテーマにしたSF短篇は数多く存在するが、本書はSF作家大場惑が厳選した時にまつわる短篇7編を収録したちょっとノスタルジックで、切ない想いがつまった短編集。大場さんの作品は梶尾真治さん的なテイストがあって、梶尾真治さんの作品が好きな人はたぶん好みじゃないかと思う。本書は比較的見かけない一冊だが、十分探してみる価値はあると思う。なんというか、のびのびと書かれているなぁと思う一冊だったりします。

 以上、何らかの形で復刊されないかなぁと思うのだが難しいかな……。


Jun.24,2002 (Mon)

月森聖巳『願い事』(A-ノベルズ)

 アスペクトの新レーベルから出た新進ホラー作家、月森聖巳の多重人格ホラー。購入当初は、分厚さにめげて読むのをためらっていた。しかし今回別名義の著者のデビュー作を読んだことがきっかけで、本作品を読んでみた。今回の大森望大絶賛には首肯。なんというか、段々と禍禍しくなっていく過程に引き込まれていった。流れるような文章も相俟って、一気に読み終えることができた。これなら1500円払ってもおつりの来るぐらいの楽しい作品でした。

 主人公の神名木は新進の精神科医。ある日、彼は1人の少女を診断することになった。彼女は旧家の生まれで、複雑な過去を持つ少女だった。そして神名木は彼女を分裂症と診断した。ところが治療を続けていくうちに、どうも彼女は日本でも珍しいとされる多重人格症であるということが判明してくる。彼女の主人格、幼稚人格、マゾ的な人格、奔放な性格、そしてエレーヌと呼ばれる精霊が彼女の中にいるという。なぜ彼女がこんな風になってしまったのか、それは彼女の生い立ちにすべてがあった。しかし、神名木が体験したのはもっと恐ろしい現実だったのだ!

 多重人格症の方が出演されたドキュメンタリーを見たことがあるのですが、これはまさにこの作品で語られているようなおぞましいものでした。もちろん多重人格というのが憑き者なのかどうか、という微妙な部分をうまく素材として扱い、ホラーとして仕上げたのは面白いアイディアだと思います。また鏡のエピソードや、神名木にまつわる話なども別の意味で、とても面白く読むことができました。特に鏡(エレーヌ)にまつわる話は、森鴎外の『舞姫』やドイツの民間伝承を髣髴させるものがあり、しっかり調べて書いているなと思いました。他にも強力な霊能者のじいさんや、妖精憑きになってしまった少年などキャラクターも魅力的です。この作品の一番の魅力は、小さな物語を内包した上で、無理なくきれいに配置され、ミステリ的にも面白く読めたということです。ノンストップホラー&ミステリという意味では、非常に完成度の高い作品といえましょう。オススメ。


Jun.25,2002 (Tue)

d本

 更新。リストはここ。整理していたら、結構出てきて鬱。でも予約の入っている『東欧SF傑作選下』とか肝心なものが出てこない。うーん、どこに行ったのだろうか。本の山があまりにも増えてしまうと、どうしたらいいのかたまに戸惑うこともある。でも、買ったことも忘れていた本もあったりして、うんざり。

読了本

 はたくさんあるんだけど、アップが追いつきません。果たしてどこまで記入できるか。

ニール・ゲイマン『ネバーウェア』(インターブックス)

ネバーウェア

 <サンドマン>の作者として有名なニール・ゲイマンの長編ダークファンタジー。なんともいえない味わいがある作品だった。我々が地下世界と聞いたときに、どんなことを想像するだろうか。地下には地上とは正反対のイメージ、すなわちカオスが存在する場としての地下を想像することは不思議ではない。実際、多くの作品において地下は<カオス>のシンボルとして、多くの作品のモチーフとして好まれてきた。特に本作品は、イギリスのロンドンという、いかにも魑魅魍魎が闊歩している場を取り上げ、もう一つのイギリスを見事に物語として紡ぎだすことに成功した。

 リチャードは証券会社で働くサラリーマン。ある日、彼は血まみれになって怪我をした薄汚い少女を路上で助けたことで、その日から運命が変わる。彼の存在は<地上>から抹殺され、地下にあるもう一つのロンドンの住人として生を受ける羽目になってしまった。リチャードは、地上とは異なる危険に満ちた裏ロンドンの世界を渡り歩く羽目になってしまったのだが……。

 翻訳、多分かなり苦労しているように思う。決して読みやすいとはいえないが、後半に突入してから、物語の展開がわかるようになってきた。前半部分は、リチャードや裏ロンドンの描写に終始しているために、やや冗長気味か。ドアとその一行の旅になって、かなり面白くなる。ドアたちに与えられた試練、裏ロンドンに生息する奇妙な人々や、不気味な怪物。まるでこれらは銃夢のクズ鉄町を思い出させる。ぼくのイメージ的には、未来化されていないブレードランナーの世界とスラクサスの世界を融合させた感じか。スピード感もあるし、パーカーの評するように<ウェディング・ケーキ>のような物語というのは、言いえて妙。ファウラーの『ループワールド』(ハヤカワ文庫FT)辺りが好きな人に、強くオススメ。俺的評価は高いです。


Jun.26,2002 (Wed)

瀬名秀明『虹の天象儀』(祥伝社文庫)

虹の天象儀

 ノスタルジックで、切なくなるSFでした。五島プラネタリウムという、つい最近閉館してしまったプラネタリウムに思いを込めた、瀬名秀明のプラネタリウムに対する想いが詰め込まれた渾身の一冊。自分が小さいころ、プラネタリウムを見て遠い星空を眺めては、いろいろと想いを募った記憶がよみがえってきた。そういう意味では、とても懐かしくて暖かいものに溢れたSFだと思う。

 主人公は五島プラネタリウムで長年勤務していた技術員。閉館前に彼は不思議な少年に出会う。好奇心旺盛な少年の質問に答えていくうちに、主人公はカール・ツァイス型の天体望遠鏡に吸い込まれる形で、投影球の中に意識が吸い込まれてしまう。気が付くと彼は、昭和20年代の日本にタイムスリップしていたのだ……。

 ロバート・ヤングの「たんぽぽ娘」も当然思い出してしまいましたが、最近読んだリチャード・マシスンの『ある日どこかで』のようなノスタルジックだが、物悲しいような気持ちになりました。言葉ではなかなか説明しにくいけど、大切にしていたものをまた思い出す感覚をこの作品は僕に与えてくれました。そういった意味でも、SFにある「何かを感じさせてくれる物語の力」を体感できたように思えます。これまた、オススメ。


Jun.27,2002 (Thu)

磯田和一『書斎曼荼羅1』(東京創元社)

書斎曼荼羅1

 創元推理文庫の新刊予告のチラシにかかれていて、絶対読みたいと思っていた本。他人の本棚というのはなかなか見る機会もない。特に有名な方々の本棚はどうなっているのか、昔から非常に興味があった。例えばどのような収納をしているのか、どのような整理整頓をしているのか、そしてどんな風に書斎を有効利用しているのかなどを、参考にしたかったということもある。本棚は、その人の性格をよくあらわしているというが、大体のケースにおいて、自分が想像していたものと同じような本棚も多く、結構面白い。これはやはり、本が好きという共通項があるからこそ、こういう本を読んでとても楽しいと思えるのだろう。こういう書斎訪問系はぜひ続けて欲しい。

 ミステリ等の評論で有名な関口苑生など、17人の書斎を磯田氏が取材して、文章と絵で説明している。流石と思ったのは、京極夏彦。実におしゃれな書斎だし、流石デザインを手がけているだけあってソツがないように思えました。作家の個性が出ている本棚といえば、井上夢人や逢坂剛あたりか。井上はE-novels等で積極的に色々な試みをしているということもあって、本よりパソコンの方が充実している。また、逢坂剛の書斎もハードボイルド的なオブジェや資料本があったりと実にユニーク。

 ある意味では、仕事の空間としての「書斎」と趣味の空間としての「書斎」の二つの派に分岐していくのではないかと思った。本の山に埋もれてすごすことについて、世間一般の人たちはどう思っているのか、かなり関心はある。イラストも文章も実際の雰囲気をよく表していて、面白い。


Jun.28,2002 (Fri)

磯田和一『書斎曼荼羅2』(東京創元社)

書斎曼荼羅2

 磯田和一『書斎曼荼羅1』(東京創元社)の続き。この巻でも「本と闘う人たち」を多数紹介。喜国雅彦、鹿島茂、金原瑞人ら17人の書斎を同じく味のあるイラストと文章で紹介。上巻もすごい本棚だったが、下巻もまたその人の個性を表した本棚でとても面白い。仕事に直結しているような棚は、ハードボイルド作家に多いように思えた。例えば西村健や福井晴敏、野沢尚らは自分の作品なりに沿った感じで、かなり機能的な感じだ。児童文学の翻訳に定評の高い、金原瑞人の本棚も大学の教授だとは思えないほどユニーク。奇想天外やガロ、SFマガジンなどが並べられている本棚って面白いよね。喜国雅彦の書棚はご本人の著書でどんな感じかがわかっていたので、イラスト化されてますますよくわかった。書棚をうまくつくることによって、本と調和するということを実践されている数少ない方だと思う。

 個人的にインパクトがあった書斎は、内藤陳と西村健、明石散人。内藤陳はダイヤモンド社から出ている『本棚が見たい!』で現物写真を見ていたので、何となく知っていたのだが、とにかくすさまじい。本と本が結婚してねずみのように子供を産んでいるような感じ。まさに本がスペースを侵食している、という感じ。でもこういう中で『読まずに死ねるか!』が生まれたと思うと、納得がいくなぁ。内藤陳の経営する<深夜プラス1>の中も紹介されていて、行ったことのない人間にはとても面白く思えた。西村健の場合、カテゴリは違うけれども、かなりユニークな家のつくり。機能的ともいえる家のつくりは、まさに家全体が大きな図書館。スタイリッシュなつくりも相俟って、とても羨ましく思えた。明石散人の書斎は、すごく洗練された感じ。小説類があまりなく、資料の方が多いというのは結構納得。

 他の方々の書斎も興味深く、本の整理をするに当たってすごく参考になる。いや、参考にならないというか、将来の自分の姿なのかとどきどきする。まあ、そういうことはおいておいても、他人の本棚を見るというのはある種とても面白いことだと思う。本棚は人の性格をあらわしている感じがする。また、人様がどんな本を読んでいるかにも興味もある。だから特に本読み・モノ書きとしてプロの方々の書棚を拝見することは、ぼくにとってはとても楽しいことなのだ。1、2巻ともオススメ。


Jun.29,2002 (Sat)

戸梶圭太<ご近所探偵TOMOE>シリーズ(幻冬舎文庫・全三巻)

ご近所探偵TOMOE1

ご近所探偵TOMOE2

ご近所探偵TOMOE3

 ぶはは、サイコー!相変わらず戸梶圭太、やってくれました。妻は売れないタレントで超いい女。男は呑気で、売れないイラストレーター。それとメス犬を見るとヤリたくなる強面の犬スネイク。二人は新婚ほやほやで、いつもエッチばっかりしているという体たらく。でも人一倍直感の強いともえは、何となく事件のにおいを嗅ぎ取ってしまうのだった。

 一巻目でともえは、近所のスーパーで行われていた麻薬取引の謎を発見した!きっかけは冴えない中年のおばさんの動きからだった。スーパーマーケットの謎を解決したともえは二巻目で、お互い裸でいちゃついているH写真を撮っていた。でもそのH写真が風で流されて大変な目に……。なんと二人のH写真が風に飛ばされて近所の豪邸に入ってしまったのだった。ともえと勝雄はあらゆる手段を考えて、豪邸に入ったのだった。そこでともえはまたまたこの豪邸の主人に隠された謎を見つけてしまったのだった。スパイクが中庭で穴を掘ると中から出てきたのは大きなクロスワードパズルの棺おけ。またまたともえは大活躍してしまったのだった。三巻目は、ある日不良たちに絡まれて困っていたお年寄りをともえとスパイクが助けたところから始まる。実はこの老女、とんでもない正体を持った人物だったのだ!

 戸梶圭太の下手なイラストがB級テイストを醸し出していて、いい感じです。見つづけていくうちに、これがスタンダードなんだと思わせてしまうところも戸梶圭太の魅力か?一度読むと忘れられなくなります。登場キャラクターも相変わらずどこかおかしい奴らが多くて、変な迫力に満ちています。特に第三巻目は大爆笑の嵐。ミステリというか、バカノワールに変貌しています、はい。オススメは第三巻。でも第一巻も第二巻もバカなテイストが傑作なので、読んでおきましょう。シリーズものとして読むと面白いので、ぜひ一気読みした方がいいような気がします。あと戸梶圭太ファンなら、著者手作りのバッチとか人形とかもらえるようなので、興味のある人は応募してみてはいかがでしょうか?

ご近所探偵TOMOE1
ご近所探偵TOMOE〈episode2〉
ご近所探偵TOMOE〈episode3〉


Jun.30,2002 (Sun)

森奈津子『かっこ悪くていいじゃない』(祥伝社文庫)

かっこ悪くていいじゃない

 バイセクシャルな著者が自分の経験を交えて書いた、バイの生き方について書いた中篇。本の中に書かれた体のフィーリングの問題っていうのは、こりゃ女性じゃないのでわからないんですが、色々と共感する部分もありますね。この主人公のように、愛を確かめるために身体的快楽っていうのは確かに手っ取り早いので、楽なんでしょうけれども。でも、その後に残るものは何かというと、難しい。その点、アナルセックスを趣味として色情狂になる東大の女子学生を主人公にした太田出版から出ている漫画「FEMINISM SEX MACHINE」と比較して読むと面白いですな。

 この作品で面白いのは、愛がぶち壊されて憎悪に変わる瞬間というか。男に縛られている女と縛られていない女の対比が生々しいので、読んでいてぞくりとします。

乙一『きみにしか聞こえない -Calling you-』(角川スニーカー文庫)

きみにしか聞こえない

 乙一の作品を読んだのはこれで二冊目。「CALLING YOU」、「傷―KIZ/KIDS―」、「華歌」の三篇が収録された短編集。羽住都氏のイラストが作品のイメージにぴったりで、よかったと思う。個人的には、子供を失って病院に入院していた<私>が出会ったある出来事を綴った「華歌」が好き。この本に収録された作品はどれもトラウマ系の痛いお話が多く、ホロリとさせられる作品もある。思ったのは、乙一は純粋で繊細な人たちの心の動きを書くのがとてもうまく、感情移入させられる。個人的にはオススメできる作品集かな。
 例えば、「CALLING YOU」では友達のいない女の子が脳内携帯電話で同じく脳内携帯電話を持つ少年とコミュニケーションする話で、昔話題になった「ハル」を思い出した。ネットや携帯が発達した世の中ではこのような出来事も起こるのではないかと思わせる切なさがある。でもねぇ、ラストは……。なんというか、運命で決められたことなのだろうけれども、それにしてもつらいものがある。

 「傷―KIZ/KIDS―」はやられた!という感じ。特殊学級で出会った少年の持つ不思議な力による<奇蹟>を描いた話。アイスクリーム屋のお姉さんの行為が脳裏から離れず、涙してしまった。もちろんそれだけではなく、物語のオチでもホロリとさせられた。たぶん主人公の少年とアサトとの性格の違いのコントラストから生まれた友情が、美しかったからだろうか。

 「華歌」が好み。自分の中で脳内変換した舞台は、堀辰雄の「美しき村」の世界。山奥にひっそりと佇むサナトリウムのような病院という設定に読み替えて読むと、さらに萌えます。時代は大正から昭和初期という感じで、駆け落ちという形で結ばれた主人公の私が、列車事故で子供らを失った失意に陥っているところで遭遇した奇蹟。その奇蹟がまた切ない。イラストも含めて、かなり騙されてしまったのですが、読み応えのある話でした。