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中篇一篇(「失踪HOLIDAY」)と短編一篇(「しあわせは子猫のかたち」)の二つが収録されたミステリ短編集。『きみにしか聞こえない -Calling you-』とはまた違った話が収められていて、お得。乙一のうまいところは、「疎外された人間」の物語がリアリティをもって感じられるところではないかと思う。特に「失踪HOLIDAY」での主人公の女の子のわがままが引き起こした失踪劇については、共感できるものがあった。
「しあわせは子猫のかたち」はミステリ(?)。主人公の少年は人付き合いの苦手な大学生。あるアパートで新生活を始めたときに起こった、不思議な現象。そこには、前の住人が飼っていたと思われる白い子猫が居残っていたようだ。彼になつく白い子猫。実はここにはもう1人の住人がいたのだった……。ミステリ的にも実は、と思わせるものもあってなかなか奥深い話になっていてよかった。なぜこの住人が殺されたのか、なるほどなかなか納得いくものがありました。しかしながら、読後の後味が悪くないという意味でもいい話だったように思えました。
「失踪HOLIDAY」は結構好きな話。お手伝いさんの女性のコタツでぬくぬくしたい!と思った人は多いと思われ。継母が入ってきてしまった超大金持ちの家庭で孤立したと思っていた主人公の女子高生が試したある狂言劇。自ら失踪して、誘拐されたという風に装って勝ち得たものはいったい?
実はミステリ的に二重に伏線が張られていて、ありゃやられた!と思いました。この年頃の女の子の心の動きもよかったし、お手伝いさんの女性ののほほんさ(実は……)など、なんというか心温まる交流の面とかも含めて、よかったように思えました。嫌味のない話だと思います。この短編集もオススメですね。

感想を書くのが遅くなってしまった。と、いっているうちに本作品は星雲賞2002年度日本長編部門を受賞したようだ。日本SF界の中でも数少ないハードSFの書き手の紡いだ本作品は、波乱万丈に満ち溢れた野心作であるといえる。実際、ぐいぐいと物語に惹きこまれていき、最後までわくわくしながら読んでしまった。個人的な嗜好について、多少違和感を感じた部分もあったが、科学的な現実を利用した虚構を広げるアイディアの面白さを感じることができた。先日たまたま品川でやっていた国際宇宙ステーションの建築のドキュメンタリー3D映画を見る機会があったのだが、後半で出てくる軌道エレベーターの話など、想像しながら読むことができたのもひとえに作者の博識によると思われる。
また特に感心したのは、泥臭い部分(会社経営の話とか、工場設置のための交渉とか)のリアリティやふわふわによって出来たコミュニティの扱いなどの部分。こういう細やかな配慮を、ファミ通文庫というライトノベルレーベルできちんと押さえているところは、とても感心した。後半になると、ふわふわによる社会変革の部分を完全に捨て去って、その発明で得た金で宇宙へ飛び立つ方にベクトルが向かうという流れになっている。大胆にも、今まで積み上げてきたふわふわの話を捨て去って、宇宙への道のりを書き上げるのだから、すごい。アイディアをこれでもか、これでもかと詰め込み、惜しげもなく捨て去るこの大胆な物語の構成に、もったいなさを感じる。。特に後半の宇宙開発の部分で、異性人との遭遇のシーン色々な部分が詰め込まれすぎてしまって、どう物語が収束するのかはらはらしてしまった。個人的には、第一巻「ふわふわ篇」第二巻「宇宙エレベーター篇」みたいな感じにしたらもっとよかったかも。
実際日本には浅倉泉のような女の子(眼鏡っ子っていうのはたぶん作者の好みか?)はあまりいないと思われるけれど、海外だといそうなので怖い。やっぱり、浅倉泉ってすごい女の子だよなぁ(性格は悪そうだけれども……)。経営能力にもそれなりに長けて、化学が強く、科学全般に強い。でも女の子らしくないんだよなぁ(溜息)。もうちょっと女の子していてもいいような気がする……。こういう主人公を押さえて勘案した上でも、野尻抱介がやりたいことをやりたい放題やってしまった作品でしょうね。
ディストピア的な内容が多い。とにかく恐いSFが多い。これだけ文章が達者な作家さんもいないだろう。とりあえず、見つけたら絶対買いであるということは保証する。今日泊氏の作品を読み終えて思ったことは、今日泊氏は文明社会というものに対して実に懐疑的な見方をしていた、ということ。人間は愚かで無力な生き物である、ということをこの珠玉の短編集を読み終えた後に、つくづく感じた。つまり、文明社会に対する警告というSFというジャンルが果たしていた役割を担った時代の真摯なSFであり、今のSF作家には失われつつあるSFの魂の叫びが本作品から痛切に感じられる。ぜひ次は代表長編である『光の塔』を読んでみたいと思う。個々の短編についての感想はまた後ほど……。

ようやく読了。読み終えてかなり頭に来ている。あとがきに、「本書は、かれこれ36年ほどもさかのぼる1965年に、同じ早川書房より、福島正実を編纂者として出版された『SF入門』のリメイク版である。」という。しかし、本書はまったくリメイクの体も成してない粗悪品だった。コンセプトは異なることは十分理解できるし、例えば付録等はきちんと編纂されているのでデータ的価値は高い。しかしながらある意味日本SF作家クラブの同人誌的な要素が強く、福島正実版とは比較の対象にならないだろう。SFをいかに創るかといわれても、一般読者である我々においてはぴんとこない。
SFセミナー2002でもこのパネルがあったようだが、コンセプトを明らかにしないで、このタイトルをつけたのは、はっきりいって編者のミスであるといえる。つまり、一般読者である我々が混乱することは確実で、実際いくつかのウェブサイトで「コンセプトがわからなかった」という意見も見られる。作家が紹介された作品によって影響を受けてきたのも首肯できるが、一般読者には関係ないことだと思う。もし、<SFの書き方>を主体にしたいのであればもう少し書き方作法の項目を増やすべきだし、その方向性で編集すべきだったと思う。本書はテクニカルな面ではすでに落第点である。精神的な目標においてもは合格点をクリアしていない状態である。例えば各国のSF紹介などは福島正実のもののリニューアルであり、これが書き手への入門だとは思えない。ちなみに福島版では星新一・小松左京によるSFの書き方などがあり、書き手の入門としてもクリアできている。
特に本書は「どんな名作SFがどのようにしてプロ作家たちへ影響を与えたか、新しい作品を作らせたか?」という部分に重点をおいているようだが、オールタイムベスト海外篇は先に出た『新・SFハンドブック』のオールタイムベストの解説と変わらず、ただ作家を換えただけのように見える。たぶん『新・SFハンドブック』が出てしまったことによって、変更を余儀なくされたというのは理解できるのであるが、福島正実版と比較するのは無理がある。
またSF作家クラブの方も重版品切れ等の情報をしっかりとリサーチをしていないという面において不満がある。あとがきで触れられている『世界のSF文学総解説』はすでに品切重版未定になっていることもきちんと勘案してほしかった。入門と名打つのであれば、初心者向けに分かりやすい解説の載ったものにすべきだったと思う。福島版では、あらすじ等を解説するのではなく、テクノロジーから派生したSFの事象について解説をし、そこから読者をSF本にいざなう形をとっている。これは実に戦略的なやり方だと思う。
作家が解説をしている、というのがたぶん本書の売りなのだと思う。それならばそのことを強調すべきであって、「53名の作家による解説執筆」を名打ったタイトルをつけるべきだったと思う。入門書としてなら、寧ろ価格も内容も上の『新・SFハンドブック』を読むことをオススメしたいと思う。。
もしかすると福島正実氏の『SF入門』を知らないのであれば、これはこれでいいのかもしれないけれども。でも、取り留めのない本であることは確かである。

うぉぉ、柾悟郎の長編がまさか出るとは思わなかった。コアマガジン編集部の河村さんに感謝ですね。去年のイアン・ワトスンといい、エロの入ったSFはコアマガジンさんがもしかするともしかしたら出してくれるのではないかと期待ができるようになったので、やっぱり編集者の力量だなぁとつくづく思ったり。オルガスマシンは売れているのかなぁ……。それはさておき、本書はイラストもひろき真冬と、全盛期の柾悟郎を思い起こす作品だった。実際読み始めたら止まらなくなり、一気に読み終えてしまった。
エロチック・ハードコアSFと帯に名打たれた本書は、確かに官能のにおいがぷんぷんとしたSFだった。表層的な部分では確かに妖しげな設定なのだが、このSFに込められたメッセージは非常に重く、陰鬱である。実際読み終えた後に色々と考えさせられ、後で戦慄したシーンもあった。ジェンダーを考えたい人には、ぜひオススメしたい。
舞台は、素行に問題のある男子学生たちが隔離された学園生活を送るために作られた学園。ここは陸から離れた孤島で、中の情報は完全に外部へシャットアウトされていた。主人公の雅彦は些細なきっかけで、この学園へと強制に送られることになる。最初に施されたのが直腸リング。いわゆる脱走回避のために装着させられるものだった。官能的な女王、姫によって支配されるこの学園は極めて不可解でおぞましい謎に包まれていたのだった……。
性とは一体なんだろうか、ということを実に思い知らされた一冊だった。社会によって男にさせられているのか、それとも女にさせられているのか。このようなことはすべて環境によって左右される。例えば男しかいない監獄では、女形と呼ばれる男性囚の存在も明らかになっている。もしこのような単一性の社会で、性の分担を考えたときの縮図が<シャドウ・オーキッド>の世界なのではないかと思う。思春期の多感な少年たちはありとあらゆる手段を持って、男から女へと変化させられ、女でもない男でもないような状態に宙吊りにされてしまう。そんなおぞましい状態が起こる可能性を柾悟郎は生々しいヴィジョンによって、耽美的に描くことに成功している。ひろき真冬のイラストもグー。オススメ。

妻の不由子が始めたSOHO革命は、徐々に浸透していく。民衆感覚を持たない個別分子と直感による民衆独裁を肯定するグループ(民主細胞)に別れていく。民衆細胞でない個別分子は、粛清される。そんな妻が起こした革命が何をもたらしたのか?当たり前とされる生活基盤の破壊など、文明社会以前の世界へと逆戻りしてしまったのだ。苦悩する主人公とは裏腹に、世界はわけのわからない組織を名乗る連中に支配されていく。不由子が作り出した組織たちが、独り立ちしていき、勝手に動き始めてしまったのだ。架空の組織と官僚のような手続き主義。世界は完全に混乱し、主人公の私に残されたのは逃げることだけだった。妻を寝取られ、大いなる絶望の後に。
佐藤哲也の作品を読んでいて感じたのは、言葉が生き物のようにぼくの脳裏に襲い掛かってきて、紡ぎだされた言葉によって本から眼を離させないという感覚だった。饒舌ともいえる反復や寓話の挿入、異様な迫力を持って迫ってくるストーリー。カフカの不条理世界(ある日、起きたら巨大な虫になっていたザムサのように)にいるまるで迷宮のようで、悪夢のような閉塞感。世界が「民衆細胞」によって徐々に侵食されていく過程はまるで、アラビアの夜に見た悪夢のような感覚なのだ。1人の女が起こしたことが、世界を変えてしまうが、一つだけ揺らぎないものがある。世界は変わろうとも、絶対的価値として揺らぎないものがある。それはジョージ・オーウェル『1984年』(ハヤカワNV文庫)で、主人公たちが失ってしまったものである。そういった意味では、この物語には「ぬかるんでから」と同様、希望がある。大いなる絶望の後の希望。何と美しいものか。
SFというよりも、不条理な悪夢の世界を描いた快作なんじゃないかと思います。でも、揺るがない価値は私たちの中にあって、その価値をはぐくむことによって希望が見えてくる、そんな希望を示してくれた作品なんだと思いました。現代失われつつある、ひたむきさを教えてくれた一冊じゃないかと思います。ディストピア小説の傑作!絶対読め!
ミステリ系更新で話題になっている400円文庫。この作品は<吸血鬼>をモチーフにしたものらしい。ということで、早速読んでみた。宇宙船を舞台にしたSFミステリで、相変わらず変な登場人物ばかり出てくるのはお約束。オチは、そうくるか!という感じだったかな。400円文庫という体裁の中では割と楽しめたように思えた。短いけど、濃度の濃い話を読みたい人にはオススメかな。
こちらは正統ホラー。売れない作家の主人公が、知り合いのライターから富士山の樹海にある不思議な場所について取材してくれと依頼される。そこにはとんでもない秘密が……。
スプラッターな描写の方で有名な飯野文彦の作品だったので、そちらを期待して読んだら、実はちょっと違った感じのホラーだった。とはいえ、結構唸らせる内容に首肯した。でも、ちょっとおかしいなぁと思ったシーンもあったが、それを除けば、不思議系の話ではある。諸星大二郎の漫画にこういう話があった気がしたが、これは飯野文彦独自の展開になっていて、割と好み。オチが割と恐いかもしれない。

成田空港にて購入。この作家の作品は一度読んでみたいと思っていたところだったので、丁度いい機会だと思い購入。第七回メフィスト賞受賞作。達者な文章とは裏腹に、描かれた内容はまさに修羅道。因果が因果を呼ぶ、因果応報の物語とはまさに本書を言いえた言葉といえる。そんな本書は、実におどろおどろしく血なまぐさい裏の社会の物語なのだ。サラ金業界については、いろいろなメディアが紹介していると思うが、借りた者&貸した者の間での緊迫したやりとりは、実に生々しくおぞましい。
多重債務者という人々が世の中には多数おり、彼らは借金の利息を返すために裏金融からお金を借り……という無限ループに陥ってしまう。そんな彼らに対して救済を施すのが本書の主人公野田秋人。彼もまた裏金融によって人生を狂わされた男だった。彼は若くして野田商事の主となり、その無情ともいえる冷酷なやり口で会社を順調に伸ばしていた。ところがそんなある日、野田の元にある1人の会社経営者が資金繰りにやってくる。彼は電話秘書の会社を経営している男で、50本の電話回線と引き換えに金を融資することになった。ところが、翌日彼は何者かによって惨殺されてしまう。野田の元に送られてきた謎の封筒。その中に入っていたのは、巨大なゴキブリ3匹とあきらかにこの経営者の死体の一部であると思われる肉片だった……。これが野田を巻きこむ壮大な惨劇の幕開けだった……。
最後まで飽きさせないのは流石。楽しく読ませていただいた。ただ、いくつかの部分で宗教臭さが感じられてしまったのが、いささか興ざめだった。謎解きの部分は、あっ!と思わせたのがよかった。後半は意外な展開になるので、結構びっくり。犯人だと思っていた人物が犯人ではなく、犯人だと思っていなかった人物が犯人だった、という当たり前の部分でのサプライズなんだけど、そのサプライズが結構衝撃的なのでした。でも、こんな女性に両思いになってみたいねぇ、とちょっと個人的には思ったのでした。