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Feb.6,2003 (Thu)

小平邦彦『ボクは算数しか出来なかった』(岩波現代文庫)

ボクは算数しか出来なかった

 小平邦彦『怠け数学者の記』(岩波現代文庫)を読み終えて、あまりの名エッセイだったので姉妹篇である本書が読みたくなり、思わず日本のアマゾンに注文。食料品を送ってくれるついでに、家族に送ってもらった。このほかに高木貞治『数学小景』(岩波現代文庫)と梶井先生の本が到着。現在待機中である。小平先生の本は日本で購入した『解析入門』(岩波書店)(現在時間をかけて読み中)と『幾何への誘い』(岩波現代文庫)の二冊をカナダに持ち帰っているのだが、機会があるごとに何となく眼を通している。細切れ時間を利用して、数式を見たり、図を見たりするのは結構楽しかったりする。

 前置きが長くなってしまった。本書は小平先生の生い立ちからはじまり、プリンストン高等数学研究所でのワイル教授の招聘、スペンサー教授との共同研究、フィールズ賞受賞、ウルフ賞受賞、そして日本の教育についてまとめられたエッセイである。文体は飄々として闊達。小平先生のお人柄がうかがえる一冊である。数字が好きな小平少年は自然と数学の神様に導かれ、東大の数学科に入学。常に数学とともに生きながらも、その傍らでピアノを学んだりと、実に凄い。本書を読み進めていくうちに感じたのが、運命が小平先生をそのまま数学者にしたという感じなのだ。常に自然体で生きる先生の姿は、戦前の生まれの一流の知識人の系譜に属する羨ましい方である。吉田健一など、戦前の余裕ある知識人の姿に重なる部分があるなぁ、と思った。本書で初めて、小平先生の奥様は彌永先生の妹さんだったということを知った。

 専門馬鹿でない馬鹿はタダの馬鹿である、という名言が心に沁みる一冊である。個人的には先に本書を読み終えてから、『怠け数学者の記』を読むことをオススメしたい。


Feb.10,2003 (Mon)

深見真『アフリカン・ゲーム・カートリッジズ』(角川書店)

アフリカン・ゲーム・カートリッジズ

 NEXT賞受賞作。成田空港にて購入。ガンマニア、SFファンは絶対買いの一冊。特にJOJOが好きな人は、オススメしたい。ぶっちゃけた話、ホル・ホースがたくさん出現してしまった近未来の日本で、銃使いと規制する警察の特殊部隊が頭脳戦をするという話。スピーディーかつアナーキーな文章はぐいぐいと物語世界に引き込んでくれる。しかしかなり物語の性格上、血まみれ度が高いので覚悟して欲しい。ということで、読む人を選んでしまう話ではあるかもしれない。ホラーやアクション、ミニタリー系が好きな人には安心してオススメできる。

 読み終えて思ったのはこの話はミュータントSFの系譜に属する立派なSFなんじゃないかと思った。異端排除の構造については、小川一水『イカロスの翼』(朝日ソノラマ文庫)的面もあるのだが、本作品はもっと血まみれ度が高い。殺すか殺されるか、銃使いと国家権力の間には妥協はない。主人公の少年は平凡な銃マニア。彼が銃使いになったのは、運命と少年の意志がそうさせたからだ。彼はベレッタ使いとなり、ベレッタ関連の銃を量子干渉によって制限はあれども召還できる能力を持つことになる。そして彼は自らが与えられた力を冷静に見つめ、自然と逃亡生活のうちに自分に与えられた運命を受け入れることになる。

 しかし、ものすごい設定である。本作品は実に見事な近未来陰謀小説としても読める。途中で挿入されるエロティックなシーンは徹底して男を排除し、強い女たちが強い女と愛し合うというすさまじい設定。ある種、トランスジェンダー的な要素も強く、今までの既存の枠を越えたキャラクターたちが生き生きと活躍している。主人公の少年が中性的でかつ愛する相手が男性であるという点も含め、男社会である日本社会を批判する書としても読めるのではないかと思う。という意味で、ジェンダー研あたりで討論してもらいたい話ではある。

 表紙がおしゃれだなー。ガスマスクに胸をさらけ出した女性という組み合わせがなんともこの作品を象徴しているような気がする。


Feb.15,2003 (Sat)

谷川哀『リベンジ・ゲーム』(角川書店)

リベンジ・ゲーム

 なんじゃこりゃ?テメー、金返せ!と叫んでしまった。これ、出来の悪い友成純一じゃん?何でこれがNEXT賞受賞したのか疑問だよ。他の二冊(『ラヴ☆アタック!』『アフリカン・ゲーム・カートリッチズ』)の出来が高かっただけに、この作品ははっきりいって粗悪品としかいいようがない。確かにインモラルで、問題作品だとは思うけれども、違った意味で問題だよ、選者?こういう作品を問題作として選んだのはいいけどさ、はっきりいって露骨な性的表現ばかりの作品を一般読者に読まれるような作品に与えてはいけないような気がする。

 意外な展開もないし、ミステリ的なカラクリの部分もすぐにわかってしまったし、辻褄が合わないことばかり。何でそんなことが可能なのか、小一時間問い詰めたい気分になってしまった。簡単にあらすじを書くと、星家に生まれたかわいそうなひゅうま君が、ひょんとしたきっかけで転落人生を歩むというミステリの要素を含んだ下品な犯罪小説。つーか、余計な描写が多くて長すぎ。性描写とか省いて、すっきりさせたほうがよかったよ。このインモラルさだったら、友成純一先生の『肉の儀式』を読んでダークな気分になるといいと思う。つーか、何でこんな作品を選んだのかぼくには理解しがたいものがありますな。文章はなれているな、という印象でしたが。

 誉める点としては、たぶんぼくたちのタブーに触れるような鬼畜な描写やインモラルな性をたくさん導入することで、不快感だけを与えることに成功したという点だけか。オムニバス、カットバックの手法が確かに物語の構造上、重要な役割を果たしていて、『ハサミ男』的な構造性のうまさは認めておく。でもそれにしても、普通のミステリーを期待して購入した読者は、はっきりいって金の無駄になるのでやめたほうがいいでしょう。つーか、この数年間で読んだ作品で一番最低の作品。ということで、NEXT賞の一押しは『ラヴ☆アタック!』『アフリカン・ゲーム・カートリッチズ』の二冊。後者はSFファン向け。メッセージ性もあるし、いい話だと思います。