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ホメロスのオデュッセイアやイリアスの文体を換骨奪胎した現代日本を舞台にした不条理なファンタジー。イラハイや沢蟹まける、そして妻の帝国などで培われた饒舌な文体と反復がホメロスの文体とうまく合致し、独自のリズムを奏でることに成功している。神々が出てきて、神の恩寵を受けたものたちに手助けするのは、オデュッセイアやイリアスのパロディ。他にも色々な元ネタがあるのだと思うのだけど、ギリシャ神話を一通り読んでおくとすごく面白く感じるのは保障する。
読みどころは不明省の設定。不明事象とされる懸案を処理するために作られた国の省庁が出てくるのだが、佐藤哲也氏は「組織の不条理さ」をこの物語で愉快に語ってくれている。不明省の描写だけで、こんなに笑ってしまったのは久々である。不明省の記述部分で面白かったのは、不明案件にもインデックスをつけて検索しなければいけないという点にある。不明案件だから不明のままにしておけばいいのに、それではまずいというわけになる。なんというか、ある種のパラドキシカルなシチュエーションになっている感じがする。実際このあたりの描写はカフカの『城』的な不条理感に通ずるものがあり、組織の本質というのを鋭く追及しているように思われた。
あと神々が介在するという点はホメロスからきている。ホメロスではアテネやヘルメス、ヘラ、ゼウスらが介在したわけだが、本書でもそういう記述がたくさん出てくる。そういう神々の恩寵が当然という世界設定は面白すぎ。だからこそ無運が氷を突然出現させて、倒した敵や痛めつけた部下に10貫目(時にはもっと!)おけるわけで。そういう変な部分がぬかるんでから、的なんだよなぁ。もちろん、一番まともなのは水棲人たちで、彼らの世界観こそが実は世界を構築している点が、ものすごく不条理でいい。色々な読み方ができる本だと思う。一度読んだだけじゃわからない点もありそうだ。
あと不明省システムの設計のところは、イーリアスの御前会議が使われているわけだが、こういう風に変更させるとは思わなかった。なんというかうまくホメロスを読んだ読者に知的リンクを与えてくれている、というか。プラトンファイトはぜひ見たいものだ。まったく本筋には関係ないのだが、なんといっても料理を作っている描写が秀逸。思わずつくりたくなります。
ということで、隙があるようで隙がないという物語なので心して読むべしでしょう。