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Dec.2,2004 (Thu)

飯野文彦『遠近感のない<その男>』(e-NOVELS)26P 100円(税込み)

 久々の第二回目のe-novels書評に、飯野文彦氏のホラー短編を選んでみた。本短編の著者、飯野文彦氏の作家キャリアは長く、さまざまなノベライズを手がけ、数多くのホラー小説をものにした作家である。特に代表作といえる『邪教伝説』はパワフルな伝奇ホラーとして評判が高く、現在は『邪教伝説 ミレニアム』という形で角川春樹事務所から復刊されている。キャリアが長く文章もしっかりしており、大変器用な作家であるという印象をいくつか氏の作品を読んで感じていたのだが、本短編は氏のストレートな想いがしっかりと作品に込められており、想像するだに恐ろしい存在を描いた秀逸な恐怖小説に仕上がっている。

 タイトルの遠近感のない<その男>とはまさに言いえて妙。酒に溺れ、大学生活もままならなくなった主人公の私。私は、丘の上に佇む療養所にてアルコール中毒の治療に専念することに。徐々にアルコール依存症から抜け出している彼の目の前に、ある日不思議とも思える一人の男の姿が目に留まる。<その男>は線路際にある田んぼの中に座っていた。はがきのような四角い顔をした、まるでプラスチックのおもちゃの人形のような体格をしていた。遠いところから見ても、普通ではありえない大きさに見える。ふとした違和感から始まる恐怖。そののち<その男>はなんと鉄塔を壊し、ガスタンクを破壊する。果たしてこの男の正体は何者なのか?そして<その男>と視線が合ってしまった私は、<その男>に自分の存在を知られることになり、私に付きまとうことに……。そして訪れる驚愕の結末。誰がこのような結末になると予想していただろうか?悪意を持つ男の存在に飲み込まれていく私の狂気。ちょっとした違和感がもたらす恐怖の物語である。

 日常のさりげない風景が一転して、だんだんパラノイア的に恐怖感が増大していていき、徐々に現実を侵食していく感覚が恐ろしい物語だった。ふとした違和感がもたらす日常からの乖離。<その男>との距離が縮んでしまったとき、<私>に襲い掛かる不意の悪意。純粋な悪意としか思えない<その男>の存在は徐々に、<私>を狂気と正気の境界へと落としいれ、決定的な一打によって私の身を破滅させる。そう、世の中には<その男>の存在のように知ってはならないものがある、ということを飯野氏は見事に26ページという短編にまとめあげ、読者の想像力をいやが上でも高める物語をモノにした。本短編はe-NOVELSでしか読めないので、興味のある読者はぜひ読んでいただきたい。真のホラーとは何かをこの短編はあなたに教えてくれるだろう。


Dec.17,2004 (Fri)

キアラン・カーソン『琥珀捕り』(東京創元社)

琥珀捕り

 今年のベスト3に入る傑作。本書の内容について語ることは本当に難しい。しかし一度読み始めたら、その不思議な魅力に取り付かれ、知らぬ間に摩訶不思議の体験をすることは請け合い。一見何の関連もないと思われる各章につけられたアルファベット順に並べられた様々な項目。その項目のそれぞれが実は相互に織り成すタペストリーの一部であることに気がつくのは、読み終えた後。琥珀にまつわる薀蓄から、他の項目へとハイパーリンクする。そのハイパーリンクの仕方が自然で、読者の知的好奇心をうまくくすぐる形になっている。好奇心をくすぐりながらも、具体的に当時の事象を描写する記述もすばらしい。ひとつひとつの事象が非常に生き生きとして目の前にパノラマのごとく、読者の前に提示される。

 そして本書の最大の魅力はいくつもの寓話が語り手によって語られいるというメタ構造を持つことにある。特に冒険王ジャックが語る物語は色々な魅力に満ち溢れ、様々な昔話の変形としても楽しめると同時に、虚構の上に織られた虚構の物語であるという形を取る。この物語を書いたキアラン・カーソンは奇跡をモノにしたとしか言いようがない!物語がキーワードによって連結し、一つの集合体として物語が連関していくのが不思議な小説といえる。そういった意味では、果てしない想像力を読者にもたらすことのできる小説といえる。

 また本書は殊にレンブラントが好きな読者にお勧めしたい。もし可能であれば、レンブラントの作品を横に置きながら各項目を読みすすめてみてほしい。本書はまさに、カメラ・オブスキュラがなすパノラマの物語なのだから。値段が高めなのだが、翻訳・内容をとっても一流の物語なので迷わず買うべし。他の本を読んでいる暇があるなら、この本を読め!といいたい。この本を読めたことが今年の最大の収穫のひとつになりそうである。