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Apr.14,2005 (Thu)

■ コニー・ウィリス『航路』(ヴィレッジブックス)

航路上

航路下

 2月の終わりから暇を見つけてちょびちょびと読んでいて、漸く読了。上巻のテンポが遅いので(物語自体はできのいいコメディで、大変楽しめた)ついついゆっくりと読み進めてしまった。他の本に移行できなかったのは、ウィリスのストーリーテラーとしての才能がそれを許さないぐらい、面白かったからだと思う。

 本書はNDE(臨死体験)をテーマにした物語。もし人為的にNDEを引き起こすことができたら、NDEに関係する化学物質などのプロセスを解明できるのではないか、という研究目的のプロジェクトに参加した認知心理学者の主人公ジョアンナ・ランダー。研究パートナーのリチャードととの共同研究の下、被験者を募り、徐々にデータを収集していく。ところが被験者が徐々に辞めてしまい、研究プロジェクトは立ち往生に。そこでジョアンナ自身が被験者となって、NDE体験をすることに。そこで彼女が見たNDEの統合イメージは、一度は訪れたことのある、不思議な場所だった。その不思議な場所がどこであるか、を突き止めようと彼女は自分の過去も踏まえて、NDEのプロセスを解明しようと努力する。

 上下巻あわせて1200ページというボリュームなので、一瞬躊躇したのだが、読み始めたらそうでもなかった。特に下巻に入ってからは、物語が急展開になるので、あれよあれよと読了。300ページを1時間半で読んでしまったぐらいなので、下巻に入ってからの面白さは保証する。しかしそれは上巻のジョアンナ、リチャード、メイジーなどの重厚な人物描写があったからこそ楽しめる部分なので、上巻を時間をかけて読んでほしいと思う。リチャードやジョアンナの気分になって読むと、どれだけマンドレイクが嫌な奴かわかるし。

 読んでいて殊更感じたのは、ウィリスの人物描写のうまさ。話好きのじいさん、死と直面しているためか、リアリスティックになっている少女メイジー、世話好きな姉御肌のウィエル、そして不幸な事故死で婚約者を失ったキットなど、彼らの人物描写によって紡ぎだされた物語なのだと感じた。またさらに下巻以降に入ってからの圧倒的な描写は、読者に自分のNDEを考えさせるきっかけになるのではないかと思う。果たして自分のNDEはどういうものになるのだろうか、と。コウルリッジ、シェークスピアなど古今東西の文献を引用しつつ、物語が進行していく部分もまた、ウィリスの見識ぶりが発揮されている。ストーリーライン以外でのERの描写、映画タイトルの描写などを含めても、ローカス賞を受賞したのもうなづける。ということで、面白かった。瑕疵がない珠玉の物語だ。

航路〈上〉

航路〈下〉


Apr.29,2005 (Fri)

グレアム・ジョイス『鎮魂歌』(ハヤカワ文庫FT)

鎮魂歌

 何となく読み始めて、何となく読了。イスラエルのイェルサレムを舞台にした幻想文学。エロチックな描写が多く、過去に読んだF・マリオン・クロフォード『妖霊ハーリド』(ハヤカワ文庫FT)と、ジョン・アーヴィンの『アラビアン・ナイトメア』(国書刊行会)を彷彿させる物語。特に前者の影響を受けているように感じた(発表年度はわからないけれども、多分グレアム・ジョイスが影響を受けていてもおかしくはないとは思う)。

 不幸な事故で妻ケイティーを失った主人公のトム。彼はとある秘密を妻に隠していた。その秘密が彼を苦しめ、高校教師を自ら辞してしまう。妻の死をきっかけに、彼のもっともの仲のよい女友達であるシャロンの住むイェルサレムへ。そのイェルサレムでトムは理知的なホテルのオーナーと出会い、とある文書を託される。そして彼は徐々にイェルサレムの潜む神秘的でエロチックな世界へと誘われることになる。

 徐々に幻想部分と現実部分が侵食されていく過程がエロスに満ちているので何となくすごい。主人公を取り巻くイェルサレムの街自体が徐々に迷宮めいてきて、ジンの存在を感じられるようになってくるのが恐ろしい。都市自体に性の臭いが満ちてきて、深淵からやってくる何かと交わってしまうところとかは、かなり寒気がする。ある種、ファンタジーというよりはダークな一面を持つ幻想文学といったほうがいいかも。その過程でさらに文書に隠された別の物語がかもし出されていくところも、筆者の力量を感じさせる一冊。英国幻想文学賞を取ったのもよくわかる一冊。人を選ぶゴーストストーリーともいえる。