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スティーヴ・エリクソンの第三長編。ヒトラーのポルノグラファーとして活躍した男性の回想録という形で展開される本書は、語られる内容も含めて本当にびっくりする展開の物語なのだが、最後の最後できちんと展開・拡散していた物語が見事に収束する。この収束の仕方は見事としかいいようがなくて、それはまるで二つの大きな支流が一つの大きな流れに連結するという感覚のある物語だった。この物語は多面的な読み方が可能で、ヒトラーが愛した姪、死せるゲリを軸にして物語を読み解いていくと、改変世界・並行世界SFとして読むこともできる。
時は第二次世界大戦前。主人公はヒトラーのポルノグラファーとして活躍することを運命付けられたインディアンとの混血のアメリカ人。彼は恐るべき悪を背負って生まれてきた男だった。故郷を離れざるを得なくなった彼は、ニューヨークでポルノ作家としての才覚を発揮。彼の書いたポルノはとあるドイツ人の顧客に見出され、彼もまたオーストリアに行く羽目になる。そして彼の数奇な運命は、ヒトラーのヨーロッパ征服とともに、グロテスクな形で収束していく……。
偶然、この本を読み終える前にヒトラー関連の映画2本を見たこともあり、本書をとても楽しむことができた。柴田元幸さんの訳は流暢で、いつもながら読みやすいと感じる。そのおかげもあり、主人公のバニングに感情移入することができた。この物語はメタな構造になっていて、主人公が描いた女性(ゲリ)との幻想(あるいは妄想)が交錯し、二つの平行世界が重なり合っていく点が最大の魅力である。どう重なっていくのかは、読んでみてからのお楽しみなので、詳しくは書かない。文章にするのが難しいほど、読み終えたあとの感想が書きにくいテイストの物語でした。

表題作を含め、4短編を収録。ぼくの好みは「ギャルナフカの迷宮」で、これを読み終わったあとに堀晃「梅田地下オデッセイ」に捧げるオマージュであることを感じる。貴志祐介『クリムゾンの迷宮』(角川ホラー文庫)とネタは重複する部分もあるけど、非協力ゲーム(囚人のジレンマの利得構造)の枠組みの中で、いかに協力を達成してパレード最適な状況にもっていくのか、という流れが面白い。
主人公テーオは思想犯として囚われ、ギャルナフカの迷宮と呼ばれる脱出不可能な迷宮へと追放される。持ち物は水場と餌場が記された一枚の地図のみ。偶然助けられた老人によれば、地図は各人異なるものを一枚渡されるのみ。そして人間を殺し喰らう、「人喰い」たちが跋扈する中、テーオは何とか生き延び、非協力ゲームの枠組みの中で、疑心暗鬼の状態(囚人のジレンマ)から抜け出すかを考えていく。個々人がコミュニティのない状況(リバイアサン的状態、すなわち万人の万人に対する闘争)で、いかに他人を信用し、信用を獲得していくかというプロセスを考えさせる話。人間が社会的動物であるという理解のもと、「協力しない」の均衡から「協力する」の均衡に変化するために繰り返しゲームによる学習の効果(協力均衡の方が、利得が高い)が高いということをうまく示した物語であるといえる。そのことが最後の結末に見事に収束し、感動的に物語が終わる。原初状態から、どのようにコミュニティが立ち上がっているのか、ということを考えさせられる物語。この短編集の中ではこの短編が一番好きだなぁ。
と表題作だけ熱く語ったけど、「幸せになる箱庭」はVRと異星人コンタクトを扱った、テイスト的には小松左京的なヴィジョンに溢れた話で、現実と非現実の境界について考えさせられる話。「漂った男」はなんとも皮肉な話で、10年間海を漂ったパイロットの話を描く。「老ヴォールの惑星」はロバート・フォワードのチーラを彷彿させるファーストコンタクトもので、滅び行く惑星からヴォールたちがどのように対抗策を編んだかということを描いていく物語。
小川一水は確実に今後のハードSF界を担う若手だと感じている。彼の作風は現実にある経済問題(予算制約)を考慮した物語が多く、例えば<第六大陸>や<復活の地>では官僚や企業、政府との予算のやり取りの中で、官僚や企業がベストの解を求めようと苦心することにある。強いて難点をつけるとすると、小川一水の物語は「性善説」をとっているように思われるので、本当の意味で悪人がいない。現実の世界はそんなにうまくいかないよ!という点に立脚してより現実味に溢れたSFの書き手になることを期待して、小川一水氏にエールを送りたい。

翻訳家の山岸真さんから「草上仁は現実経済をベースにしたSFを書く人だよ」と言われたことを思い出して、今年の夏に出ていた本書を読むことにする。本書には経済学のアイディアが利用されており、素敵な馬鹿ホラーSFに仕上がっている。
主人公の沢田ゆかり(美少女・女子高生という設定(笑))とその一家は曰くありげの格安の宇宙船を購入。一家揃って移動することになる。そして、ゆかりが移動すると、自分が公園に埋めたはずの人形のパーツが出てきたり、奇妙な4人組の男女が突如現れたり、何となく怪奇現象が続く。胡散臭い環境に取り巻かれながら、主人公を含む家族と犬一匹、プラスムラマツ教官たちはある日突如宇宙空間を漂流する羽目に陥るのだが、それまでに起きた怪異現象はある謎が隠されていたのだった…。
ラストでの壮大なオチ(これには呆然)にあきれ返る。確かに有限と無限をうまく利用した方法なわけだが、あの場所でそのネタを利用して、こうなるとは思っても見なかった。そういう意味で、経済学的に見て「有限」と「可算無限」の違いに注目して、ある事象が破綻しないということを理解していると納得する(この事象が根本に絡んでいるので、なるほどと思う)。ノリ的にはラノベなんだけど、ラストのオチでギャフン(となる人は多いはず)となる人は多いはず。なお、あとがきはあとで読んだほうがいいかな。 過去より草上仁の作品を読んでいて感じたのは、さりげない日常が進行していると思ったら、突然レールが切り替わって、思いも寄らない方向に物語が収束することが多いということ。それが彼の魅力なのかな、と感じる。