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Apr.4,2006 (Tue)

中井拓志『獣の夢』(角川ホラー文庫)

獣の夢

 
 とりあえず中井拓志氏の本はデビュー作から数えて4冊すべてこれで読んだことになる。バイオホラーものだった『レフトハンド』(けったいな話だったことだけは覚えている)、ネットを舞台にした『quarter mo@n』、そしてSFホラーの傑作として素晴らしかった『アリス Alice in the right hemisphere』の作者だけに期待度は高かった。

 読み終えて思ったのは、SFの要素は低く、現実にありえそうなホラーとしてよく出来た話だった。9年前に起こった小学6年生たちによるクラスメートのバラバラ殺人事件。そしてそれから9年後、ふたたび同じ小学校の屋上で身元不明の死体のばらばら死体が発見される。9年前の事件の再来、事件に関わったとされる不思議な美少女の存在。そして彼女の言葉どおり、「獣」と呼ばれる存在が再び光臨したのか、その謎と犯人に警察官たちが迫っていく。

 さくさく読み終えることができた。特にネット世代の人間としては、この本の内容は実際にありえそうな存在を見事に「獣」という形でホラー化したことが素晴らしかったのだと思う。徐々に闇が明らかにされていく。そして事件に関わった美少女で、<獣使い>と名づけられた精神病院にいる宮地珠紀の一言が、世間を渾沌に導いていくシーンには寒気すら覚える。本書における「獣」の存在こそが、まさに我々の世界を蝕んでいく恐怖の存在なのかもしれない。もしかすると黙示録の獣たちというのは、この作品で言及されている獣と同じなのかもしれない

 文体については、ネット的な文体(2ch風とかではないけど)でわざとやっているという感じで、ぼくにとってはあんまり違和感はなかった。むしろあえて稚拙な文体にすることによって、恐怖感を引き出している印象を受けたと述べておく。文章については特に問題はないと思ったのだけれども、ひっかかる人はひっかかるかもしれない、と感じた。

 この本を読んで思ったのは、よくやった!ということかなぁ。今まで何となくではあれ感じていた、目に見えない何かを獣という形で表現し、手堅くホラーにまとめてくれたという意味でも貴重な一作だったと思う。僕としては満足の一冊だった。