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以前から加納朋子さんの作品には興味があったのだが、なかなか機会がなくて読めなかった。今回は少しミステリ気分だったので、早速読んでみることにした。読み終えて感じたのは、大変女性らしい感性でかかれた人が死なない連作ミステリ短編集という感じで、作品からは読んでいてにやりとするような優しさを感じさせるものだった。解説は読み終えてから読むと吉。ネタバレを含めて、大変論理的に分析されたものでした。
「掌の中の小鳥」「桜月夜」「自転車泥棒」「できない相談」「エッグ・スタンド」の5編が収録されており、この5編に出てくる登場人物が共通し、主人公たちが入れ替わり、それぞれの登場人物にまつわるエピソードがミステリを絡めて明らかにされていく。大学時代に心惹かれた絵画クラブで一緒になった女性の絵がなぜダメになったか明らかになる「掌の中の小鳥」は、そのダメになった事象が絵画の知識に裏打ちされたミステリで、種明かしが起こったときには納得する。そしてその後出会う赤いコートの女性(紗英)との出会いのきっかけの台詞ににやりとするのは請け合い。「掌の中の小鳥」の小話はすごくいい。例として最初の短編を挙げてみたが、すべての短編が硝子細工の如く、ピースピースがうまく配列されて美しいミステリとして仕上がっている。
あんまりネタ晴らししたくないので、あんまり詳しくは書かないつもり。さらに解説が素晴らしいので、僕がそれぞれの短編について感じたことを書くのはあまり意味がないかなとは思っている。できる限りこの本は読者自身が読んでみて、文章からかもし出る情感や季節に配慮したネタや情景の美しさなどを含めて、それぞれの短編一つ一つを鑑賞しながら、巨視的には5つの短編が統合して、また違った物語が見えてくるという美しい連作短編集だと思った。
彼女のほかの話も読んでみたくなったので、帰国したらぼちぼちと読んでいくことにする。

同時に出た短編集(第四解剖室)とセットになったもので、7中短編が収録。解説は風間賢二氏。キングらしさに溢れたホラーや心温まる話でうまくまとまっていて、ネタの処理の仕方が上手いなぁとつくづく思った。僕が気に入ったのは、以前読んでぶっとんでいたと思った「ゴーサム・カフェで昼食を」で、この話は本当に狂っていて、まったく救いがないところが素晴らしい。電波系が好きな人はぜひ読むべし。
ホラー色が強いのはいたし方がないのだが、全体としてキングの作品らしさがよく出た短編だと思う。キング自身による短編解説がついていて、ちょっとお得かなと思う。前半にあたる『第四解剖室』も近いうちに読む予定。お勧めです。

ウラン燃料加工中に臨界事故に遭遇し、大量の放射線に被曝したJCO社員大内久さんの壮絶な83日間の入院生活を描いたドキュメンタリー。被曝当初はやけど程度に思われた部分が、中性子による被曝でDNAを破損し、体を元通りに設計できなくなり、復元が不可能になる状況。免疫系を破壊され、無菌状態のみでの治療。絶望的ともいえる情報不足の中で、治療に取り組む医師たちと、大内さんの回復を信じる家族。大量の放射能を浴びることにより、体が分解していく恐怖、日本の原子力行政の問題点、医療倫理の意味、そして生きることについて考えさせられる一冊だった。
ちょうど8年前の9月、日本の茨城県東海村のJCO東海事業所で、ウラン燃料加工に従事していた大内久(35)さんら3人が、臨界事故(被曝のときに、チェレンコフ光(http://mext-atm.jst.go.jp/atomica/dic_1615_01.htmlを参照)を大内さんは目撃したという)に遭遇。漏斗を支える作業に従事していた大内さんは、大量の中性子線に被曝。大内さんは一般の人が一年間に被曝する2万倍である20シーベルト相当の放射線に被曝。免疫システムは崩壊、人間の体の再生をつかさどるDNAが放射線により切断され、自分の体の再生が不可能となった。
そんな中、東大の前川教授を中心とした医療チームは風車に挑むドン・キ・ホーテの如く、治療法もまったくわからない状態で、試行錯誤しながら、大内さんの治療に当たる。当初は意識もはっきりしていた大内さんを見て「治療が可能」と思われたのだが、中性子による体の破壊は想像もつかないレベルで行われており、まずは造血細胞の作成を中心に、妹さんの造血細胞を移植、造血を成功させる。が、徐々に日が経つにつれ、大内さんは皮膚がはがれ、内臓が放射線により破壊され、栄養が取れない状況になる。そんな中何とか延命治療を続けるものの、心臓停止による59日目に大きな変化が起こり、そのまま大内さんはほぼ植物人間の状態になり、83日めに鬼籍に入られる。
本の中に被曝8日目、26日目の右手の状態が写真として掲載されているのだが、この写真を見て、改めて放射能の恐ろしさを痛感する。8日目までは普通のやけどと思われたものが、26日目には重度のやけど(手が腐っている)になる。巻末の著者あとがきによれば、極秘扱いになっている大内さんの遺体。体の前半分の皮膚が向け、真っ赤になっているのにもかかわらず、背中側は皮膚が残っていたという。改めて目に見えない放射能の怖さを痛感する。
この本で印象的な言葉はたくさんある。治療が進行していくうちに、大内さんが「オレはモルモットじゃない」といった一言。海図がない状況で、暗中模索しながらなんとか大内さんを助けようとした医療チームの努力。生きることがほぼ絶望視されている患者をそのまま延命させるのか、それとも楽に生きさせるのか、色々と考えさせられる。
この臨界事故ではさらに問題とされることがある。現場付近の住人の被曝について。一番の問題は事故を起こしたJCOのずさんな作業体制、その後の対応のまずさにある。実際どれだけの人たちが被曝し、その後の人生にどのような影響がもたらされるのかも謎である。たとえばチェルノブイリでは広島原発500発分の死の灰がばら撒かれ、いまだに半径30キロは入場禁止。放射能による付近住人の健康問題も長期問題として、考慮される。
原爆に継ぐ、国内での被曝事故。この事件は風化されてはならないし、この本が文庫という形で再販売されたのは、素晴らしいことだと思う。だれかこのNHKで放映されたドキュメンタリーのコピーをもたれていないかな?と思う今日この頃。ぜひ見たいです。