『コーポレート・ウォーズ』



近未来ハイテク企業戦争!

あらすじ

 主人公アンドルー・バーチは、アストラダイン社でも一、二を争う凄腕企業戦士(カンパニーマン)であった。彼の主な仕事は、盗聴・謀略・誘拐と手段を選ばずに、敵企業の勢力防止に力を注ぐことにある。彼は相棒のネロとPOV(プルトニウム稼働機)のSTVに乗ってある人物を尾行していた。ところが突然、ターゲットを尾行中、思いがけない行動をとり、彼はSTVと共に海の藻屑と化すところであった。本社に戻った彼は上司のケストナーから新たなミッションを受けることとなった。ライバル企業セレテックス・コーポレーションのある技師に対して、”騒乱”を起こして、ある事業の進度を遅らせるようにと、指令を受ける。彼は、指令地である放射能汚染が深刻であるキャスパーへと趣き、情報収集を初めて、騒乱を起こそうとしていた。

 彼はそこでウエイトレスの素朴で、魅力的な女性ルーシーと出会い、彼女に惹かれていく。そしてもう一方では謎の男、ライムが彼の素性を何となくかぎつけ、自分が元カンパニーマンで、HIVウイルスを注入されて、明日をもしれぬ命であり、あるものと交換条件で、自分とルーシーをキャスパーの外へと出してくれるように取引を持ちかけた。彼は、会社から与えられたミッションを遂行しながら、ライムの取引に応じたのだが……。彼は謎の人物に暗殺され、自分自身も2人の暗殺者に命をねらわれる始末。しかしこれは、新たな物語の幕開けにすぎなかったのだ……。


著者ジョー・クリフォード・ファウスト(Joe Clifford Faust)と
作品について

 1988年に書かれた作品で、1990年に早川SF文庫の一冊として日本語に翻訳されています。

 著者ジョー・クリフォード・ファウストについては、早川文庫SFで、坂井星之さんの訳で3分冊で翻訳されているスペースオペラ『エンジェルズ・ラックシリーズ』でその名前を聞いたことがあると思います。こちらの方が有名で、実にこの『コーポレート・ウォーズ』が訳されるまで、日本ではほとんど知られていないペーパーバック作家でした。しかし、『エンジェルズ・ラックシリーズ』の痛快どたばたを知った人には、「他の作品も読んでみたい」と思う人もいるかもしれませんが、とりあえず『コーポレート・ウォーズ』とはまったく異なった作風の作品であるといえます。 イラストは中村亮さんで、アメコミ長のイラストが好きな人には、イマジネーションの助けになると思います。

 『コーポレート・ウォーズ』のあとがき(中村融氏)にも書かれているように、実は著者自身についてあまり詳しく書かれていないので、短くなるかもしれませんが、ざっと略歴を書かせていただきます。1957年生まれで、コピーライター業の傍らで、1983年に発表した作品が処女作で、他にも様々な経歴を経験した持ち主であるみたいです。作者自筆だと思われる自己紹介によると、「むかしむかし、ジョー・クリフォード・ファウストという広告を学ぶ学生がいた。ある日、授業を受けていた彼は、トイレット・ペーパーのコピーを書くより小説を書くほうがはるかに面白いだろうと考えた。そこで愚かにも学校を退学して、執筆を始めた。結婚し、家族ができると、毎月の支払いに追われるようになった。彼はディスク・ジョッキー、PR誌の編集者、ワイヤとケーブルのセールスマン、映画批評家として糊口をしのいだ(略)。ファウスト氏は目下、小説を書くことで不安な生計を立てている。弁護士の助言に逆らって、現在はオハイオ州に在住。」(『コーポレート・ウォーズ』あとがき、p310より引用)とのことで、軽快な文体から推測するに、コピーライターもしくは広告業界に関係していると思われます。


感想

 古本屋で購入して、半年ぶりに読んだ作品です。限定核戦争によって荒廃した中で、多国籍企業が勢力をしのぐ中で、市民は階級によって分別され、特に企業に属する人間はランクが高く、地位も名誉も与えられているという感じですが、その背後には危険な諜報活動を行っている闇の姿のイメージが強く、一般市民からは敬遠される存在になっているという感じの設定で、企業ヒエラルキーに対する痛烈な批判を込めた、近未来サイバーパンク的SFで、実にテンポが速く、さらりと読むことができると思います。物語はかなり込み合っていて、最後に誰がスパイで、誰が信じられるかわからなくなりますが、その当たりを解明しながら読んでいくと面白いと思います。さすがペーパーバックを中心に活躍している当たり、読者のつぼを押さえた、スピーディな展開、ラブロマンス、サイバーパンク的な近未来企業像、裏でうごめく陰謀など、どちらかというと設定さえ違えば、会社物としても十分読むことができる、面白い作品だと思います。最初はそんなに期待していなかったのですが、読み始めたら結構面白くて、いろいろな謎を組み込んだ陰謀劇が、魅力だったと思います。現在入手困難なので、図書館もしくか古本屋で探して読んでみてください。『エンジェルズ・ラックシリーズ』が気に入った人ならば、「へえ、こんな作品も書くのかあ」と思われることでしょう。


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