『アンドロイド』 |

話はさかのぼること1967年の12月のこと、主人公のマーカムは、<イギリス・アメリカ連合軍>対アジア諸国の核戦争に備え、北ロンドンにつくられた地下冷凍倉庫へ大量の食料を格納している最中に核戦争が起こり、そのまま冷凍庫の中に閉じ込められてしまったのである。……そして意識を取り戻してみると、これが146年後の西暦2113年の病院の一室であった。その核戦争によってイギリスは壊滅し、かつて6500万人あった人口は6万人まで減少して、国家の存続も危うくなっていた。その決定的な人口不足を補うために、科学者や技術者が開発したのがアンドロイドだったのである。この時すでに、医者や看護婦はアンドロイドの仕事になっており、この時代の人類はみんながそれぞれ自分専用のPA(パーソナル・アンドロイド)を持っていて、すべての面倒をこのPAが見てくれるという。
病院のベットの中でそんな話を聞かされているうちに、マーカムはふとなぜか聞き覚えのある女性の声を耳にするのである。彼の方に、姿形の美しい女性形アンドロイドが彼の方にやってきたのである。「……私はあなたの私用アンドロイド・マリオンAと申します。」彼の妻に似た顔を持つ、人間のように感情をもち、自己増殖をする一種の人工生命体であった。この世界は前述のようにすべての職業がアンドロイドに任されており、「余暇」がすべての人間にとって生まれながらの特権になっていたのである。マーカムはこのような状況にとまどいを感じるのである。とりあえずその美しいアンドロイドとともに病院を退院したマーカムは、21世紀の家庭生活を始めることになる。このユートピアのような社会でもマーカムはとまどいを隠せなかったのである。ある日、マーカムは「逃亡者」と呼ばれる人に出会う。その人物は元大学教授であり、アンドロイドに自分の職を奪われてからの日々を語る。そしてアンドロイドのしく体制に対しての不満と革命を述べる。心を動かされたマーカムは悩むのであるが……。
1958年に書かれた作品で、1978年に早川SF文庫の一冊として日本語に翻訳されています。(その前に銀背の一冊として販売されていました。)イラストは黒を基調とした背景に色白の美しいアンドロイドが中央に、機械部品がむき出しになった右腕をさらして一部分が壊れたギリシャ風の神殿のそばにいる、という感じです。
あとがきによれば、エドマンド・クーパーは1926年4月のイギリス生まれの作家。15歳で学業を終えて、実社会で活躍、16歳の時には4つ年上の女性教師にプロポーズし、それから3年後に彼女と結婚した。彼はその後、教師になったが教師を辞して、SF作家を志して独立した。1954年にオーセントリック誌からデビューしたのを皮切りに、その後はファンタスティック・ユニバース誌(1956〜59年)に載せている。インターネットによれば1982年に死去。それまでに30冊の著書を残している。
この作品のいいところは、やはり「アンドロイドに恋愛感情を持たすことができるのか?」ということに対する問い掛けです。社会すべてをアンドロイドに管理させた世界(ある意味では恐怖ですが……)で、人間らしい少数派の人々がアンドロイド体制に反発して、蜂起する中で個人用アンドロイドマリオン・A(Aというのはトップクラスのアンドロイドを意味している)がマーカムによって教えられた「感情」というアンドロイドにとっては不思議なものに対して、開化し、人間の感情を学び、理解していく様は納得がいきます。その意味ではラテン語で「人間に近い」という意味を持つ「アンドロイド」が人間と同じような感情を持つに至ったときに、彼ら(彼女ら)を果たして人間として我々は迎えることができるのか?という問題を提示していると思いますし(手塚治虫氏の『火の鳥』のさる編でエアー・カー事故で大けがをした青年が一名を取り戻した時、人間が人間に見えずある女性ロボットのみが人間に見え、青年はそのロボットに恋をする、という話があります。(のちのちロピタの原形になるのですが……)クーパーの本作品を読んでいて、はっとその話を想起してしまった自分でしたが……。皆さんはどのような印象を持たれましたか?)。機械と人間は果たして異質なものであるべきなのか?それとも融合して相互補完関係になるべきなのか?それは私にはまだ回答が出すことができません。この作品ではロボット3原則もない世界(アンドロイドが人間を殺しても大丈夫な世界)なので、そういう意味では興味深い展開になっているのですが。その意味では「人間により近づいた」未来のロボット像を提示した作品(ある種不気味さを残して)であると思います。野田昌弘氏の『愛しのワンダーランド』(早川書房)でも本作品は絶賛されているので、併せて見られるといいかと思います。本作品も残念ながら、品切・絶版(90年ごろには本の最後の目録一覧に掲載されていたので、たぶん品切れかなと?)になっているので古本屋にて見つけてみてください。