『西の反逆者』


イラスト:生頼範義

圧制者からの解放をめざして!

あらすじ

 遥かなる未来、ハルマゲドン(最終戦争)後の地球は、不思議な魔法の使える世界であった。この最終戦争後の世界は、大きく分けて<西方>および、<東方>に別れていた。だが時が経つにつれ、この<世界>は東の領域を本拠地とする邪悪な魔力の力を振るう<東の帝国>と呼ばれる勢力の支配下に置かれつつあった。だが、その圧制に対して、勇気ある抵抗活動を行う人々がいた。彼ら<自由の民>こそ、<東方>の邪悪な勢力に対抗する唯一の希望であった。彼ら<自由の民>は<東の帝国>によって家族を殺されたり、圧制から逃げ延びてきた人たちなど、様々なバックグラウンドを持つ人たちによって構成されていた。しかし、圧倒的な勢力をほこる<東方>の勢力は、容赦なく彼ら<自由の民>を追いつめていく。そしてついには彼らの指導者である<老翁>と呼ばれる強力な魔法使いも、彼らに囚われ、<東方>の太守エイクマンの拷問によって殺されてしまう。そのとき<老翁>は最後の瞬間に太守エイクマンに「よく聞け、エイクマンよ!」「よくきけ、わたしはアードネーだ!<象>に騎乗し、電光を揮い、あわただしい時の流れが安い布をまたたくうちにボロボロにするがごとく要塞を粉砕するアードネーだ!……」このような謎のメッセージを残し、<老翁>は絶命する。果たして、<アードネー>とは?<象>とは?

 畝の端までやってきて、いつものように農作業を行っていた素朴な農民の青年、ロルフは、自分が予期していた光景−−<城塞>の翼を持つ爬虫類どもがまたしてもこの地方を詮索するためにやってきたのだ。すでにこの地方は、<東方>から押し寄せてきた新しい支配者によって蹂躙の限りをつくされ、奪われ、引き裂かれた土地をなおも手辺りしだいに荒し回っている。肥沃だった土地は荒廃し、今や見る影もなかった。使いものになる人手は狩り集められ、太守エイクマンのための強制労働をさせられていた。太守エイクマンは<城塞>を完璧にするため、そして若き<東方>の太守である、チャップと絶世の美女と謳われる自分の娘チャーミアンとの婚約のために、安全性を高めたかったのである。しかし、悲劇は起こった。爬虫類どもが、ロルフの家族の住む小屋を襲ったのである!ロルフは手出しができないまま、なすすべもなくその光景を見守るしかなかった。侵略者たちは暴虐の限りを尽くし、父親とそして母親を殺害し、妹のリサの安否はまったくもってわからなかった。ロルフは復讐を誓い、広大な荒野へとさまようのである。

 彼はそこで一人の旅商人に出会う。名前はメイウィックといい、自分と同行しないか?と彼に申し出る。彼は両親を殺されたために理性を失いかけていたが、メイウィックといると理性をなんとか保つことができ、彼に同行することにした。ロルフは彼の見習い行商人という形で彼に同行したが、その途中<城塞>の兵士たちに遭遇する。ロルフは取り調べの途中、突然感情を抑えきれなくなり、若い兵士に襲いかかってしまった。すると、旅商人メイウィックが三人の兵士を絶命させると、後に彼が<自由の民>の一員であることを知り、ロルフは彼らの仲間に参加することになるのである。そして、ロルフは<象>と呼ばれるものの探索へ出かけることになるのであるが……。


著者フレッド・セイバーヘーゲン(Fred Saberhagen)と
作品について

 1979年に書かれた作品で、1982年に早川SF文庫の一冊として日本語に翻訳されています。イラストは株式会社光栄の歴史シュミレーションゲームのゲームパッケージのイラストレーションや平井和正さんの<ウルフガイ>シリーズの一連のイラストで有名な、生頼範義さんです。黒を基調とした(夜をイメージした)落ち行く巨大な夕日を背に、中央に太守エイクマンと思われる黒フードの髭の男と、旧世界の乗り物<象>のイラスト、そして彼の騎馬隊が描かれています。その雄々しいイラストは、読んでいる人にイマジネーションを与えてくれることでしょう。

 著者フレッド・セイバーヘーゲンは1930年アメリカ生まれの作家で、元アメリカ空軍のヴェテランで、1961年からSFを発表し始め、その作品の多くは早川SF文庫で読むことができます。特にセイバーヘーゲンといえば、<バーサーカー>シリーズと言われるくらい有名で、日本では短篇集2つを含む、3つの話を読むことができます。特に<バーサーカー>シリーズでは著者のチェス思考(セイバーヘーゲンはチェスが好きなことで有名で、なんとチェスSFのアンソロジーを編集しているほどだそうです。)が存分に生かされていて、フォン・ノイマンが始祖とされる「ゲーム理論」的な思考を利用した<バーサーカー>との駆け引きが実に面白く書かれています。詳しいことは<バーサーカー>シリーズの書評のときに記すとして、現在この<バーサーカー>シリーズは『バーサーカー/皆殺し軍団』(早川SF文庫)、『バーサーカー/赤方偏移の仮面』(早川SF文庫)、『バーサーカー/星のオルフェ』(早川SF文庫)の3冊です。残念なことに三冊とも品切れもしくは絶版です。(<バーサーカー>シリーズについて知りたい方は山名田さんのお気に入りの敵役"Review"のページを参照してください。面白いです。)そして、本シリーズ<東の帝国>シリーズは3冊あり、本書『西の反逆者』『黒の山脈』『アードネーの世界』の順に物語は進行していきます。あとロジャー・ゼラズニィとの共作として創元推理文庫SFから出ている『コイルズ』があります。日本で読めるものは少ないかもしれませんが、その経験に裏打ちされた作風にはファンが多いのではないかと思います。残念ながら、セイバーヘーゲンの作品群はすべて品切れか絶版です。古本屋をくまなく探索するしかないみたいです。


感想

 最初にこの作品を読み終えた時に感じたのは一世風靡した<北斗の拳>を思い出してしまいました。なぜ自分でもそれを思い出したのかわかりませんが、たぶん<城塞>の圧制者として<太守>が出てくるのですがそれがカイオウ亡き後のケンシロウの冒険に似ていたからです。また最終戦争後の地球で、力がすべてという意味では非常に似ていたというのもありますが、読んでいくうちにだんだんと引き込まれていきました。主人公の青年であるロルフはいまいちぱっとしない農民の素朴な青年だし、<自由の民>の魔法使いたちも<東方>の魔術師に比べれば大した力は持っていない。そして兵力にしろ、すべてを合わせたところで所詮烏合の衆ではありますが、アイディアと<旧世界の物品>で勝負して、圧倒的な力を持つ<城塞>を打ち破るシーンはすかっとします。あと、主人公ロルフが神憑りになったように<象>を操るシーンは実に神秘的で、「宿命が彼にそうさせた」という感じを私自身は受けたように思えます。

 第1巻『黒の山脈』で、SF界の二大スターラリイ・ニーヴンとロジャー・ゼラズニィが序文を寄せていて、ニーブンはこのシリーズについて「イメージが鮮明ですっきりとしており、まったくありえないことなのに、まぶたにはっきり思い描けるのだ」と評し、ゼラズニィは「著者の綿密な知識によって作られた珠玉の逸品」というように評しています。自分自身も「科学と魔法がある世界で、ここまでイマジネーションを想起させて、ただのファンタジー小説に一ひねりしている。そして<自由の民>と<城塞>の描写を交互にいれることにより、最後の闘いへといたる過程がみずみずしく描かれているのではないか」と思いました。あともう一つ加えるとすれば、主人公がスーパーヒーローではなく、普通の農家の成人男子であり、この<東の帝国>に対する闘いを通じて、成長していく過程が目にとってわかる部分が非常に魅力的です。その意味で、破滅後の世界を描いた作品の中でも屈指のおもしろさを誇るシリーズではないかと思いました。残念なことに、著者あらすじにも記したとおりこのシリーズも書店では見かけることができないので、古本屋さんや地道なリクエストを繰り返すしかないみたいです。


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