『フェッセンデンの宇宙』


装幀:A・ソコロフ
もしもあなたが……

それぞれのあらすじ


著者エドモンド・ハミルトン(Edmond Hamilton)と
作品について

 1936年から1952年までに書かれた短編を集めた日本版オリジナル短編集。1972年にハヤカワ・SF・シリーズの一冊として刊行されました。イラストはA・ソコロフで、その機械的で宇宙をイメージしたイラストはハミルトンのこれらの短編にふさわしいものになっています。

 エドモンド・ハミルトンというと<キャプテン・フューチャー>の人、スペースオペラ作家というイメージを持たれている人も多いかと思います。実際日本語に翻訳されている彼の作品の大半はキャプテン・フューチャー関連のものであり、その他の彼の短編については触れることが少ないように思います。日本独自に組まれた短編集が二冊あります。しかしながら二冊とも入手困難な一冊になっています。実際SFMの500号記念では「フェッセンデンの宇宙」が再録され、短編作家としてのハミルトンの魅力の虜になった人も多いと思います。<キャプテン・フューチャー>シリーズや<スター・ウルフ>などのスペース・オペラ作品についても現在入手困難であることは非常に残念でなりません。この短編集を読んで、ハミルトンという作家の再評価を求めたいと思いました。

 著者エドモンド・ハミルトンは1904年アメリカ・オハイオ州で生まれる。1977年没。スペースオペラ全盛時代に、宇宙の破壊者と異名をとった。10歳でハイスクールに入り、15歳でウェストミンスター・カレッジに入るという神童だったが、大学でただ一人の年少者ということもあって、E・R・バロウズ、メリットらの小説を読みふけるように仕向けてしまい、結局退学。そうしてSF作家の道を歩むことになる。作家としてのデビューは1926年のウィアード・テールズ誌の「マムルスの邪神」。それ以後、40年間に300篇近い作品を書いた。(詳細なリストは「海外SF翻訳作品集成」などを参照のこと。)ハミルトン夫人はSF作家のリイ・プラケット。日本語で読める作品はたくさんある。魅力的なキャラクターで日本の少年少女を魅了した<キャプテン・フューチャー>シリーズ、<スター・ウルフ>、<スター・キング>シリーズなどがある。日本語で独自に読めるものしては『時果つるところ』(早川書房、世界SF全集11)、『最後の惑星船の謎』(久保書店)、『滅びの星』(久保書店)、『宇宙艦隊の奇襲』(久保書店)、『星間パトロール/太陽強奪』『星間パトロール/銀河大戦』(ハヤカワ文庫SF)、『虚空の遺産』(ハヤカワ文庫SF)、『星々の轟き』(青心社)がある。


感想

 入手困難な一冊でしたが、ようやく読むことができました。当初ぼく自身もハミルトンというと<スペース・オペラ>作家というイメージが非常に強かったのですが、この短編集を読み終えて短編作家としてのハミルトンの再評価をしたくなりました。ペシミスティックで皮肉な短編が満載された本短編集は長く読み継がれることを期待する短編集です。特に「何が火星に」はレイ・ブラッドベりの裏火星年代記ともいえるような叙情あふれる不思議な短編です。たまたまか火星を取り扱った短編が多いのですが、ブラッドベリとは違うペシミスティックな雰囲気は読んでいる人の心をぐいぐいととらえることでしょう。内容的にも「人間がすべてにおいて優れているのではない」ということを皮肉った短編が多いのは、ハミルトンの心情の吐露というところでしょうか。キャプテン・フューチャーシリーズという永遠のヒーローを作り出したハミルトンの一方の顔、それは彼の短編を読んだ人にしかわからないでしょう。彼のもう一つの姿は人間の本性に懐疑的で、人間の愚かさをたしなめる批判者としてのハミルトンです。とくにそのことは「反対進化」や「フェッセンデンの宇宙」、「世界のたそがれに」に色濃く浮き出ています。あっと驚く結末に読者は度肝を抜かれ、二度と忘れないような気分にさせられるでしょう。ことに表題作である「フェッセンデンの宇宙」はSFMの500号記念増刊号にもリクエストで復活した名作ですので、ぜひ読んでいない人は読んでみることをおすすめします。

 人それぞれがハミルトンに対する想いは接してきた作品群によって違ってくるでしょうが、ぼくは短編作家としてのハミルトンをもっときちんと評価したいと想います。もう一つの短編集である『星々の轟き』を読んで、ハミルトンという作家についてもっと知りたいと強く思ったのでした。全体的に彼の作品は入手困難になっているので、もし銀背の本書と青心社の二冊を見つけたら即買いだと思います。強力にオススメ。


本について