■G・R・R・マーティン『フィーヴァードリーム』(創元推理文庫・上下) フィーヴァードリーム上 フィーヴァードリーム下

 G・R・R・マーティン『フィーヴァードリーム』(創元推理文庫・上下)読了しました。あまりの面白さに一気に読んでしまいました。本当に面白い。なるほど、当年のこのミス(1990年)でも上位に食い込んでいる理由は納得しました。どう面白いかというのは一概にはいいにくいのですが、とにかく吸血鬼の高慢さと闇に潜まなければならなかった悲しみの相反する気持ちを書ききっているところにしびれました。長さを感じさせないところはやはりうまく河を使っているからでしょうか。

 河というとファーマーの<リバーワールド>とかワトスンの<黒き流れ>なんていう話を思いだすわけですが、今回は実在の19世紀南部アメリカを舞台としています。この当時アメリカは南北戦争直前の混沌とした猥雑な世界で、奴隷解放がまだ行われていない状態でした。そんなアメリカの南部を舞台にある悲しき物語がつづられていくわけです。(ちなみに創元ノベルズ版の表紙はジョシュア(上巻)とダモン・ジュリアン(下巻)のようですが、再版されたバージョンは文字だけの味気ない表紙です。)

 時は南北戦争の前夜、黒人奴隷による綿花栽培によって繁栄を謳歌していたアメリカ南部で、ミシシッピ河の蒸気船運輸会社を経営するアブナー・マーシュ(主人公)は、ジョシュア・ヨークという不思議な男にある契約を持ちかけられる。マーシュは前年の冬に自分の所持する船の大半を失い、借金がかさんでいたのだ。ジョシュアの申し出はこうだった。すなわち、会社に出資して共同経営者になりたい。ただしジョシュアの行動に対して口出しをしないという条件で。マーシュは自分の夢であったミシシッピ河でもっとも早い蒸気船、フィーヴァードリーム号と名づけられた巨大な蒸気船を手に入れたのだ。ジョシュアは物静かで理性的な男であったが、活動は夜だけだった。多少疑惑を抱きながらもマーシュはジョシュアとの友好を深めていくのだが……、というのがあらすじ。

 この後、いろいろとジョシュアが疑惑を持たれるような行動をするわけですが、したたかなジョシュアと剛毅な性格なマーシュのやりとりがとても面白い。ここでバイロン卿の詩が出て来て、ジョシュアがバンパイアであるということがわかってしまうのですが、この会話が実に優雅でした。その後<血の支配者>であるダモン・ジュリアンが登場してくるわけですが、彼は手下として吸血鬼になりたいと願っている奴隷監督のサワー・ビリー・ティプトンを昼の眼として、人間を家畜とみなしてその血をひたすらすすります。ある方法によって血の渇きを克服したジョシュアがダモンに対して戦いを挑むわけなのですが、その結果の意外さに驚くことでしょう。(もちろんこれが伏線なんですが。)

 なんだかやるせない気分になるのですが、それはやはり時代背景とテーマの重さにあるでしょう。白人による黒人差別と吸血鬼の見方がいかに偏っていて間違っているかということについても、ジョシュアという人間と融合していこうとする派とダモンという人間は家畜であるという派の対立を描くことによって、「人種差別問題」を裏テーマとして取り扱っているように思えました。(これは先日読んだ『黒いアリス』とも通じるものがありますね。)

 キャラクターの個性も味が出ていて、物語に没頭する原因のひとつでした。やっぱりマーシュの飾りのない剛毅で、信用のおける頑固さがよかったです。一番好きなキャラクターかも。個人的には映画化して欲しい作品なんですが、難しいだろうなぁ。

フィーヴァードリーム〈上〉 フィーヴァードリーム〈下〉