『時との戦い』感想めも


 アレッホ・カルペンティエール『時との戦い』(国書刊行会)読了しました。ラテンアメリカ(キューバ)の作家でサンリオSF文庫から『バロック協奏曲』という本を出しているマジックリアリズムの創始者とされる作家さんです。この本自体はうちの掲示板でフォローがあったように<ラテンアメリカ文学叢書>というシリーズの一冊として発売された本です。装丁がダンボール箱みたいな感じでうすっぺらい本です。この本の存在をしったのは伊藤典夫編『世界のSF文学総解説』(自由国民社)という本を読んでいたときで、時間・次元テーマの本として紹介されていた以来、探していた本でした。先日中目黒の古本屋で運よく見つけ、先日ようやく読了しました。

 この本自身は短編集で、時間をテーマとした短編が三篇収められています。「聖ヤコブへの道」「種への旅」「夜の如くに」の三つの短編で、めぐるめく世界・逆行する世界、融合する世界を限られたページのなかでカルペンティエールは語っていきます。

 「聖ヤコブへの道」が一番長く、一番面白かったです。1577年アントワープにフワンという鼓手がいたという事実の断片から着想を得たというこの短編はペストに伝染したと思いこんでしまった一人の兵士フアンがそれまで行っていた放縦を悔い改めて巡礼の旅に出るというもの。途中、セビリアで新大陸帰りのフアンという男に唆され、フアンは新大陸へと旅立っていく。夢の大陸だった新大陸が実は幻想であり、実際は幻滅であったことに失望したフアンは母国に戻り、インディアスのフアンとして別の巡礼のフアンを新大陸へといざなうという話です。物語の筋をくはしょりましたが、とにかく当時の雰囲気とともに知らぬ間に円環している感じは『エンパイア・スター』のコメット・ショーの成長を見ている気分でした。(多少ニュアンスが違いますけれども、読んでいてめまいを感じたということです。)

 「種への旅」はカベリニャス侯爵家の当主ドン・マルシアルの一生を「逆」にさかのぼるという話で、ビデオの逆回しを見ている気分になります。(浅倉久志編の『ふしぎな国のレストラン』(徳間書店)にもこういう話があったような気がします。)とりあえず普通の速度なんですが、逆に誕生にさかのぼっていくというのは不思議な感覚です。

 「夜の如くに」はトロイアの戦いに出征するギリシャの兵士→新大陸の征服に参加しようとするスペインの兵士→アメリカの領土の鎮圧に出発するフランスの兵隊→トロイアの戦いに出征するギリシャの兵士という円環の中で、おのおのの兵士が同じように考えることを見事に融合させている作品でした。知らぬ間に世界がかわり、そして戻るという感覚はめまいにも似た不思議な感じです。歴史的・空間的な一瞬取り除いて、共同的運命を描くことによって魔法的効果をあげることに成功しているように思えました。

 なるほど、これはSFといっても十分だと思います。機会があればぜひどうぞ。