『光の使者』 |
イラスト:川原由美子2032年、金色の後光にも似た環状体で直径40マイルにもおよぶ謎の物体が、太陽系を通過していった。それから1年後、「ハロー」と呼ばれることになった物体が残していったバスケット・ボール上の「シード」が地球上のいたるところに降り注がれた。このシードと呼ばれる物体は、人間の精神に破壊的な影響をもたらすアルファ波の放射を始め、人々を恍惚状態へと導き、虜にしてしまったのである。そのためにわずか数ヶ月のうちに文明社会は壊滅状態に追い込まれてしまったのである。ハローは異星文明の産物であるのは明白であり、その目的は侵略であると思われた。この人類が体験したこともないような危機に対して、ハローの侵略から難を逃れた月面植民地の人々、「ムーン・メン」が祖国地球を助けるために立ち上がったのである!
ムーンメンの指導者トレントン博士に率いられた海兵隊員たちはシードの謎を探るべく、アメリカのタホー湖で「ケーキ・ウォーク作戦」を開始した。その作戦とはタホー湖に沈んでいるシードを引きあげて、シードの謎を解明しようというものであった。しかし、意外な抵抗の後に、彼らはシードのアルファ波に対抗できるのはベータ波であるということに彼らが気づき、ついにベータ波銃によってシードを捕獲したのである!その一方、トレントン博士の双子の姉妹、シェリルとシンディは月の上でシードの残骸を発見する。その発見した残骸の中には彼女らにとてつもない力を与えるものがそこにあったのである。それは、矢形の棒であり、棒にはまるい大理石のようなボールが9つついていた。羽のように軽く、さわるととても奇妙な感じがした。この物体が彼女らに大きな力を与え、シードの謎を解くための鍵となることがわかるのは後々のことである……。
1986年に書かれた作品で、1988年に早川SF文庫の一冊として日本語に翻訳されています。イラストおよびカバーイラストは『観用少女』などで有名な少女漫画家川原由美子さんです。ピンク色のムーンスーツをまとったシェリルとシンディがお互い向き合って光の輪(もしくはホイール)に入っているという感じのイラストです。
著者ポール・クックは本書『光の使者』が日本において初めての翻訳となる作家。アリゾナ生れのアメリカの作家で小説以外に、詩やシナリオを書いているということだそうです。作家歴はすでに20年以上のベテランです。1981年に最初の処女長編、"Tintagel"を上梓、解説によれば音楽を口ずさんだだけで異世界に転送されるという伝染病に冒される話で、病気への耐性を持った主人公たちが冒険を繰り広げる。最近は"Fortress on the Sun"という作品(太陽に危険なほど近い位置に配置され、強力なシールドによって守られた21世紀の鉱山労働収容所のRaは凶悪犯罪の収容所であり、刑罰の一環として受刑者は記憶を消され、監視人の要求のみが刑罰の督促とされていた。しかしある時、不気味な疫病が受刑者を脅かす時、彼ら全員が自分たちの受刑の裏にある恐怖の真実を知ることになる……(後に読了))です。彼の作品で日本語で他に読めるものは、彼の第五長編となる『渦状星系の深淵』(ハヤカワSF文庫)があります。日本でももっと紹介が進むと面白い作家の一人かもしれません。
魔法の本棚とかなり重複しますが、本書は第1部(地球侵略編)と第2部(冒険編)のような具合でうまく別れています。第1部ではあらすじに大半がかかれていますが、突然シードと呼ばれるアルファ波(人間の脳波で心地好くする作用がある)を放出する物体に地球が壊滅させられる所から始まり、<ムーン・メン>といわれる月に居住した人々がシードと対峙するのであるが、その過程で色々とあって、地球は対処法をしって壊滅を免れるという話しが第一部、第二部ではシードにも関係する知力増強装置のようなもので色々な人格を利用できるようになった(ここらへん、ベンフォードの<フェイス>に似ているかも)月の指導者トレンドンの子供で双子の姉妹がシードのせいで行方不名になった母親を探しに、その力をもとに母親の行方を求めて冒険へでかけるというストーリー。前半だけでもシードの虜になっていく過程が怖く、どうやって防ぐのか?途中物語の主人公的な存在である元ムーン・メンの指導者トレントン博士がシードの虜になってしまったときは、どきりとしました。果たして博士は助かるのか?そして地球の運命はどうなるのか? などいろいろと思いながら手に汗を握るような気分で読んでいました。
第二部ではファーストコンタクトを含め、ますますインドの宗教観(輪廻転生がキー)が絡んできて、複雑な様相になってきていました。それはシードの置き土産である輪廻転生である自分の先祖などの知識を利用することを可能とする真珠によって月の子供たちが大人となってしまって、いろいろとシードの謎に迫るというものです。特に輪廻転生した子供たちの祖先が意外な人物であったりすること、もう一つ重要なのはシェリアーとよばれる精神世界へと入り込める装置が非常に有効になるというのがポイントです。作者の輪廻思想への考え方が見えてとてもユニークだと思います。未知の世界の探索やハローのシードの謎など、複雑にからんでいて最後まで読まないとわからなく、最後までどきどきはらはらな作品だったと思います。面白かったので、同じ作者の『渦状星系の深淵』を今度読んでみようと思っています。 ただしポール・クックの作品はすべて品切もしくは絶版のようなので古本屋を当たるしかないようです。(割と新しい作品なのでよく見かけます。)もし興味があれば読まれるといいかもしれません。