『デクストロII接触』


カバー:加藤直之

我々が遭遇したものは……

あらすじ

 1月15日、恵子の八歳の誕生日の二週間前に、高橋家の人々は伏見の南郊外の家を出て、電車で京都の中心部に向かった。幼い恵子はまるで季節外れの一月に孵化したエキゾチックな蝶のようだった。三十三間堂の境内で、異星人のようなガイジンに写真を撮らせてくれと言われたことを思い起こすことがある。そう、異星人と会話ができたらどんなに素晴らしいか、と恵子は思ったのだった。そんな彼女は成人して、超光速船ヘヴンブリッジの調査隊に言語学者として加わった。探検隊はヘヴンブリッジに乗船して、ルナポートを出航し、ジェミニ星系のデクストロを公転する謎に満ちた小さな惑星に向かったのである。恵子はこの星にオノゴロと名付け、その小惑星に生息する生き物、”カイバー”に汎地球的言語トランスリックを教えていった。異星人カイバーは恐るべきスピードで恵子の教えを学んでいった。彼らは、体的にはジャコメッティの彫刻に似た不思議なサイボーグに似た姿をした生き物であった。彼らは七人単位の家族を構成しており、言語も文化も不明であった。

 そんなカイバーたちがある日突然、姿を見せなくなってしまう。恵子の恋人で、異星生物学者のアンドリック・ノルンは再度のコンタクトを試みてカイバーの住居を訪ねるが、彼らが見たのは死んだように硬直して動かないカイバーの姿であった。果たして彼らは死んだのか?自然から進化した形態の生物なのか?それとも機械生命体なのか?など、探検隊の中に謎が深まるばかりであった。そしてその後、調査隊が遭遇したのはとてつもない事実であった……。


著者イアン・ワトスン(Ian Watson)とマイクル・ビショップ(Michael Bishop)と

作品について

 1979年に書かれた作品で、1988年に東京創元社から創元推理SF文庫の一冊として販売されております。イラストは加藤直之画伯で、中央には主人公の高橋恵子と思われる女性の顔とヘヴンブリッジと思われる宇宙船、そして惑星オノロゴの姿が描かれております。地表には異星人カイバーらしき姿もあり、イマジネーションを刺激するイラストです。

 著者の一人イアン・ワトスンは1943年4月20日、イングランド北東部生まれ。オックスフォード大学で英文学を学び、卒業後は東アフリカ大学の講師として教鞭をとり、1967年には東京教育大学の講師として来日した。(慶應義塾大学で非常勤講師を勤めたほか、最後の一年は日本女子大でも教えていた。)日本に来たことがSFを書くきっかけとなる。その辺りの事情を知りたい方は、短編集『スロー・バード』(ハヤカワ文庫SF)の大森望氏による後書きをご参照していただくとありがたいです。彼の最初の長編SFは" The Embedding"であり、この作品は見事1975年度アポロ賞を受賞している。日本語で読める彼の作品(単行本)は以下の通りである。ただ、少女ヤリーンのとんでもない冒険をテーマにした宇宙的神話シリーズ(と自分は思う)<黒き流れ>シリーズ以外は入手が難しい。このシリーズは三部作から成る。『川の書』『星の書』『存在の書』の3冊で、東京創元社から翻訳が出ています。世界の中心を流れる巨大な川のある世界を舞台とした壮大希有な物語です。そして今は亡きサンリオSF文庫から出ている『ヨナ・キット』は、マッコウクジラの脳に擦り込まれた人間の意識の変容を描き、『マーシャン・インカ』では火星の土に触発された仮死による意識の変革をテーマにしたSF作品です。そして日本オリジナル短編集、『スロー・バード』がハヤカワ文庫SFから発売されています。本書を含め入手が難しい作家の一人です。

 もうの一人の著者マイクル・ビショップは1945年アメリカ生まれの作家です。幼年時代は軍人だった父とともに、日本を含め世界各地を渡り住んだ作家です。1970年代にSFを書いた作家です。日本での翻訳はあまり恵まれていなく、いまのところ次の三冊がメインです。早川SF文庫から出ている『ささやかな叡知』、集英社から出ている『樹海伝説』、早川海外SFノヴェルズから出ている『焔の眼』の3冊です。あまり情報がないので、簡単にしか触れていませんが、今後も翻訳が出て欲しい作家の一人であります。


感想

 日本人高橋恵子が主人公という珍しいファースト・コンタクトものSFです。この作品はいろいろな意味で面白いです。それはやはり異星人とのコンタクトについて、言語学者である高橋恵子が腐心をして、コンタクトをする。物語の展開がだんだんと哲学的な・宗教的な形(カイバー・トランスといわれる、超自然的・超宗教的強烈体験とでも申しましょうか)になっていくシーンはまるでディレイニーの『バベル-17』を彷彿させるような感覚になります。主人公も女性で、東洋系という部分ではディレイニーの作品とも一致している部分もあるのですが、なんというか異星人の本質に触れることができる?という感じであります。それはまるで麻薬のようであり、また一瞬のノヴァのようであり、滅びへの道でもあります。三十三間堂から始まり、そして三十三間堂に終わる。この物語の円環構造はまるで『エンパイア・スター』とは違った意味で感じる部分があるでしょう。冒険隊の隊員たちの募る不満や疑心暗鬼、そしてカイバーに対する<異質なものへの恐怖>など見事に描かれていると思います。(<生の肉体を持たない謎の生物に対する畏怖という感じです。>)残念ながら本作品も品切れです。本屋で見かけたら是非立ち読みしてみてください。雰囲気がよければ是非レジへ。


本について