『未知の地平線』



遺伝子操作の行く末は?

あらすじ

 時は23世紀、遺伝子操作が可能となり、すべての病苦が克服され、人々は自由を楽しんでいた。このような遺伝子を任意管理した自由なユートピア地球社会に4世紀以上にわたる遺伝子操作の結果生まれたエリート種の一人であるハミルトン・フェリクスは、その友人モンロー=アルファ・クリフォードと共に、彼の仕事である統計調査が終わった後の夕食へと向かった。ハミルトンは新たなレストランを試したいということで、そのレストランでモンロー=アルファと共に食事を楽しんでいたのであるが、モンロー=アルファが不器用な手つきで蟹の足を食べようとして、その蟹の足をすべらせてしまったのである。そのすべった蟹の足は他に食事をしていた集団の方へとすべっていってしまい、女性のスカートを汚すことになってしまう。この時代では、武装することが市民の権利として認められており、侮辱された折りには公開決闘を申し込んでもよい社会であった。そういうわけで、いったんは収まりかけていたいざこざが、一人の酔っぱらいのせいでハミルトンは侮辱され、この世紀には珍しい武器で彼の肩を撃ったのである。このささいな事件が実は仕掛けられたものであることを知らず……。

 そしてハミルトンは、遺伝子調整事務所から次の日、呼び出しを受けて、その呼び出しに応じて、彼はその事務所へと向かったのである。そこでは、なんと昨日のレストランの騒動に巻き込まれた紳士がおり、どうやら彼はここの部長で、モーダンという名前であったことが判明した。彼の話によるとハミルトンの遺伝子はエリート種のものであり、彼にその保存のための協力を呼びかけるが、ハミルトンは強制されるのがいやで断る。しかし、その後、彼を待ち受けていたのは、恐ろしい陰謀団の罠であった……。


著者ロバート・A・ハインライン(Robert A. Heinlein)と
作品について

 1948年に書かれた作品で、1986年に早川SF文庫の一冊として翻訳されています。もちろんこの作品が書かれた当時、遺伝子の本体がDNAであることはようやく突き止められたばかりで、まだその構造すら決定されておらず、そのアイディアの卓抜さは群を抜きます。イラストはたぶん後に産まれるであろう、ハミルトンの息子シアボールドと遺伝子の海が描かれた球体と、海が書かれていて、最初買うのをためらってしまった記憶があります。(手に入れたのがつい最近ですので……。)

 この作品は戦前に雑誌掲載されており、1942年4月、5月のアスタウンディング・サイエンス・フィクション誌に掲載されており、ハインラインがフィラデルフィアの海軍造船所に民間技術者として居を定めたのが3月か4月ごろであり、<未来史>以外の作品であったことから、ペンネームアンスン・マクドナルドを名乗っている。 科学的な知識に裏打ちされた、見事な遺伝子操作SFの創始者となったのではないかと思います。

 著者ハインラインについては、こちらを参照してください。


感想

 この作品を読んで感じたことは、ハインラインの卓越したビジョンだと思います。遺伝子操作を扱ったSFとしてはたぶんオリジナルであり、遺伝子操作のためのツールとして、現在の制御酵素とまったく同じ働きをする「遺伝子選択酵素」という話を用いているし、試験管ベビー、キメラ・モザイク、完全な人工生命まで、現在の生命科学の直面する長所と短所を見事に指摘している点は本当に脱帽しました。そのことが顕著に表れているのが主人公ハミルトン・フェリクスの苦悩だと思います。何をやっても人以上に優れていてかといって、スペシャリストになるほどの専門能力がないが、カリスマ性と行動力のあるリーダー型の彼が、人生について考える当たりや、遺伝子操作の倫理性(今話題のクローン人間の問題についても、あてはまる点が少なくはないのですが……。)や、そのような処理を受けずに自然に人間として生きる人々と、不思議な社会機構、男と女の間の結婚に対するドライな考え方、個人の権利の尊さなどの問題が軽快なテンポで描かれていて、要所要所にハインラインによる遺伝子についての説明などもありますが、その部分を含めても、重要な問題を取り扱った名作だと思います。たぶん停滞時空間フィールドというのは『夏への扉』で出てくる、コールド・スリープのアイディアの先取りだったのではないかと思います。ハインライン作品の中では他の作品のルーツとなる作品ではないかな?と思います。ちなみに、早川書房によると出版社品切れですが、大手の本屋にはある可能性があるので、チェックしてみてください。(私もそうやって手にいれました。


本について