『星虫』感想めも |
岩本隆雄『星虫』(新潮文庫)を読み終えた。第1回ファンタジーノベル大賞の最終候補作だ。夜読みはじめて、一気に読み終えてしまった。七日間という短い期間で起こった不思議な出来事を主人公達と一緒に楽しむことができた。まさにファンタジーノベルともいうべき正統的なファンタジーだ。全体的な感想として、まあ仕方がないのだろうが、都合がよすぎ(笑)と思ってしまった。どういうことかというと、奴が実は美男子で、コンピューター言語の天才で、金持ちで、世界的な学者の親戚なんてむちゃくちゃ都合よすぎ。ファンタジーでくくってしまえば楽なのだが、ちょっと条件が重なりすぎて、違和感を感じながら読んでしまったことは否めない。でもアイディアはとても素晴らしく、ぼくが無我夢中になって読み終えた点はそのことを証明しているだろう。
主人公の高校生友美は宇宙飛行士にあこがれる優等生。自分の夢をかなえるために彼女は日々精進して、自分の能力を高めようと努力していた。幼年期にあった博学でやさしかった「おじさん」のくれた一枚のメモのメニューに沿って、宇宙飛行士になるという夢をずっと持ち続けていた。そんなある日、友美は流星雨に出会う。その出会いが彼女を巻き込んだ「星虫」大騒動の序幕であったことを彼女は知らなかったのだ。彼女の額には「星虫」と呼ばれる物体が付着し、家族にもまたその物体が付着していた。額につけると人間の感覚機能を増幅させ、眼鏡だった者が眼鏡をかけなくてすむという現象が起こっていた。果たして「星虫」とは何者なのか?人類の敵なのか、それとも味方なのか?寝太郎というあだ名を持つ終始寝てばかりいるやぼったい同級生広樹とともに、星虫の最後の所有者となったとき、全世界を巻き込んだ冒険がはじまったのだった。
主人公の少女友美の夢である「宇宙飛行士になること」が軸になった見事な構成。天空からまるで神のように人類に降り注いだ星虫たちは、神の使いともいっても過言ではない生き物だった。普段我々が気づかない「地球の声」が聞き取れるようにもなったのだ。地球の苦しみ、うめき声、人類が発展して急激に減少していく生物多様性。星虫は人類のエゴによって滅ぼされようとする地球の代弁者としての働きもしたのだった。実は人類が宇宙船地球号に乗って生活していることを考えさせられるエコロジーSFでもあるのだ。増えすぎる人口問題などなどを解決するためには、宇宙ステーション計画を実行しなければならないと。人類自身がミクロコスモスを持っており、新たな世界をつくる可能性があると。ガン細胞のたとえが面白い。
そして星虫の正体には驚かされた。五感を増幅させるという点でピンときた人も多いかも知れないが、つまり彼らの正体はこの星虫事件が起こる前に遡るある宇宙船遭遇事件に関係したものだったのだ。広樹と友美が立派に育て上げた星虫はとんでもない能力を持つ生き物だったのだ。それも人類の救世主として活躍してくれる可能性のある生物だったのだ。星虫を最後まで育て上げた人にしかわからない真実がそこにあった。謎の星虫の正体、星虫への恐怖、一種のパニック状態になったときに友美と広樹だけが星虫の存在を信じて、巨大化した彼らを額につけたままにしたことは、信じる心を持つことが重要なのだ、ということをぼくたちに示唆してくれている。信じることこそが世界を変えるのだ。
正統的なSF・ファンタジーともいってもいい話だ。これが7日間の出来事だとは思えないスペクタクル大作といっても過言ではないかと思う。氏の作品は他に『イーシャの舟』という本が新潮文庫から出ているので読んでみたいと思う。