『鏡の影』感想めも


 異端の学僧である農民の息子ヨハネスが伯父の家で知った秘密。それはユダヤの秘義カバラに関係するものでした。その秘義を求めて主人公ヨハネスは様々な苦難や不思議を体験することになります。冬の寒さ、親知らずの抜歯が元で悪化した傷によって死の縁をさまよったヨハネスは不思議な少年シュピーゲルクランツと出会い、ある契約をします。その契約とはまるでゲーテの『ファウスト』の中にあるメフィストテレスとファウストの取り決めのようです。ヨハネスが探求しようとするもの、それを手に入れた瞬間、献身的に仕えていたシュピーゲルクランツがヨハネスを支配する、というものです。ゲーテの『ファウスト』では魂だったものが、「世界を変える真実」になっております。

 その後ヨハネスとシュピーゲルクランツとのドイツ遍歴が始まります。時は丁度、ルター派などのプロテスタントが出てきたころ。ローマの権威は失墜し、ドイツの内部はプロテスタントとカソリックで分裂しております。そんな中を主人公のヨハネスは真実を求めてさすらいます。シュピーゲルクランツに最初に誘われたのはある伯爵の領地でした。そこの女主人の不眠症を解決したヨハネスは城で色々と相談をする役として活躍するのですが、そのうちに領主の幼い娘に恋心を抱きます。跡継ぎであるフィヒテンガウアーに憎まれながら、ある事件がきっかけとなり彼は逃亡者になります。それからが実に暗黒時代のドイツ、教皇の雌牛といわれたドイツの堕落した雰囲気をさまよい歩く様が書かれていきます。これは凄い。ごろつきから腐肉食いまで、魑魅魍魎となった人々がヨハネスたちの行く手を遮ったりします。しかしながらヨハネスは自分の求めた真実の旅を続けます。

 これ以上は書きませんが、不思議な存在やワルプリスキの夜など幻想的で怪奇的な シーンも出てきますし、そして奇蹟の出現やイタリアで恐怖政治を震ったサヴォローナをたぶんモデルとした形で宗教的狂信者の存在など読んでいる人を飽きさせないです。ここで何が「異端」とされるのか?というのは実にあいまいなわけで、所詮正統とか異端とかはその時代や風土、背景によって変わってくるんだということが淡々と描かれています。いかにこの世界が無慈悲で残酷であり、真実を覆い隠しているものか、読んでいるうちにヨハネスの視点へと移り変わり、物語を楽しむことができます。