『影のジャック』感想めも


 Zの人『影のジャック』読了。ファンタジーとSFが見事に融合した傑作。特にジャックのキャラクターが<魔王子シリーズ>のガーセン並みに復讐心が強くてほれてしまった。どうも意志の力で自分の思い望んでいた権力をゲットするという形式の物語に僕は弱いらしい。どこがSFでどこがファンタジーかは読まれるとはっきりするが、とにかく面白いことは保証する。考えてみればZの人の本はまだ共著を含めて4冊しか読んでいなかったが、今回この本を読むことでますますZの人のほかの作品を読みたくなってしまったのだった。(確か自主的に読んだSFでは『光の王』が大傑作で、あの仏教とヒンズー教が入り乱れた不思議な世界に狂喜した記憶がある。いつか再読したいと思っている。)

 <ヘルフレーム>と呼ばれる宝石を盗みにきた<影のジャック>は謀略によってとらえられ、斬首された。その揚げ句の果てに、<堆屍穴>に死体を捨てられたのだ。彼は何度でも生き返ることができ、彼は苦労してその穴から逃れた。そこから逃れた彼は血を啜る生きている石、蛇のような花に襲われ、汚物の土地を抜けてドレクハイム男爵の領地からこうもり王の領地<ハイ・ダンジョン(逆鱗城)>の国境までやってくるが、そこでジャックをわなにはめた張本人こうもり王にとらえられてしまう。ジャックは影を利用できるために、窓も扉もないガラスの部屋にこうもり王は彼を閉じこめたのだった。ジャックはわなにはめた連中に復讐を誓い、この<影の世界>を統一することに燃えるのであった……。

 やはりキャラクター一人ひとりが個性的でとても面白い。主人公の影のジャックは影を自由自在に操れるスタンド(?)能力を持つ男だし、神秘的な雰囲気を持つ友人モーニングスター(彼の正体は最後になって明らかになるのだが)、そして敵役のこうもり王だ。ファンタジー仕立てだと思わせておいて、実はSFだというすごい本だった。実はこの世界は二つに分離している。<陽光界>と<暗黒界>である。<陽光界>は科学技術が発展した我々の世界とほとんど同じといっていい。<暗黒界>はヒロイックファンタジーの世界だ。ジャックは世界を統べる鍵となるコルウィニアの鍵を求めて<陽光界>へと旅することになるのだが、コルウィニアの鍵が実はコンピューター解析からつくられるものというのはじつに皮肉が聞いていていい。諸星大二郎の『孔子暗黒伝』にもコンピューターの磁気テープを神の中に入れるとその内容を説明するというシーンがあったが、それに近いものがある。それくらいこの世界では科学と魔法が隣り合わせになっているのだ。また<陽光界>ではジャックが大学講師であるというのも笑える設定だ。

 その後ジャックはとんでもないことを引き起こすのだが、たぶんゼラズニイ自身がジャックをトランプのジョーカーのような存在にしたかったのではないかと思う。秩序破壊者つまり渾沌をもたらすものとしてのジャックの存在は非常に重要である。<光>と<闇>が一つになるとき、ジャックの存在はなくなるのだ。まあ狂言回しな存在といえば存在なのだが……。復讐をはたし終えたあとの彼はもはや以前の<影のジャック>ではなくほかの影のジャックなのだ。そのあたりが彼の魂のエピソードに現れてくる。そして彼の魂との合体こそが、<光>と<闇>の再統合を意味する。こうして物語はクライマックスを迎えるわけだ。

 大傑作なのだが、不幸なことにサンリオSF文庫という今や廃刊してしまった文庫から出ていたことが残念な限りだ。どこか版権をとって再刊してほしいと思う一冊だ。考えてみると後に読んだ『ロードマークス』もサンリオSF文庫だし。現在入手可能なゼラズニイは少ない。ただ幸いなことにサンリオSF文庫のゼラズニイは古書価としてはそんなに高くなく、高くても1000円くらいで購入できる。もし興味がある方はどこかで入手したり、借りたりして読んでもらいたい。それくらい傑作なのだ。