『闇よ落ちるなかれ』感想めも


 スプレイク・ディ・キャンプの傑作とされる『闇よ落ちるなかれ』の感想です。以前どこかで「この本は面白い!」と聞いて探して入手したのですが、確かに探すだけの価値のある本でした。現代人が苦戦奮闘して、のし上がっていくサクセスストーリーとも読めました。痛快な冒険活劇を読んでいるような気分になりましょう。

 ローマの古代遺跡の調査にきていた若きアメリカ人考古学者パットウェイは激しい落雷を身に受けたと思った瞬間、見知らぬ世界に来ていた。そう、彼は六世紀のローマにタイム・スリップしていたのだ!この世界の住人でない彼はなんとか生き延びようと決意し、生計をたてるために金貸しトマススのもとを訪ね、便利な計算法……算用数字による加減乗除の四則計算を教えることを条件に、パットウェイの計画に出資させる。

 パットウェイはトマススから借りたお金を資本として、蒸留酒の製造……ウィスキーの製造……に挑んだのだ!最初はためらっていたトマススも彼の蒸留酒製造業が成功すると、快く融資してくれるようになった。パットウェイはこの成功にあきたらず、印刷技術の開発に専念し、ついに新聞を発行するまでに至った。一時は異端の魔法をつかっている魔法使いという容疑でとらわれの身に陥るも、持ち前の機転で捕り手から逃れることに成功する。パットウェイはさらに望遠鏡を作成し、手旗信号を教えることで通信社の作成に成功する。考古学者だったパットウェイの望みは「ヨーロッパに暗黒時代が訪れないようにすること」であった。彼は現代の知恵を導入することで、暗黒時代を回避しようと奮闘したのだ。(以後続く。)

 古典的タイムスリップものの傑作とされる理由が本書を読み終えてわかったような気がします。敬愛するポール・アンダースンの作風に非常によく似ているのです。ポール・アンダースンの『時の歩廊』とかを読んでいる人ならばきっとこの作品の世界に熱中できると思います。ディ・キャンプ自身がヒロイックファンタジーの編集や執筆に携わっていた経験も加わり、物語にリアリティとヒロイックファンタジー的な痛快さを加えることに成功したのではないかと思います。

 普通ならば生活のすべを持たない現代人が6世紀のローマで知恵を駆使して生き残るという設定がとても魅了的です。主人公が考古学者という設定にすることで、言語の問題や生活習慣の問題をクリアしているあたりがうまい。ヒロイックファンタジーの設定なので当然麗しき女性たち(?)とのラブロマンスもありますが、こちらは事業や政治ほどはうまくいかないあたりが、スーパーヒーローにはない泥臭さを感じさせてくれて面白いです。もちろん、主人公と金貸しトマススとの二人三脚も見逃せません。実在した人物を含め、どの人物もひとくせふた癖あり、その雰囲気だけでも十分楽しめるのではないかと思います。(個人的にはビサンツ帝国の名将ペリサリウスのキャラクターが好きです。)キャラクターの描写、主人公の思いなどから平和を愛しているのではないかと思われる著者の姿が思い浮かばれるのではないかと思われます。

 過去にさかのぼる型のタイムスリップものが面白くなるための条件は、こまやかなディテールです。未来へ行ってしまう型のタイムスリップものは著者の想像力や筆力で十分フォローできますが、過去型はそれができません。地球を舞台に設定しているときに、特定の場所と時代でタイムスリップものを描くときはその当時の風俗や人々の考え方などが重要になってきます。それらをクリアしてやっと著者の想像力や筆力が生きてくるわけですが、なかなか難しい作業だと思います。ポール・アンダースンやディ・キャンプのタイムスリップものが面白いは、正確な歴史知識に裏打ちされているからでしょう。最後に、この作品ができた経緯については、団精二氏の面白い後書きがあるのでぜひ読んでみてください。