『アリアドニの遁走曲』


イラスト:米田仁士

美少女科学者、東西奔走!

あらすじ

 あたしはヘリーン・アリアドニ、花の16歳の乙女よ。こんなことをいうのも何だけど、ケベックと私たちの国、西部合州国との戦争が激化したので、今は中立州のヴィクトリアに疎開して、パンスンピさんの所で疎開した子どもたちやホームレスの子どもたちのおしめを取り替えたり、子守りをしているけど、あたしは見習い生物学者として、母さんと一緒にGEM生物ロボット計画という重要な軍事研究に携わるほどの能力の持ち主だったのよ。なのに両親は戦争のさなかに、家と仕事からあたしを引き離し、見知らぬ田舎ヴィクトリアに疎開させたことに腹を立てていたのだけど、この疎開先のヴィクトリアのパンスンピさんの家で起こっていることはそのことを超えるくらいひどかったのよ。頭にきたあたしはこっそりともってきたGEMバイオットと実験段階のヒドラを持ってきて、パンスンピさんの家の配管を詰まらせて、脱出計画を密かにたくらんでいたのよ。ところが、いつもきていた両親からの手紙がある時からぽつりとこなくなったので心配だったのだけど、ある日クレアという母のことを知っているといっている女性が、私を食事に誘ってきたの。で、こっそりとパンスンピさんの家を脱出して、その待ち合わせ場所にいったのだけど、そこであたしはクレアさんと話をして、一緒に住まないか?という申し出を受けるけど、やっぱり両親のことが心配になって、パンスンピさんの家から脱出することにしたの。

 で、うまく無事国境を越えて、私の故郷西部合州国にはいって、父と母が住んでいるヒドラ社へと向かったんだけど、自分の家が光襲で黒こげに破壊されていることを知って、かなり動揺したわ。自分の家を調べていると後ろから、背の高い髭面の男があたしに話しかけてきたの。その男はあたしのことを知っているみたいだったけど、知らない人で、信用がおけそうでなかったので、警戒したんだけど、父が生きていることを彼から聞き、かつ彼の身分を聞いてようやく安心したの。で、彼と一緒に父と母のいるヒドラ社に向かったのだけど、そこに待ち受けていたのは、ちょっとこれはどうかと思うわ、ということだったの……。でも、このことはあたしの命がけの冒険の序曲にすぎなかったのよ。


著者コニー・ウイルス(Connie Willis)とシンシア・フェリス(Cynthia Felice)と
作品について

 1989年に書かれた作品で、1992年に早川SF文庫の一冊として日本語に翻訳されていいるの。(ついでにあたし(アリアドニ)が紹介しちゃうわ。)イラストはね、早川FT文庫のアラン史略などのイラストレーターで有名な米田仁士画伯よ。彼については、ここを参照してね。あたしのイメージにぴったりでしょ?そうそうたぶんこのイラストはね、研究所のブロードムーア祝祭のときに着たセクシーなドレスなの。シースルーのギリシャ風ベールに身を包んで、エセックス王子を誘惑しなければならなかったんだけど、でもあたしの好きなジョス・リドルもほめてくれてうれしかったわ……。おっと脱線しちゃだめね。とにかくスキャンしたイラストを見てみて。(^_^)

 あたしの生みの親、コニー・ウィリス女史についてはこちらを参照してね。

 もうひとりのあたしの生みの親、シンシア・フェリスさんを紹介するわ。彼女はシカゴ生まれの女性SF作家で、二人のお子さんがいるの。セールス・エンジニア、テクニカル・ライターなどの仕事の傍らにSFを執筆し始めて、1978年に処女長篇"Godsfire"を上梓したの。オースン・スコット・カートや、C・J・チェリイといった有名な作家も受賞した前途有望な新人に与えられるキャンベル賞の候補作品にもなっているの。コニー・ウィリスとシンシア・フェリスはこの物語の舞台のデンヴァー・スピリングズのモデルだと思われる、コロラド・スピリングズに在住しているわ。彼女らは、家も年齢も近いことがあって(そうだったのね〜!)、作家を目指すライターが集まる創作ワークショップで知り合って意気投合したみたいで、合作を始めたの。で、第一作"Water Witch"を書いているわ。そんなところね。

 さて、ここでアリアドニが疲れたらしいので、私ジョスが補足をしておこうと思う。ちなみにわたしの恋人アリアドニの名前は、ギリシャ神話のクレタ島のミノス王の娘アリアドニと同じ名前なのに気がついたかな?この神話は有名なのであまり補足はしないけど、かの有名なテーセウスのミノタウルス退治に力を貸した王女の名前だ。それから、アリアドニの母親のメディアは、ギリシャ神話では子ども殺しの王女として知られている。(魔女メディアの話は有名かな?)そしてそのメディアを王位から追い出すも、テーセウスである。ミネルヴァはかのパレス・アテネのローマ読みであることに気がついたかな?またヒドラは百の頭を持つ海蛇で、ヘラクレスの冒険行の一つとして有名で、ヘラクレスによって討ち取られた後、岩の下に埋められ、地中で百の頭は地下水脈となり、きれいな水を湧き出す泉となったそうだ。実に我々の創造者がメタファーを隠してくれて、読者をにやりとさせてくれて、わたくしジョスも満足だ。おっと、このページの作者がやってきたようだ、早く本の中に戻らなければ……。


感想

 お、知らぬ間にあらすじと解説が書かれているなぁ。うれしいですね(爆)。 二人に感謝して書評を書きますと、まず女性を主人公とした(それも美少女で機転が利く)点が斬新です。美少女SFはこれまでにたくさんありましたけど、このページの作成者が知っている限り、あまり数は多いとはいえません。しかし、設定でもなんとアメリカ合衆国が解体して、西部合州国と名前を変え、民族問題で分離運動をカナダとしていたケベック州がケベックという国になって、戦争を行っているという設定にはいささかたまげました。著者たちはケベックに対して何かあったのかと勘ぐりたくなってしまいますね。それはともかくとして、他の要素としては、特に家族の絆とその間で揺れる疑心暗鬼と、愛国心みたいなものが複雑に混じりあって、謎の女性科学者クレアの存在によって、この物語は急展開を見せます。この女性は最初の方で出てきて、最後の方で非常に重要な(アリアドニにとっては唖然とする役)キーパーソンで、この伏線にはちょっと唖然としました。でも正義の”白馬の騎士”ジョスと女たらしだけど義理深いエセックス王子の存在は実に面白い。ジョスが冷静沈着でハンサム、かつ便りになるので、まあアリアドニが「一目惚れ」するのはわかりますね。その恋愛感情と家族との関係もこれまた物語の重要な部分になっているので、この当たりを楽しみながら読むのもいいでしょう。とりあえず生物プラントのSF的設定よりもむしろ、登場人物の多様性とその心の動きが実に見事に書かれていて、個人的には実に好きな作品です。後半で出てくるピージャムや赤ん坊の無邪気さとか、クレアの辛辣さとか、実に善と悪がきちんと分けられていて、面白かったです。実際読み始めて、集中して読むことができたので、これは自分の基準から見てもお勧めできる作品だと思います。是非古本屋もしくは本屋で見かけたら、購入を薦めます。


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