『薔薇の荘園』感想めも


 萩尾望都のファンタジックなイラストが素敵なトマス・バーネット・スワン『薔薇の荘園』(ハヤカワ文庫SF)読了。当時FT文庫が刊行されていなかったため、『薔薇の荘園』はハヤカワSF文庫に収録された。もしこの当時FT文庫があったら、FT文庫に収録されていたことだろう。スワンは神話の登場人物や題材をうまく加工して、調理することがうまい作家だと思った。やおい物必読のファンタジー。女性っぽい美少年と荒荒しいハンサムな美少年の間の「愛」の形の描写にはどきりとした。主に神話をテーマに据えているために、少年の間の愛が「ピュア」なものになっているところがイイ。(そんなわけでスワンを読んでいた有里さんに「スワンはやおいですか?」と伺ったのだ。)

 中篇三篇から構成されていて、どれも読み応えがある。この世界には幻想世界の住人とされるユニコーン、グリフォン、マントレークが存在する。そしてその幻想世界の住人たちが重要な役割を演じる。「火の鳥はどこに」はローマの都の創始者とされるロムルスとレムスの兄弟の活躍を描いた話。ファウニ(山羊と人のあいの子)と木の精霊が重要な役割を果たす。ファウニのレムスへの献身的な愛が純粋で素敵。

 『妖霊ハーリド』的アラビア世界を題材にとった「ヴァシチ」がものすごく面白かった。この面白さは、群をぬきんでていた。ゾロアスター教のアフラ・マズダ(光の神)とアートマン(闇の神)の戦いがテーマに据えられており、水面下で神の代理戦争が行われているというのが面白い。キーパーソンとして重要なのが、薬に精通した永遠の少年イアニスコスとクセルクセス王の美しき王妃ヴァシチ。彼らはジン(悪霊)ではないかという疑いをかけられ、逃亡。逃亡の旅の間に「心は大人、体は子供」であるイアニスコスの秘密がわかるのだが、この秘密にはびっくりした。ヴァシチとイアニスコスの役目がなんなのか、この謎に驚きたい人はぜひ読んでみてください。

 表題作「薔薇の荘園」は中世の悲劇とされる少年十字軍をネタにした少年・少女たちの冒険譚。森の中で天使とみまかう少女とであった領主の息子ジョンと家来スティーブンが、少年十字軍に加わるという聖なる目的でロンドンへの旅途中に出会った不思議な出来事を描いた話。スティーヴンを兄と慕う聡明なジョンと荒荒しいスティーヴン二人には、正反対の気質に惹かれあう二人の友情のかたちに美しさがある。彼らは義兄弟の契りを結び、行動を共にしていた。ところがそこに天使のような神秘性を秘めた少女ルースが彼らの旅に加わるのだが、ルースとスティーヴンが仲良くしている姿を見て嫉妬しているジョンがいじらしい。マントレーク族の伝説がさらに彼らの旅に一波瀾もたらすことになるのだが……、それは読んでからのお楽しみ。

 ぜひ読むべきの神話ファンタジー。スワンの作品はFTでも読めるので、時間を見つけて読んでみたい。