『水霊 ミズチ』感想めも |
渚由美は受験を目下にした中学生だった。一見華奢なこの少女はとんでもないものに取り憑かれる能力を持っていた。母親の明美は憑依が起こると彼女を激しく折檻したのだ。そんなある日、東京のある大学から民俗学者と名乗る杜川が母親の明美を訪ねてきた。彼の訪問は明美の祖母が開祖という宗教団体イヅナ教について確かめることだった。明美に当時の状況を詳しく聞いていると、もう一人の男が取材をしたいということで現れた。オカルト雑誌の記者兼カメラマンの戸隠と名乗る男だった。彼によると最近明美の家の回りで怪奇現象が起こるという。それを確かめに彼は取材に来たのだが、明美は不快そうにその噂をもみ消そうとする。しかし二階で娘の由美が憑依されて謎のメッセージを残し、その謎を解決しようと杜川は決意するのだった。そして杜川や戸隠、その他大勢が体験する奇妙でそして恐ろしい事件は始まったばかりだった……。
こういう感じで物語がはじまる。なかなかそそる序盤だった。本の分厚さにもかかわらず、一度引き込まれるとどんどんと読みすすめることができたのは田中啓文氏のストーリーの展開力と構成が素晴らしいからだろう。諸星大二郎氏の有名な漫画の<妖怪ハンターシリーズ>の主人公稗田礼二郎の雰囲気を持つ主人公杜川(要するにフィールドワークを中心にした学者らしくない学者)がいい味出している。ただ、主人公がロリコンっていうのは余計かなとは思った。そうでなくても主人公の嫉妬深い婚約者まゆみだけでも30代に入った女性の焦りが描かれていて見事だと思ったのだが……。確かにロリコンだったから、今の地位にいるというのは分かるんだけれど……。そのお陰で主人公の杜川に対する悪意が芽生えてしまったのが痛い。森山さんが書かれているように、なるほどボードゲームのクトゥルー神話の主人公みたいだという形容も納得。SANが最後にはなくなって廃人(笑)つー黄金のパターンが展開されているし。(読み終えた後、氏のふえたこ日記を読んでみたら「半村良+諸星大二郎」をイメージしていたそうだ。)
主人公の杜川についてはまあそういう人物という感じで読んでいたが、深く感心したのはやはりそのアイディアの巧さだと思った。偶然ではあるがまんがカルテットコンビといわれる四天王の一人牧野修氏も『屍の王』 で田中氏と同じ題材を扱っているが、どちらかというと幻想色が強い。なので思わず比較して読んでしまったが……。アイディアについては田中氏の方が凄い、というかびっくりしてしまった。まさかまさかという気分だったのだが、なるほどそれで黄泉醜女と関係してくるのかと思い納得。いや、読まれた人ならわかると思うが、瀬名氏のPVをも上回る凄いアイディアだと思いました。いや、ぼくは思わずのけぞりましたね。と考えるとちゃんと科学的にもホラーしているわけで、アイディアの面では凄いと思いましたね。
意図して狙っていたB級ホラーパニック小説の雰囲気が実によく出ていて面白いと思ったのだが、もったいないと思った面もかなりあった。話が諸星大二郎的過ぎたとうこと、だからもし諸星大二郎の漫画を読んでいる人がいたら、なるべくそのことを消去して読むべし。むしろ怖かったのはまゆみだった、という人がいたかも(笑)。えーっと、今まで読んだ作品で『水霊 ミズチ』を形容すると『バカージマヌパヌス』+『PV』+<妖怪ハンターシリーズ>+『暗黒神話』+『リング』ということになるかなぁ。ということで、面白かった。お薦め。