『ムーンドリーム』 |
カバー:米田仁士世界の果てには何かがある?そんな思いに駆られて、薬師の娘カイエオールが、婚約の夜に幼なじみのターシェと共に世界の中心を流れる<河>から筏に乗って出発していった。その途中で彼らはいろいろな出来事に遭遇し、果てには非常に近代化された高度な文明を持つ<ドーム>世界であった。カイエオールはそこで、行方不明になった母親に再び出会い、<河世界>と<ドーム世界>の違いを知ることになる。彼女の母親ナラはそこでは、高い地位を得た監督官であった。そしてそこで、カイエオールとターシェは婚約の夜に見られる、<ムーンフラッシュ>の意味を知る。その<ムーンフラッシュ>とは宇宙船のフレアであり、<河世界>の監視人が<ムーンフラッシュ>が<河世界>の住人たちが宗教的な意味で利用していることを知ると、定期的に宇宙船を飛行させていたという事実を聞かされ、ターシェとカイエオールは愕然とする。そして自分たちが、二度と<河世界>へと戻れなくなることを知るのであった……。『ムーンフラッシュ』より。
その差に愕然としたカイエオールとターシェは<ドームシティ>で訓練を積み、幸いにも薬師の娘として夢見の能力を買われて<ドーム>の惑星調査員に抜擢されることになり、一方ターシェは自分の住んでいる世界の意味を自分なりに解釈するために、<河世界>の監視員として訓練を積んでいた。<河世界>から出奔した4年後のある日、河の監視員であるレグニー(カイエオールが発見した狩人)とターシェは<河世界>の監視に向かう。そしてその一方でカイエオールはジョス・タッパンと共に、穴居人のいる惑星の文明の調査のために、宇宙空間への旅立つことになる。しかし、カイエオールとターシェを待ち受けていたのは、信じられない出来事であったのだ……。
1985年に書かれた作品で、1988年に日本語に翻訳されています。本作品は前編『ムーンフラッシュ』とセットになった作品で、本作品は前編と合わせて読むことでお勧めいたします。カバーイラストは前作と同じ米田仁士画伯です。<河世界>と<十八の滝>、<屏風岩>を背景に目をつぶった巨大な美女が横たわり、カイエオールとおぼしき少女が満月の夜空の上で飛翔している、という神秘的なイラストです。
読んだ人にはわかるかもしれませんが、カイエオールとターシェのこの物語は実にSF的な物語であることにお気づきではないでしょうか?その後に発表した長篇"Fool's Run"はSF的な長篇であるといわれていますが、特にマキリップの作品でスパイスが利いているのは、<幻想を視る力>すなわち、<幻視>がキーポイントになっているのではないかと思います。事実前作『ムーンフラッシュ』の評価というのは、「登場人物たちの性格づけの厚みと文体の流麗さ、あるいは<河世界>の描写における文化人類学的側面の適切さとともに、文明社会の原始社会の接触がユニークである。」という点で反響があり、本作品は「小品ながら暗喩と象徴性に富んでいて、読むほどにおもしろさが増す。」(School Library Journal)、「ファンタジーとSFとが見事なまでに融合している。」(VOYA)など賞賛を浴びているようです。
著者パトリシア・A・マキリップについてはこちらをご参照ください。
お待たせしました。『ムーンフラッシュ』の続編『ムーンドリーム』の感想です。本作品も<夢>というものがキーワードになった作品になっています。作品の流れも、ターシェの<河世界>での出来事とカイエオールの<宇宙世界>の出来事が交互につづられており、そして最後にはその交錯していたものが一つにつながって、完結するという構造をとっていると思います。まずシンボルとしては、ターシェが「太陽」、カイエオールが「月」のイメージを持ち、かつカイエオールの父親で薬師アイレクインの「夢見による予言/幻視」と<ドーム>世界の高度な科学技術、まばゆいばかりの色彩を持つ<河世界>と単色の世界である<月世界>、水が豊かな<河世界>と砂だけの世界である<月世界>というように、相反する概念をうまく織り込むことによって、物語は語られていくように思います。特に本作品では、<河世界>を出奔して監視員として<河世界>に戻ったターシェの存在、というのは実に重要になってきます。カイエオールの父、アイレクインが熱病によって亡くなる前にターシェは薬師の後継者として、指名される。これは古き伝統から新しき伝統への移行であり、両方の橋渡しとなるような調和そして、戻れないと思っていた<河世界>への回帰という意味では、ターシェの存在というのは実にユニークな存在だと思います。一方、宇宙船が不時着して、謎の宇宙人と接触したカイエオールは宇宙人との接触によって、いろいろと学んでいきます。コミュニケーションの部分は実に面白く、まるでマリノフスキーの話を読んでいるみたいでした。前作が高度な文明とのコンタクトが中心であったのならば、今回は異星人とのファーストコンタクトおよび、<河世界>の新たな伝統への出発がテーマになっているのではないかと思います。
解説にも書かれていましたが、本作品を同じ女性作家であるジェイムズ・ティプトリー・ジュニアの『たったひとつの冴えたやり方』(早川文庫SF)と比較すると、もっと面白くなるのではないかと思います。なお、書評のアップが遅れたのは本作品も残念なことに古本屋にてたまたま入手した、ということもあったからです。マキリップの作品はほとんど絶版もしくは品切れという状態ですので、残念ですが、古本屋を地道に捜索するのがいいかもしれません。