『宇宙探偵ラスティ』


イラスト:米田仁士

スペース・コロニーで殺人?!

あらすじ

 ぼくの名前はラスティ・マクフィー(本当の名前は、エドワードっていうんだけれど、髪の毛の色が錆びた鉄のような色をしているから”ラスティ”って呼ばれているんだ。)、今住んでいるのはICE-3っていう場所なんだ。それ何って?まあ、まあ慌てないで。ICE-3って氷の番号じゃないよ、あわかりきっているって?ごめんごめん。ICEっていうのは「国際宇宙移住計画」の略で、要するに3番目にできたスペース・コロニーのことなんだ。何でこんなことを語っているかって?それはぼくのお祖父さんが1980年代からたまたまSFを書いていて、いつもぼくに「10年後の人々も知っていることにはならないから、書いたほうがええぞ」って言われて、今あの身の毛のよだつようなあの事件について書いているんだ。おじいちゃんはうらやましいっていうんだけれど、実際に体験するよりかは本で読んだほうが絶対いいと思うんだけれど、みんなはどうかな?

 とにかく、事件が起こったのは2018年の7月27日なんだ。その日ぼくは2人乗りのスペース・スクーターに乗って、ICE-3の近くで軌道を描いて回っている小さな生化学研究所に向かったときから始まるんだ。ぼくは生化学研究所(ICEの人たちからはBS工場の名前で親しまれているんだ)でぼくの先生の研究室アントワーヌ・トワイニング博士の実験を手伝っているんだ。相変わらずぼくは、いつもどおり遅刻してしまったんだ。(研究所の運営を管理しているミリーに皮肉られたけれどね。)トワイライト博士に対する遅刻のいいわけを考えていたのだけれど、トワイライト博士と同僚のダーキン博士が口論をしていたんだ。博士の講義を受けた後、ぼくはいつものように廃棄物処理工場のドアをくぐっていたんだ。ここで処理されたものは宇宙空間に何一つ排出されないんだ。用は効率のいいリサイクルシステムをこのICE-3はもっているんだ。ぼくはタイムカードを入れて、中に入って(相変わらず遅刻だったけれども)計器類のチェックを行っていたんだ。いつものように、ごみと糞便の混じった巨大なタンクをぼくはチェックしていたんだ。でも2つめのタンクに行こうとした時、目のすみに何か変なものが映ったんだ。ぼくは「それ」を見て全身が凍りついたようだった。それって死体だったんだよ。眼球が溶けて無くなり、顔はむき出しの肉の塊だったんだ……。ぼくは気分が悪くなってその場から立ち去ろうとしたんだけれども……。紛争処理局に通報したんだけれども、その男の死体は完全に分解されてしまって無くなってしまったんだ。ぼくはこの謎を解くために祖父に相談したのだけれども……。


著者ブルース・コーヴィル(Bruce Coville)と
作品について

 1987年に書かれた作品で、1989年に早川SF文庫の一冊として日本語に翻訳されています。イラストおよびカバーイラストは私の大好きなイラストレーターの一人、米田仁士画伯です。黄色のスクーターに乗ったラスティと後々ラスティの相棒になるブロンドの美少女キャシーがそのスクーターの後ろに乗っているというイラストです。(背景はスペースコロニーICE-3のようですが。)

 著者ブルース・コーヴィルは、大森望さんの解説によると「ニューヨーク州シラキュース生まれ。ニューヨーク州立大卒。その間、墓堀人(Gravedigger)、玩具職人(toymaker)、セールスマンや雑誌編集者として働く傍ら小説を書き始め、フルタイム・ライターとなる。現在は奥さん、子供と3匹の猫、Boogerという名前の犬とともにシラキュースのレンガ作りの家に住んでいるということです。奥さんのキャサリンはイラストレーターで、ブルースの作品にいろいろとイラストを描いているようです。(インターネットからの情報による)いままでファンタスィ、SFを併せて50冊以上の著作があり、主に子供向けジュヴナイルを書いているようです。(<My Teacher Is an Alien>シリーズが最近のヒット作のようです。)


感想

 古本屋でもあまり見かけず、神保町の某本屋で発見して購入したのはいいのですが、その日が雨でぼろぼろになってしまい、泣くに泣けない状態でした。その後、新宿古書センターで発見して、安かったのでまた購入して読みました。ということで私の持っている本書は2冊目のものなのです。前置きはともかく、初耳の方も多いと思います。(私も初耳でした。)ハヤカワ文庫の白背はどちらかというと娯楽的な要素が強く、イラストも豊富で結構イマジネーションを喚起してくれるので好きなのですが、本作品は少年探偵物とはいえ、SFとしてはきっちりと書かれており、そのなぞ解きの要素も含め非常に楽しめました。天才科学者のエルモ・パケット博士の存在はさらに物語を面白くしています。並外れた知識と財力を誇るこの偉大な老人は一見偏屈そうに見えて、じつはとても温かい紳士。ラスティのピンチを助け、事件解決に一石を投じてくれます。そのなぞ解きの過程が実に巧妙な形になっていて、最後は本当にあっと驚く結論となっています。(ネタバレはSF探偵物には禁物なので、皆さん読んでみてください。)過去にもたとえば、エフィンジャーの<ブーダイーン>3部作のようにアダルトなハードボイルド物もしびれるものがありますが、たまにはこういうジュヴナイルでの軽快なテンポを楽しむのもいいと思います。勝ち気な美少女キャシーと好奇心旺盛なラスティ、怪しげな生化学研究所の謎などなど、読んでいてわくわくする気持ちが戻ってくる作品だったと思います。残念ながら本書も絶版もしくは品切のようなので、古本屋を当たってみてください。


本について