『十月の旅人』感想めも |
もとは大和書房(古本屋でよく見かける一冊)から発売され、新潮文庫に再収録されたレイ・ブラッドベリの短編集。1974年の段階で短編集に収録されていない作品群を伊藤典夫先生が訳されたもの。ブラッドベリの残酷さ、ノスタルジア、無邪気な童心と突然訪れる狂気の部分だけを抽出したとしか思えない、まさにブラッドベリの暗黒面を鋭く描き出した恐怖小説といっても過言ではない短編集です。とにかく表題からして「十月の旅人」となっている辺り、すでに『何かが道をやってくる』を思い起こしてしまいました。そう、魑魅魍魎、とくに内なる自分の心の中に潜む彼らが現れて、僕たちの心を狂おしくさせる月でもあるからだ。秋から冬への変化、それはやさしさから冷酷さへの変化でもあるのだと。
うひゃあ、と思ったのは「十月のゲーム」。いきなり度肝を抜かれました。最近思ったことなのだが、ブラッドベリはホラー作家といってもいいのではないかと思うことがしばしばある。この短篇はまさにブラッドベリの狂おしいほどの残酷さを見事に表現しているように思える。ハロウィーンの夜、家族から一人疎外された男(うわべは良い夫婦と思われている)がハロウィーンの夜に起こした「十月のゲーム」とは?そうこの「十月のゲーム」こそが恐ろしい。招待した人々と共に行う「魔女は死んだ」ゲーム。このゲームは闇の中で、魔女を体の各部分を人々にまわすというもの。「魔女は死んだ!これは魔女の○○だぞ!」という掛け声とともに回される生暖かい血なまぐさいもの。後は実際に読んでみて欲しい。最近日本においてもハロウィーンが割と身近なものになってきたが、この短篇の恐怖はまさに夫の狂おしい狂気にあるのだと。
そして「休日」。火星に移住した唯一残った地球人の家族が、火星人の打ち上げ花火を見たときに起こった恐怖。「対象」では『ゲド戦記』を彷彿させる名付けるものと名付けられるものの関係と言葉の力の恐怖を見事に描いた哲学的幻想小説。そして夢とも幻とも思われるある小説家の死の直前に起こった出来事を描いた「永遠と地球」。恐ろしかったのは血友病患者が直面した怪我の恐怖を描いた「昼下がりの死」。そして殺された男の視点から殺人事件を描く「灰の怒り」。孤独の悲しみを見事に描いた「過ぎ去りし日々」。所有者が望むことなら何にでも変化してくれる不思議な物体を描いた「ドゥーダッド」。眠れない男の恐怖を描いた「夢魔」。最後のアメリカ人が遭遇した憎悪への恐怖を描いた「すると岩は叫んだ」だ。印象に残ったのは「十月のゲーム」「昼下がりの死」「過ぎ去りし日々」「夢魔」の4短篇だった。
「昼下がりの死」は血友病患者の方ならお分かりかと思うし、この短篇は特的の病気を使った恐怖短篇になっているからこそ短編集に収録できなかったのだと思う。色々と思うことはあるのだが……。「過ぎ去りし日々」は老いと孤独の恐怖を見事に描いており、その意味では我々すべてに訪れる老いというものに対する恐怖が「自分の声を録音した電話」に託されていて恐ろしいとしかいいようがない。それも恐れを知らない若かりしころの自分の声によってその老いを痛感するという意味で非常に残酷だ。「夢魔」はアイディアが実に素晴らしい。不時着して命が助かった宇宙飛行士が出会った精神体の叫び声が非常に不気味である。そのため主人公は眠れないし、眠れば悪夢の恐怖が襲ってくる始末。ラストもまた実に恐ろしい。その後のストーリーは想像通りの展開になるだろうと。実に巧いと思った。
ブラッドベリの心の中に二人のブラッドべリがいるんじゃないかぁと思う次第だ。