"The One-Armed Queen"感想めも |
Jane Yolen"The One-Armed Queen"(TOR)読了。女神アニタの再来、白き乙女ジェンナもすでに2人の王子と1人の王女の母親となって、主人のカルムとDaleの地を王族として統治していた。主人公Scilliaは片腕の少女。彼女はジェンナとは血縁関係に無い養女だった。多感な彼女は紆余曲折しながら、自分の母親のルーツを探り当て、ジェンナとの絆を深める。その一方で、前のGender Warでは敵国だった男尊女卑の国家Garunとの間に平和のためのとりきめが交わされる。双方の王子を人質として交換することだった。ジェンナたちは幼き次男Jemsonを人質として、海の向こうのGarunへと送り出す。このことが後の騒動に発展するのだが……。
本作品は一応『光と闇の姉妹』『白い女神』(ともにハヤカワ文庫FT・絶版)に続くお話。架空の地Dalesの伝説を軸に、考古学者の時代考証も合わせて物語がオムニバスで進行するというリアリティ溢れるファンタジー作品だ。ヨーレンはリアリティを追求するために、自分でバラッドを作詞・作曲し、巻末にそれを載せている。このシリーズはフェミニズムの色が強く出ていて、女性の力によって男性の行動原理を変えるというテーマが一環として追求されています。後半でジェンナの息子JemsonはGarunの生活によって性格・習慣・考え方を変化させられてしまい、男尊女卑のシンボル的存在、倒すべき敵として描かれます。彼はいわば旧時代の亡霊であり、この亡霊を女性たちの力によって打ち破ることをヨーレンは主人公の片腕の女王Scilliaに託したのではないかと思った。またJemsonは、女王ジェンナと死に瀕したカルム王の両方が魔法の場に隠棲してしまった後、Garunの軍隊の力によって王位を簒奪。兄Corrieを幽閉の身にする。その後、Corrieは逃亡を企むが失敗してしまい、弟によって拷問される。その結果、Corrieは殺されてしまう。一時の怒りの激情に任せて兄を殺してしまったJemsonは悲しみのあまり兄の死体があたかも生きているように処する。日々腐っていく兄の死体と臥所を共にするJemsonの姿は無気味としかいいようがない。ジェンナもこうなることがわかっているのならば、防げたはずなのに敢えて防がなかった。簒奪者Jemsonを倒すことで、Scilliaは女王になる。彼女は多数の血の上に民主制の礎をつくることになる。世界を変えるためとはいえ、善良なCorrieを殺す必要はなかったように思えるのだが……。しかし、「王族」の血筋があることで訪れた不幸なので、その王族の血を排除しなければ新しい政体が生まれないとはいえ、後半のJemsonの簒奪劇は暗い雰囲気に満ちている。
前の2作に比べ、より現実味を帯びたファンタジーになっています。あとやはり思春期の少女の心の葛藤と大人への旅立ちがよく描けているのではないかと思います。そういう意味で前作までとは打って変わり、風変わりな設定(影の姉妹やアーサー王伝説を彷彿させる場面等)を用いることなく、主人公Scilliaの成長譚とした点でヨーレンは新たなファンタジーの可能性を見出したのではないかと思います。翻訳が出て欲しいです。