『大魔王作戦』


カバー:伊達誠

奥様は魔女、旦那は狼男!?

あらすじ

 やあ、こんにちは。ぼくの名前はスティーブン・マチュチェック。ちょっと発音しずらい名前だけど、本名なんだ。これからぼくと妻のヴァージニアのちょっとした冒険譚を話したいと思う。いやー、今考えるととんでもない冒険だったなぁと思うな。え、どんな冒険だったかって?そうだね、今からどんな冒険だったかお話しよう。ぼくと妻のヴァージニアはもともと軍人だったんだ。実はとんでもない戦争で、サラセン教主軍がアメリカの半分を占領してしまったんだ。ぼくたちは教主軍に占領された街トロールバーグに優秀な魔女だった妻のヴァージニアと一緒に潜入して、彼らの魔神を無力化する任務に<半ば強制的に>志願させられたんだ。えっ、ぼくにはどんな能力があったんだって?ああ、まだ言っていなかったんだよね。実はぼくは狼男に変身できる能力があるんだ。この世界は科学と魔法が入り乱れている世界で、まあいわば相互補完の関係に近いのかな?

 というわけで、未来の妻とぼくはトロールバーグに潜入したんだ。そのあたりの冒険譚は『大魔王作戦』を読んでもらうことにしてもらおうかな。でもってぼくたちはうまく魔神を無力化して(ヴァージニアの能力によるものだけどね。)トロールバーグをうまく占領することができた。その後あっけないくらいにサラセン教主軍は敗北して、アメリカ合衆国から彼らを放逐することができたんだ。そんなわけで、ぼくたちは自分の進む道にもどった。トリスミギストス大学にお互い入学し直して、彼女は博士号をとるために、ぼくも彼女と一緒にいたいし、勉強もしたかったので工学部に入り直したんだ。順次万端だった、と思ったのが大間違いだったんだ。あの無能でくそみたいな学長が学生と講師の恋愛は禁止するというふざけた命令を出したんだ。ぼくとヴァージニアは怒り狂ったんだけど、まあしょうがない。でもその後ぼくたちはある事件をきっかけに結ばれることになったんだ。まあ神様のいたずらといっても過言ではない事件だったんだけどね。あのいたずら者にもちょっと感謝しようかなぁ。えっ、どんな事件だったって?まあ、それはやっぱり『大魔王作戦』を読んでみてよ。ほかにもとんでもない事件にぼくたちは巻き込まれてしまったんだから。


著者ポール・アンダースン(Paul Anderson)と
作品について

 1971年に書かれた作品で、1983年にハヤカワSF文庫の一冊として日本語に翻訳された。イラストは伊達誠さん。(ミクスンの『アストロ・パイロット』などで見かけたイラストレーターだったと思う。)白を貴重としたイラストで、中央に美女ヴァージニアが箒にまたがり、使い魔の猫のスヴァルターフがゴーグルをつけて、空を飛んでいる姿が見れます。

著者ポール・アンダースンについてはこちらを参照のこと。


感想

 一年ぶりのポール・アンダースンでした。魔法と科学をうまく合体させた世界を描いたSFの傑作だと思う。スラップスティックな感じが物語全体に醸し出されていて、主人公に感情移入できると思う。もともとこの作品は4つの短編から構成されており、どの短編も一応時系列になっていて、主人公スティーブンとヒロインのヴァージニアが巻き込まれた事件順に読めるので、きりのいいところまでで読むという読み方ができると思う。最初のサラセン教主軍との戦いの話では、ヴァージニアの知恵の部分に、二話めのサラマンダーが町中で暴れる話ではスティーブンの勇敢さが、三話めのインキュパス&サキュパスの話ではお互いの愛が、そして四話目では猫のスヴァルターフの勇敢さと数学者の二人(ボーヤイとロバチェフスキー)、と主人公とヒロインの愛がとても印象的でした。四話目はやはり時代が後になっているだけあって、成熟したアイディアを読むことができて、とても楽しめました。某カルト集団とかとだぶってしまうかもしれませんが、アンダースンはそういう恐怖をもうまくSFにとりこみ、エンターテイメントしてのSFにリアリティを加えているように思えました。今読んでも全然古びていないし、むしろ新鮮でした。実際自分が購入した版は八刷りで、この本の人気がまったく衰えていないことがその人気を証明しているように思えました。

 科学と魔法の取り扱いがまたとても面白い。非科学的な部分を科学的に説明しようとする部分(特に地獄への突入部分)ではなるほどと関心してしまいました。だから非ユークリット幾何学の創始者ともいえるロバチェフスキーをガイドに、そして不幸な天才ボーヤイを猫に取りつかせて、地獄へのガイドにするというのはかなり面白い。地獄の位相がどのようになっているかがわからないため、霊的存在になった二人の数学者をガイドにして、方程式を解かせて軌道をつくっていくというアイディアはすごい。こういう魔法と科学の混合した世界はとても楽しめる。今まで読んできた本はどちらかというと科学オンリー、魔法オンリーの世界だったが(例外は『不思議の国トリプレット』ぐらいかもしれないが)このようにうまく融合した例を読んでしまうと、科学と魔法は紙一重なものという認識が強まってしまう。まあテレビを知らない人にテレビを見せれば、驚かれるのと同じように科学技術も一種の魔法なのではないかと思ってしまった次第だ。

 最近本屋のハヤカワ欄をチェックしていないのでわからないが、たぶんこの名作は読めないのではないかと思う。数年前までは結構本屋で見かけた本なのだが……。読めなくなるのはとても残念だ。ぜひときどき復刊してもらいたい。


本について