『ポストマン』 |


文明国家アメリカは核戦争で(ここらへんが非現実的だが、仕方がない。作品が書かれたのが1985年だから)すべてが崩壊した。あとに残ったのは、大混乱を必死で生き延びた人々の集落と、弱肉強食が支配する廃墟のジャングルだけであった。主人公のゴードンはそんな世界を一人で生き抜いてきた男であった。作品はゴードンが山賊に自分の荷物を奪われるところから始まる。彼はここで自分が記してきた日記、持ち物の大半を失い、命からがら脱出する。しかし、彼は屈辱的な気分に襲われ、彼等のねぐらを襲おうとするが、その途中で山中に遺棄されてた、郵便配達用のジープを発見する。そこで、彼は郵便配達人の死体を見附け、配達されなかったハガキの束を見つけた。彼は読んでいるうちに色々なことを思い、ほとんどいたんでいなかった郵便配達人の制服を来て、ふもとの村に降りていく。
彼はそこで、色々と文明時代の劇、(シェークスピアのマグベスなどなど)をやって村人からの歓待を受ける。ポストマン、その響きは古き良き時代のアメリカを人々に思い起こさせたのであった。彼はそこで、ポストマンとして、ふたたび失われた合衆国を求めて郵便配達人としてオハイオ州全体をさまよい歩き、自らの創作である「復興合衆国」の代理人として、昔のアメリカという古き良き時代の幻想を人々に思い起こさせるよう、奮闘する。
しかし、その半面、肉体こそがすべてというホルニストと呼ばれる、サバイバルニストが存在し、村々を略奪し、人々を惨殺していた。彼はオレゴン州立大学を中心としたコミュニティを中心にリーダーとして奮戦していくが……。その後は読んでみて ください。
1985年に書かれた作品で、1988年に日本語に翻訳されています。ジョン・W・キャンベル記念賞およびローカス賞を受賞しています。前者は最優秀長編に与えられる賞であり、後者はアメリカのSF情報誌ローカスの読者賞のことをいいます。この二つの賞を獲得しているこの作品を書いた著者はいったいどのような方なのでしょうか?
映画版『ポストマン』について最新の情報を入手したので、映画『ダンス・ウイズ・ウルフズ』『ウォーター・ワールド』などで有名な、ケヴィン・コストナ−のインタビューを含めて、記しておきます。(情報は『Screen』10月号より)まず、キャストは、郵便配達人ゴードンがケヴィン・コストナー、将軍(ホルニスト)にウィル・パットン、謎の女性に英国出身の新人オリヴィア・ウィリアムズとなっているみたいです。『ポストマン』のロケ地はワシントン州スポケインから車で二時間あまりのメタリン・フォールズという森と湖で囲まれた小さな鉱山町だそうです。町全体を借り切っての撮影とのことで、迫力がある撮影が楽しみです。そして、当然監督もケヴィンがやっていて、久しぶりに見応えのある作品が見られるのではないかと思います。ケヴィンへのインタビューによると、「特別に神秘的な瞬間が出てくるような映画に惹かれるんだ。この物語も、そういうスペシャルシーンが数カ所ある。それには、自然を背景としたロケ撮影が必要だ。自然の中には魔法の力が潜んでいる。この映画では、ここ(メタリン・フォールズ)のロケを始め、メキシコ国境から50マイルのアリゾナ砂漠にも行ったし、オレゴンにも足をのばした」(『Screen』10月号より引用)
ケヴィンが『ポストマン』を映画化した理由として、「今回の主人公は実を言うとどうしようもない臆病な男だ。重要な手紙を持っているからと言っては、逃げまくる。しかし、周囲の状況から意志とはうらはらに、リーダーに祭り上げられてしまう。スーパー・ヒーローではなく、リアルなダメ男が責任を感じていく過程に、親しみを感じたんだ。ストーリーもセンチメンタルではなく、現実感の重みがある。アメリカが産んだストーリーらしい。ぼくは自分の国を愛している。誇りを持っている。この国のために貢献したいと常に思っているから、アメリカを批判するような内容の作品には出演しないし、ましてや監督など手がけるのは問題外だね。(中略)特にこの男のキャラクターを演じるのは面白い。彼は何に対しても、最良の答えを持っていない。混乱状態のまま、手探りで行動し、周囲の人間を信用しない。人間ドラマとしても、興味のあるパターンだと思う。」(『Screen』10月号より引用)
また、ケヴィンへの「手紙への思い入れ」についてのインタビューは以下の通り。「コミュニケーションの手段の中でも、最もパワフルなのが手紙だと思う。言葉が個人的な顔を持つユニークな方法だ。家にあった昔の父からの手紙などを見ると、思い出とともに、匂いとか声までもがよみがえってくる。小さい頃、郵便配達を待ちこがれていた思い出もある。今では一種の儀式になりつつあるね。」(『Screen』10月号より引用)
デイヴィッド・ブリンといえば『サンダイバー』『スターライト・ライジング』『知性化戦争』(『スターライト・ライジング』はSFで名誉とされるヒューゴ賞とネビュラ賞を、『知性化戦争』はヒューゴ賞を獲得しています。)の3部作で有名です。その他にはミニブラックホールを扱った『ガイア』や、科学と魔法が入り乱れる世界での科学者の活躍を描いた『プラクティス・エフェクト』で有名です。あとハードSF作家G・ベンフォードとの合作『彗星の核へ』などの作品があります。
著者自身は1950年生まれのアメリカの作家。カルフォルニア工科大学で天体物理学と歴史学を学び、さらにカルフォルニア大学サンティエゴ校で天体物理のPH.D.を取得 。NASAにも関係していた科学者作家であります。このように科学的知識に裏打ちされた作品群は非常に理論的に裏打ちされたものも多く、その文体の巧みさで日本でも多くのファンが彼の作品を心待ちにしているといったところです。(私もその一人であるということはいうまでもありません。)
この『ポストマン』では、「理想と現実」がテーマだと思います。古き良き時代のアメリカ、その残像を求める老若男女たち。そして現実を生きる人々。それらの思いが日記形式、追憶形式でかたられていきます。映画的にいえば、『ザ・ディ・アフター』の核戦争が終わった後、人々が幽鬼のように弱りながら死んでいく世界が描かれましたが(印象的だったのは戦争前と戦争後の老人の変容)ポストマンの世界はさらにその先だと考えていいです。
『ポストマン』では、利己主義者で残虐な「ホルニスト」が徹底的な悪者として描かれています。ゴードンは逆で、はったりから始まった「アメリカ合衆国復興の夢」の実現者として、大きな渦に巻き込まれています。似たようなテーマがモダン・ホラーの第一人者であるスティーブン・キングの『The Stand』で描かれています。スタンドの世界では、凶悪なペストが流行し、アメリカ全土が滅びていきます。しかし、それは超自然的な要素が働いており、黙示録でいう「ペイルライダー」による破滅、最後の審判であったといえます。ここで、善の勢力と悪魔的な力を持つ男によるソドムを思わせるような悪のコミュニティーに別れ、善の勢力と闘うことになります。どのように別れたかというと、「人々の夢・生き方」です。まあこれも是非見てみてください。なお本書は改訂版としてハヤカワ文庫SF1220として復活しました。その情報を付記しましたので、是非ご参考くださいませ。(付記:その後ラズベリー賞二冠という凄い結果となったこの作品を見ましたが、思ったほど悪くはなかったです。)