『quarter mo@n』感想めも |
有里さんのページで取り上げられていた中井拓志『quarter mo@n』(角川ホラー文庫)読了しました。いやあ、これはネット者必読という有里さんの言葉どおりの本でした。恩田陸の『六番目の小夜子』(新潮社)のネット版みたいな印象を受けました。中井氏は第四回日本ホラー長編大賞受賞作家です。『レフトハンド』を読まれた方も多いかと思いますが、臨場感溢れる筆力に思わずやめられなくなること請け合いです。
1999年の夏が何事もなく過ぎたと思われたその夏、岡山県久米原市でその事件は起こった。9月3日未明女子中学生二人が一緒に飛び降り自殺を図ったのだ。彼女らは、「わたしの"Huckleberry Friend"」という謎のメッセージを残したのだ。またその一週間後には立見台中学の女性教師が同じ場所から投身自殺をした。彼女にも謎のメッセージが残されていた。そして、さらに数日後、立見台中学校の4人の生徒の自殺と他殺が確認され、同じように謎のメッセージが残されていたのだ。この謎を解くべく、警察は奮闘するのだが ……。
これだけだとちょっとわからないのですが、実はこの久米原市は政府のプロジェクトによって光ファイバー網が市全体に引かれおり、ローカルでクローズドなネットワークが構築されている環境にあります。この中で市民は勝手にBBSやページをつくり、自分たちの小世界を作り上げているという感じになっています。新しい技術を瞬く間に吸収した中学生たちは、月の帝国なる小世界をつくって、自由気ままにチャットを楽しんでいるという設定がニフティのホームパーティ的で面白い。
でもその小世界の中ではさまざまな悪意や「自然に形成されたルール」なるものが彼ら自身を束縛する足枷として働く方向に動いてきます。この自然形成なるルールこそがすべてを物語ることになるわけですが、中井氏のインターネットに対する(あるいはネットに対する)思いが伝わってくるように思えました。
ネットの世界は顔が見えにくく、匿名でも暮らすことができるわけですがその匿名性というペルソナから醸し出される「悪意」や「ルールにコミットする恐怖」、「伝播性」をサスペンス風に盛り上げて、読者を恐怖へと導いていく様は、非常に恐ろしい。東雅夫さんも「電脳世界におけるコミュニケーションの不気味な側面とその本質に肉薄した」点を評価しておりますが、ぼくも中井氏の手法には感嘆するばかりです。
牧野修の『リアルヘブンへようこそ』(廣済堂文庫)とテーマは似ているといえば似ているのですが、アプローチの仕方や伝播の仕方が実に無機質でとてもいやな気分になれます。ネットをやっている人たちは読むべきでしょう。楽しめると思います。