筒井康隆が表紙絵を描いているという豪華な一冊。どちらかというとSFホラーを集めた短篇集で、なかなか面白い話が多い。一番面白かったのは「ヴォミーサ」。こんな馬鹿SFが!と悶絶してしまいました。なるほど某所で「ヴォミーサ」と叫びながら襲い掛かるというネタがあったのはこれだったわけですね。これがなんであるかは、秘密なんですが、知った後脱力すること請け合い。いや、それくらいくだらないんだって。
「オフー」が個人的には怖かったかな。「健康にいいから」といって、知らぬ間に広まっているものって色々とあるんですが、このオフーは不気味。「骨」もいい味出しています。井戸を掘りはじめたら、色々な時代の骨が。掘り進めていけばいくほど新しい時代の骨が!いや、逆転の発想とはまさにこの短篇にあるような言葉で、こういうひねったオチが読めると読者としては嬉しいですねぇ。「こういう宇宙」もよかった。一言でいえばたぶん多元宇宙ものなんでしょうけれども、ちょっと設定を変えるとがらりとオチまで変わってしまうという好例。小松左京は短篇の名手ということをつくづく実感しました。
もしかすると角川ホラー文庫の『腐蝕』と同一内容なんでしょうか?ご存知の方は教えてください。(追記:同じでした。解説が小野不由美という点で違っていました。)「航宙エンジニアとして宇宙に飛び出すことを夢見ている17歳の少女ティナのまわりで奇妙な異変が起こりはじめる。知人は消え、街は異空間に侵食されていく……。異空間との入れ替わりが完了したとき、ティナの身に起こったことは!」
いや、これはすごいです。すげー面白い。先日見たマトリックス的な悪夢の世界が再現されていて感激しました。思わずマトリックスがこのお話を真似したのではないかと思うくらい、似ていたからです。まあ、それはともかくとしてもティナを追い回す黒い影の正体が意外でびっくりしてしまいます。このあたりが竹本健治さんのうまいところなのでしょうが。この黒い影の正体はとんでもないしろものなんですが、確かに今後我々の身にも降りかかってくる可能性があります。もちろんお約束としてティナは美少女(笑)なんですが、男勝りのこの少女の行動力こそがこわいと巻末の解説で新井素子が書いていますけれど、まあシュミッツ的でよかったように思えます。まあ、最近のSFは女性が元気に活躍するお話が多いので、別にひっかかりはしませんでしたが。
世界がだんだんと壊れていくという部分がとても腐蝕していていやな感じです。感じとしては、映像がどんどん乱れてノイズ化して、最後にブラックアウトするという雰囲気じでしょうか。人々が消え、空間が空白化するシーンでわかってしまった人も多いかもしれませんが、その後の展開はとにかく痛快でいいです。もちろん、意外なる敵の正体はマトリックスとは違ってもっと不気味なんですけれども。
表題作の「ぼっけえ、きょうてえ」は内容的にも文章的にも完成されすぎていて、多少展開が読めるきらいがあったのですが、他の短篇群、特に「依って件のごとし」まで読み終わった後、岩井さんのホラー世界にぐんぐんと引き込まれていってしまいました。これら短篇は大半が時代と地方に依拠したホラーなんですが、とにかく文章が洗練されていてその場にいるような気分になってしまいました。岡山弁が物語にアクセントをつけているように思えました。特に「依ってくだんのごとし」を読み終えた後には、思わず種村季広編『日本怪談集』(河出文庫・品切)の中にあるくだん関連の短篇を読みたくなってしまったのでした。
「ぼっけえ、きょうてえ」は器量のよくない女郎が晩を共にした男性客に自分の陰鬱としたこれまでの経験を語るという形式で物語が進行します。女郎の体験は背筋がちりちりとするくらい寒々しい地獄絵図の世界。こんな地獄絵図の世界を生き延びた女郎の語るお話には生々しさと薄気味悪さで満載でした。さらに明かされる女郎の真実の姿を知ったときには、読者は背筋が凍るような体験をすることでしょう。展開が読めてしまう人もいるかもしれませんが、一読をオススメします。
「密告函」も厭なお話です。どちらかというと鏡花的幻想世界に近いといえば近いでしょうが。コレラが流行したときにその見回りをした小役人に起こった災いについてのお話。最初は仲のよかった夫婦がある蟲惑的な占い師の女性と主人公が出会うことによって歯車が狂っていく様子がとても不気味でした。その狂い方は読んでからのお楽しみということで。
「あまぞわい」も男女の情念をこれでもかこれでもかと書き記した厭な伝奇ホラー。諸星大二郎の漫画的な雰囲気がありました。漁師とその妻の身に降りかかった怪奇なんですが、とにかく救いようがないくらい暗い。感じとしてはトライオンの『悪魔の収穫祭』的なホラーといえばぴんと来る人もいるはず。村社会の閉鎖性を見事に逆手にとったうまいホラーだと思います。
今回大傑作だと思ったのは「依って件のごとし」でした。いや、幻想文学56号でも特集をやっているから、というわけではないのですが(笑)。これは傑作でした。件を扱った怪談はたくさんあるんですが、今後件アンソロジーができたときには確実に収録されるであろう逸品です。呪われた場所で死んだ母親を持つ二人の兄妹が引き離されるとき、妹が体験する不思議な出来事を描いたお話です。この話はそんなに後味はわるくないし、このラストには満足したんですが、すごく不思議なお話でした。「くだん」とは何か?と思った人は是非読むべし。ついでに幻想文学56号にはくだんについて岩井さん御自身が語られていますので併せて読むと吉でしょう。
村社会の閉鎖性をうまく利用した見事なホラー短篇集だと思います。なるほど、日本ホラー小説大賞を受賞したのは周知が認める事実でしょう。岩井さんの他のホラー作品がすぐに読めたらいいなと思う次第です。
タニグチリュウイチさんから譲っていただいた酒見賢一『聖母の部隊』(徳間ノベルズ)読了。あの『後宮小説』の酒見賢一さんの「SF短篇集」である。この本の存在を知っている人は意外と少ないように思える。ノベルズという形態のせいもあって、現在品切れ中の一冊。酒見さんのイメージはどちらかというと史実ファンタジーの書き手として認知されているが、この本を読んだ人は「ああ、酒見賢一ってSFマインドに溢れた作品を書く人だなぁ」と思うことだろう。
「地下街」はRPGをやっている人にとってはニヤリとしてしまうような短篇。大阪弁を自在に操るホモセクシャルのドイツ人殺し屋と主人公が地下街に生息するという悪魔王を殺すという話。RPGに対する皮肉とも取れるこの短篇は常識の枠にとらわれない発想で成功しているように思える。「ハルマゲドン・サマー」は最後の夏を過ごす恋人たちの会話が切ないいい短篇。
「聖母の部隊」は酒見賢一さんの本領発揮といっても過言ではない。敵の部隊に惨殺された原住民の子供たちを白人傭兵の女性が屈強な兵士に育て上げるというお話。当初は語彙が少なかった主人公も学んでいくにつれ、世界がもっとクリアになってくる。お母さんに引き連れられた少年たちは当初疑問も抱かず、お母さんと一緒に闘い、苦楽を共にする。しかし成長するにつれ、噴き出す矛盾が少年たちとおかあさんを苦しめる。しかし相克を超えた後のお母さんと少年たちの姿には感動すら覚えてしまう。ただのコンバットアクションの短篇ではない。人間性や社会の辛さなどを見事に描ききっていると思う。ある種、ギャフンなオチではある。
「追跡した猫と家族の写真」は読了後、おセンチな気持ちになってしまった。怪奇現象や超常現象を研究している主人公は4000キロの距離を移動したペルシャ猫について取材をする。そのとき、その家の美しい少女に恋をすることになるのだが……。小松左京の「霧が晴れた時」をたまたま直前に読んでいたので、ネタは割れてしまっていたのだが、泣けるいい話です。
SFマインド溢れる、というのはこの短篇集にふさわしい言葉だと思う。酒見賢一さんがSFマガジンで短篇を書いてくれることを(タニグチさんと同様)切に願ってやまない。
太田忠司編著『悪夢が嗤う瞬間』(ケイブンシャ文庫)読了。テーマ別ホラー、ショートショート集。ショートショートの妙味が凝縮されていて、とても楽しめる一冊。ショートショートを読むということは、万華鏡を覗いている感覚に似ている。ひとつひとつのアイディアをショートショートでまとめあげるということは、とても大変なことだと思う。それは横田さんや星さんの短篇集を読んでいると感じるように、どのようにオチを考えるかということにつながるからだ。本書も「記憶」など題材が与えられた上で、各作家さんたちが名料理長としてその題材に味付けをしている。この味付けには辛いものもあれば甘いものもあるし、程よいものもある。各人の個性が出ていて読んでいて楽しかった。個人的に印象に残ったのは、津原泰水さんの短篇群だろうか。幻想的なテイストながらも、印象に残ったものが多かった。